32章

そんなキャスの姿を見たノピアは、正面を向いたまま下がっていった。


口元を歪めて、キャスをにらみつけるノピア。


周りにいた機械兵オートマタたちが、ノピアの盾になるように前に出る。


それから即座そくざに電磁波放出装置――インストガンを構えた。


狙いをつけられたキャスの身体から、水流すいりゅうの音が聞こえ、その身をき通った水が包んでいく。


全身にまとった透き通った水が、太陽の光をびて青みをびる。


その姿は大昔の物語に出てくる四大精霊しだいせいれいのうち、水をつかさど精霊エレメンタル――ウンディーネを彷彿ほうふうとさせた。


「早く撃て」


ノピアがオートマタへ指示を出した。


だが、電磁波が放出されるより先に、キャスのかざしたてのひらから、津波つなみのような勢いで大量の水が飛び出していく。


その波に吹き飛ばされていくオートマタ。


しかし、すでにノピアの姿はそこにはなかった。


アンが両目を大きく開けて言う。


「えっ!? キャス、お前も特別な力が使えるのか!? で、でも、さっきシックスのことをあんなに驚いていたじゃないか!?」


「あれは、私以外にも力がある人間がいたことに驚いただけだ。お前の話では外の世界ではめずらしくないんだろう。それよりもノピアを倒す。手を貸してくれ」


キャスの言葉にもちろんうなづくアン。


2人はノピアの乗った戦闘車両――プレイテックを追いかけたが、すぐに機械兵オートマタに囲まれた。


全方位――。


インストガンから放たれた電磁波と、オートマタの白いメタリックな腕が、アンとキャス目掛けて飛んでくる。


2人はピックアップブレードで、それらをはじき返すが、如何いかんせん相手の数が違い過ぎた。


オートマタの白い腕を受けて下がったアンが、キャスと背中合わせになる。


「キャス、さっきみたいにこいつらを吹き飛ばしてくれ」


「ダメだッ!」


キャスは、インストガンを撃ってくるオートマタの心臓部に、ピックアップブレードの白く光る刃を突き刺して返す。


「いま吹き飛ばしたら、他の人間に被害が出る」


「だったら――」


キャスに胸を刺されたオートマタが反撃をしようとしたところを、アンがブレードで打ち返しながら言葉を続ける。


「加減してやればいい!!」


「そんな都合のいいものじゃないッ!! できたらとっくにやっている!!!」


倒しても倒しても現れるオートマタ。


アンとキャスに疲れが見え始めたとき――。


2人の顔に風が吹いたと思うと、目の前にいた機械兵の頭部が蹴り飛ばされる。


その蹴りでひび割れた頭に、突撃銃――ステアーACRのダーツ状の弾体が発射され、オートマタは倒れた。


「大丈夫か?」


シックス、ブラッド、エヌエー、メディスン4人が2人の傍にけ付けた。


「シックス、ブラッド、エヌエー! それと……お前はいいや……」


アンが無愛想にメディスンに向かって言うと、彼は、うぐぐ、としか返せなかった。


エヌエーが困った笑みを見せて言う。


「アン、こんなときにそんなこと言わないでよ」


「いや、大事……悪いことのツケは大事」


アンはつぶやくよう言った。


「そんなことより――」


メディスンは、アンに冷たくあしらわれたため、嫌な顔をしたままだったが考えを伝えた。


こちら――すなわち反帝国組織バイオ・ナンバーの残りの戦力を使って、オートマタや前線にいるプレイテックを足止めする。


その間にアンとキャス、そしてシックスで、最後尾まで下がったノピアの乗るプレイテックに向かう。


シックスが心配そうに訊く。


「だが、それではもたないだろう。敵の数の方が圧倒的に多い」


メディスンは、不機嫌な表情をしたままで何も答えない。


ブラッドが笑顔で言う。


「敵の大将はお前たちにゆずってやろうって話だよ。だからこいつはイライラしたつらしてんだ。ホントは自分が行きてぇんだもんな」


そういって不機嫌なメディスンの肩を叩くブラッド。


メディスンはブラッドの態度に。ますます苛立っていそうだった。


ブラットは気にせずに続ける。


「だからまあ、そういうわけだ」


「どういうわけだ」


シックスが少しあきれて返すと、ブラットとメディスンはそのまま機械兵たちへと向かっていった。


「それにね――」


エヌエーが穏やかな声で言う。


「さっきもそうだったけど、アンとキャスがいれば……。ううん、今度はシックスもいる……。あなたたち3人にならなんとかできるって思うの」


エヌエーは3人にニッコリと笑うと、そのままブラットとメディスンの後についていった。


「だそうだ……お前たちはどうする?」


仲間たちの背中を見ながらシックスが言った。


アンが――。


「当然いく!! あんなことを言われて断れるか!!!」


キャスが――。


「言葉は返さん。私はただ行動でしめすのみだ」


3人は、ブラットたちが敵を抑えてくれている間に、ノピアの乗る戦闘車両――プレイテックに向かって走り出した。

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