28章

シックスは、アンの姿を見て驚愕きょうがくする。


……アン、どうしてここへ!?


ブラッドとエヌエーが逃がしたんじゃなかったのか!?


それに一緒にいるのは帝国の女将軍キャス・デュ―バーグか?


一体なにが起きている!?


逃がしたはずのアンが、今まさにシックスのことを助けようと走り出していた。


「どうやって牢から出たかはわからんが、たかが女ふたりになにができる。さっさと捕えてしまえ」


メディスンは周りにいた兵士たちに声をかけた。


兵士たちは一斉に持っていた突撃銃――ステアーACRを構えて走り出していく。


それから、メディスンはシックスに声をかける。


「なあ、あいつらはバカか? 俺がここでそっとお前の背中を押せば、それで処刑完了だというのに。どうみても間に合うわけがない」


表情を歪ませたシックスに、メディスンは言葉を続ける。


「安心しろ。あのふたりもすぐにあとを追わせてやる。お前をキメラに食わせたら、次はあいつらをこの穴に叩き落とす」


人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていうメディスン。


シックスは何も言い返すことができなかった。


巻き込みたくなかった人間が、今自分を助けるために戦っている。


彼は、それだけで胸がめ付けられていた。


メディスンは、苦しそうなシックスを見て満足していると、まだ兵士が残っていることに気がつく。


「おい、ここはいいから早く脱走した女たちを捕らえに行け」


残っていた兵士2名は、メディスンの言葉にうなづくと被っていたヘルメットを投げ捨てる。


そこには、坊主頭の男と銀色の髪をした女二人が立っていた。


ブラッドとエヌエーだ。


メディスンは二人の姿を見て、咄嗟とっさに拳銃を構えようとした。


「おっと、動くなよ。ちょっとでも変な動きを見せたら躊躇ちゅうちょなく撃つぜ。エヌエー、シックスの拘束をくんだ」


ブラッドはステアーACRの銃口をメディスンへ向けて、してやったという顔でエヌエーに言った。


うなづいたエヌエーは、持っていたかぎを出し、シックスの両手両足に付けられているかせを外していく。


「ごめんね、あなたは怒るってわかっていたけど。あの娘……アンにのせられちゃったの」


「バカなことを……」


そういうシックスは涙ぐんでいた。


シックスは、その顔をブラッドとエヌエーに見られたくないのか、うつむいてしまっている。


ブラッドが言う。


「へへ、そういうと思ったよ。俺たちだってこんな大胆なことをするつもりなんてなかった。だけど、いまはやってよかったと思っているぜ。なあ、エヌエー」


「うん」


笑顔で言う2人。


拘束を解かれたシックスは、自分の身体の動きを確認するかのように、腕や足をらし始めた。


そして、下げていた顔を上げてつぶやくように言う。


「ブラッド、エヌエー、ありがとう……。俺は人のえんというのにめぐまれた」


シックスは、アンがいる方向を見た。


そこではアンとキャスが白く光る刃――ピックアップブレードを持って戦っている。


だが、2人とも直接斬りかかったりして、兵士を傷つけている様子はない。


「アン……不思議な女だ」


そして、また呟くように言った。


メディスンが顔を歪めて言う。


「お前たち……俺を殺すならさっさと殺せ。面倒なら目の前の穴に落とせばいい」


「殺さない……」


シックスがメディスンの方に振り返った。


そして、目を見つめて続ける。


「メディスン……お前は自分のしたことをつぐなうんだ。だからもう一度反帝国組織バイオ・ナンバーのために働いてもらう」


「バカが!! 俺はお前のそういうところが嫌いなんだよ!!! 俺はリーダーを……バイオの親父を裏切って死なせたんだぞ!!!」


「親父もそれを望んでいるはずだ。俺たちの親父・・・・・・はそういう人だっただろう」


そう言われたメディスンは、何も返せずにただうめくだけだった。


そのとき――。


外で見張りをしていた兵士が、シックスたちの前に走り込んできた。


その兵士は息を切らしながら、目の前に状況を把握できないでいる。


「こ、これは一体どういう……?」


「どうした、そんなに慌てて。外で一体なにがあった?」


メディスンが、落ち着いた様子で兵士に訊いた。


兵士は混乱したまま、大声をあげる。


「そ、外にストリング帝国の戦闘車両プレイテック10台と機械兵100体が現れました!!」


それを聞いたその場にいた者たちは、全員顔を歪めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る