41章

その後――。


アンもドラム缶風呂に入り(もちろんマナに脱がされた)、2人はマナの用意した食事を取ろうとしていた。


「さあドンドン食べちゃって!!! おかわりならいくらでもあるよ」


「おおッ!!!」


マナが弾んだ声を出し、アンとキャスが料理を見て歓喜の声をあげる。


プラスチック製のテーブルの上には、野菜たっぷりのスープと、盛りつけられた肉が並んでいる。


キャスが、喜んでいたと思ったら急に真面目な表情になり、一応何の肉を使っているのかを訊いた。


それは、カエルやヘビとはいかないまでも、何かグロテスクな生き物の肉かもしれないという警戒からだった。


「これは白鹿ホワイト・レインディアの肉だよ」


白鹿ホワイト・レインディア――。


全身が白い毛でおおわれた、この地域に生息する野生動物。


大人しいためか、主に食糧として狩られ重宝ちょうほうされている。


2人が食事に手を付けようとすると、ガレージテントの外から声が聞こえた。


「お~い、マナの嬢ちゃん。ちょっといいかい?」


それは、この駐屯地ちゅうとんちにいる反帝国組織バイオ・ナンバーの兵士の声だった。


マナがアンとキャスのことを、彼らに説明すると言って出て行こうする。


それを見たアンとキャスは、互いに顔を見合わせてマナと一緒に外へ出ようとした。


「いいよ、あたしだけで。2人はニコと一緒にご飯を食べちゃって」


「いや、実はエヌエーから手紙を預かっているんだ」


アンはそう言うと、荷物から封筒を出した。


そして簡単だが、アンはマナに説明をした。


エヌエーとは、反帝国組織バイオ・ナンバーの兵士の女性。


銀髪の彼女と坊主頭のブラッドは恋人同士で、シックスの幼馴染であるということを伝えた。


「知ってるよ。だって、あたしとニコをここへ送ったのってその2人だもん」


「そうか、なら話は早い。ともかく今はバイオ・ナンバーの現状を、ここの兵士たちに伝える義務が私たちにはあるんだ」


話が終わると、3人はテントの外へ出ていく。


その後ろを、ニコがヒョコヒョコとついて行った。


それから、この駐屯地にいるすべての兵士たちを集める。


集まった兵士たちは、ストリング帝国の女将軍であったキャスの姿を見て身構えたが、アンがエヌエーからの手紙を見せると、彼女がもう帝国の将軍でないことを理解した。


アンは、エヌエーの手紙を偽装ぎそうした物と誤解されることに心配をしていたが、彼女――エヌエーの書く文字は非常に達筆たっぴつであり、それを模範もはんすることは並大抵のことではなかったため、問題はなかった。


それからアンは、バイオ・ナンバーの今を静かに説明を始めた。


組織のリーダーであったバイオにの死や、ストリング帝国との激しい戦闘――。


説明の最中にキャスが、メディスンの裏切りの話をしようとしたが、アンがそれを止めた。


今はうまくやっているのだから、そのことを言う必要はない。


そのときのアンの目は、そう物語っていた。


バイオの死を聞いた兵士たちは、皆涙を流し始めている。


それを見ると、彼が組織全員にしたわれていることがよくわかった。


そんな兵士たちを見て、アンは思う。


……気持ちはよくわかる。


私もモズさんや、レス、ストラ……リードを失った。


私の家族はもうグレイとニコだけだ。


グレイ……早く会いたい……。


アンの説明を聞いたバイオ・ナンバーの兵士たちは、一度シックスたちがいる本拠地ほんきょちへと戻ることを決める。


この駐屯地を引き払い、移動の準備があるため、出発は明日の朝にする予定となった。


兵士たち全員が、マナはアンと一緒にいくことを聞くと、悲しそうにしていた。


だが、すぐに優しい声色になり、全員が笑顔になった。


その様子を見るだけで、マナがここの兵士たちに愛されていたのがわかる。


……マナはどこへ行っても人に好かれる。


あのときの子供たちもそうだった……。


アンは言葉をわし合うマナと兵士たちを見て、そう思った。


一通り話が済むとアンたちは、マナのガレージテントへと戻ることにする。


「料理が冷めてしまうのは残念だったけど、ここの兵士たちが良い人たちでよかった」


アンがそう言うと、キャスも両腕組んでうなづき、ニコもそれをマネしている。


「大丈夫だよ。冷めちゃったってあたしの力でチョチョイのチョイだよ」


「炎を操る力を使ってか?」


マナはそれを聞いて驚いていたが、その後にキャスが自分にも水を操れる力があることを話すと、何故か嬉しそうな顔をした。


「うわ~そうなんだ! もしかしてシックスとあたし、それからキャスは遠い親戚なのかもね」


そんなことを話しながら進んでいると、何かに気がついたマナが言う。


「そうだ! あたし、ちょっと先に行っているね。ご飯を温め直しておきたいから」


飛び出していくマナ。


それからアンたちは少し遅れて、マナのガレージテントの中に入ると――。


「な、何だ!? どうしたんだ!?」


マナがひざを地面についてうろたえていた。


プラスチックのテーブルの上にあったはずのスープや肉が、すべて食べ尽くされてしまっていたからだった。


「誰よ!? せっかく2人のために作ったのにッ!!!」


地面に膝をついていたマナは、そのままうつむいて悲しい叫び声をあげた。

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