29章

荒廃こうはいした街を進んでいくストリング帝国の戦闘車両――プレイテック。


その周りには、特異な形状の鎧甲冑よろいかっちゅうのような姿をしている人の形をした機械人形――オートマタがインストガンを構えて歩いている。


およそ100体はいるオートマタのメタリックな白い装甲が、陽の光に当てられ輝いていた。


指揮をしているのストリング帝国の三将軍の1人――ノピア・ラシック。


「あのメディスンとかいう男は、うまくやってくれたようだ」


後部座席に座っているノピアの歪んだ口元があがる。


最後尾さいこうびを走っているプレイテックの中には、ノピアの他に2名の帝国兵がいた。


「はっ! リーダーのバイオは先ほどの戦闘ですでに死亡が確認されました。今がまさに好機こうきです」


助手席に座っている兵士が、張りのあるはっきりとした口調で答えた。


それから、その兵士がノピアに訊く。


「それにしても、本当なのでしょうか? あのキャス将軍が反帝国組織あちら側についたというのは……」


そう聞かれたノピアは、あからさまに不機嫌な表情になった。


そして、ふてくされたまま、首に巻いている黒いスカーフの位置を直し始める。


「私の言うことが信用できないのか?」


高圧的な態度で、兵士に向かっていうノピア。


兵士は「そんなことは……」と、弱々しく返すことしかできなかった。


「私の作戦通りなら、反帝国組織バイオ・ナンバーの連中は安心しきっているはずだ。まさか取引した相手に攻撃されるとは思ってもみないだろうからな」


ノピアは、そう言って笑みを浮かべると、大声で高笑いをした。


――その頃反帝国組織バイオ・ナンバー本拠地ほんきょちである地下では、解放されたシックスが兵士たちに叫ぶように語りかけていた。


メディスンが、敵の将軍であるノピアにだまされていたことを伝え、その誤解から自分を処刑しようとしたこと。


シックスの後に続いて、メディスンもその話が正しいと、兵士たちへ言った。


その話を聞いた反帝国組織バイオ・ナンバーの兵士たちは、アンとキャスに対する攻撃を止めて、シックスとメディスンが立っている舞台の方を見る。


兵士全員が2人に注目すると、メディスンが外にストリング帝国の軍勢が来ていることを伝えた。


「これはリーダーであるバイオ……親父のとむらい合戦だ。全員戦闘準備が出来次第、陣形を組んで帝国の軍勢を撃退しろ!!」


兵士たちは、一斉に整列して、この地下の出入り口へと向かって行く。


その一人一人の表情には、怒りと悲しみが入りじっていた。


その顔を見るだけで、リーダーであったバイオが、皆にしたわれていたのがわかる。


これでいいのか? という表情でシックスを見るメディスン。


に落ちない顔をしながらも、ブラッドとエヌエーに連れられ、兵士たちの後について行った。


「シックス!」


アンがシックスのいる舞台へと走り込んできた。


その後ろには、キャスもついて来ている。


シックスはアンに見つめられると、顔をらしてしまった。


「アン……すまない。巻き込んでしまった上に命まで助けられた……。なんといっていいのか……」


「なにを言ってる!!」


うつむくシックスに、アンが怒鳴り出した。


人差し指を立て、それと一緒にシックスの顔に自分の顔を突き付けて叫ぶ。


「私は怒っているんだ!! 人のことを勝手に逃がそうとして、自分は死ぬつもりだったのだろう!!!」


アンは、口からつばを飛ばし、シックスに食らいつきそうな勢いで続ける。


「ふざけるなッ!! 私がどれだけお前に助けられたかわかっているのか!!! 今度そんなマネをしてみろ!!! 絶対に許さないからな!!!」


「ああ、わかった。もう二度とあんなマネはしない」


アンの言葉に、シックスはひるんだまま、笑みを浮かべて返した。


そんな2人の後ろで、キャスが口元に手を当てて肩をらしていた。


「これは将来には、かかあ天下というやつになるな」


それから、こらえていたのだろう、大声で笑い始めた。


身長178cmある女性にしては長身のキャス――。


彼女の顔と体は、まるで女神の彫刻のように美しいが、笑い始めるとまるで子供のように可愛らしかった。


それを見たアンとシックスも一緒になって笑う。


「あとは任せろ。2人はここにいてくれ」


シックスが言うと、アンが訊く。


「あとって……なにかあったの?」


「外にストリング帝国の軍勢が来ているんだ。俺はこれから前線へ行く」


そういうとシックスは、2人に背を向けた。


その背中は、アンの知っている力強くたくましい彼のものへと戻っていた。


「そうだ、言い忘れていた。2人とも助けてくれてありがとう……」


背を向けたままのシックスは、全身から風を起こして、そのまま出入り口まで勢いよく飛び出していった。

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