31章

その場にいた者すべてが、アンとキャスの前に出てきたストリング帝国の戦闘車両――プレイテックに注目していた。


運転席と助手席から、帝国の兵2人が降り、後部座席のドアを開く。


車内から帝国の制服に身を包んだオールバックの男――ノピア・ラシックが現れる。


周囲にいた機械兵――オートマタたちが、ノピアを守るようにその周りを囲い始めた。


ノピアは、首に巻いた黒いスカーフの位置を直すと、キャスに声をかける。


「無事で何よりだったな、キャス将軍。突然行方不明になってしまって、私も心配していたんだ」


キャスは、その言葉に表情を歪めた。


元はといえば、この男のせいで反帝国組織バイオ・ナンバーに捕まったのだ。


「ふざけるのも大概たいがいしろ、ノピア将軍。すべてお前が仕組んだことだろう」


キャスがにらみつけながら言うと、ノピアは身に覚えがない様子で、あごに手をやり首をかしげる。


「はて、一体なんのことかな? 私には将軍の言っている意味がよくわからんよ」


「しらばっくれおって。お前は忘れたのか。我が帝国の軍律ぐんりつでは、味方への攻撃は重罪だぞ」


そう言ったキャスは、手に握っていたピックアップブレードを、ノピアに向かって突き出した。


ブレードのつかから、白く光る刃がノピアへ向けられる。


「今回でのことはすべて皇帝に報告させてもらう。覚悟しておくんだな」


静かな物言いだが、迫力があるキャスの言葉。


ノピアは、右手を頭にやり、うつむきだした。


その様子を見たキャスは、勝ちほこった顔をする。


「せいぜい自分したことをやむがいい」


吐き捨てるように言ったキャス。


だが、ノピアは急に大声で笑い始めた。


「気でも狂ったのか? なにがそんなにおかしい?」


「失礼、ちと下品だったかな。キャス将軍、それなら私も皇帝に報告させてもらおうか」


「お前がなにを言おうが無駄だ。そこにいる兵士たちも見ている。言い逃れはできんぞ」


「それなら問題ない。彼らはもう人間じゃなくなる・・・・・・・・


ノピアの台詞せりふを聞いた帝国の兵2人が、あたふたしながら訊く。


「あ、あのノピア将軍。キャス将軍は我々を裏切ったのではないのですか?」


「それに、我々が人間じゃなくなる・・・・・・・・とは一体……?」


帝国の兵たちが言葉をはっした瞬間――。


急速に変化していく筋肉と骨が、メキメキと鳴ったかと思うと、今度は金属同士がぶつかり合う音が鳴り始めた。


そして、一瞬で二人の姿が白い鎧甲冑よろいかっちゅうへと変わる。


「オオオアァァ!!!」


機械化した2人のデジタルな咆哮ほうこう


機械人形――オートマタの姿になった。


「マシーナリー・ウイルスだ……」


アンが後退あとずさりしながらつぶやいた。


その表情には恐怖の色が見て取れる。


「これでもう心配はいらないな」


「貴様!! 自分の立場のために側近そっきんを!!!」


キャスが軽蔑けいべつの叫び声をあげた。


笑みを浮かべたノピアは、キャスの横にいるアンの姿を見て言う。


「アン、君もいたんだな。丁度よかった。ふむふむ……。では、こういうシナリオはどうだろう?」


ノピアは両手を広げて、演説でもするかのように話を始める。


「キャス将軍は、脱走したアン・テネシーグレッチを見つけて、反帝国組織バイオ・ナンバーへ寝返ったというのは?」


ノピアが言うに――。


完全に機械化せず、自我をたもったままオートマタの力を使えるアン。


その力に目がくらんだキャスは、力を自分のものにするため、アンと共に反帝国組織バイオ・ナンバーへ――。


というのが、ノピアのいうシナリオだった。


「実際に君たちは仲が良さそうだしな。まあ、報告はそれでいいとして、どうせこの場で君らは反帝国組織バイオ・ナンバーと共に死ぬんだ。なにも気にすることはない」


ノピアが手をあげると、オートマタたちが動き始めた。


後ろに待機していた戦闘車両――プレイテックも砲撃を開始する。


周囲に、轟音ごうおん閃光せんこうほとばしる。


再び機械兵と反帝国組織バイオ・ナンバーの戦闘が始まった。


苦悶くもんの表情をしたアンが、ピックアップブレードを出して戦闘態勢に入る。


その表情を横目で見たキャス。


それからノピアへと向かっていった。


「おい、ノピア将軍。私の力を忘れたのか? なら思い出させてやるぞ」


キャスがピックアップブレードを下ろして、反対の手をノピアへ向かって開いた。

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