24章

何が何だかわからないままアンは、牢屋に閉じ込められた。


武器や荷物はうわばわれたが、特にかせなどの拘束こうそくはされていない。


アンは鉄格子てつごうしから廊下ろうかを見渡した。


そこは、アンがいる牢屋と何も変わらない部屋が並んでいる。


わかってはいたが、ここは捕らえた者を閉じ込めておく場所のようだ。


「マナ、ニコいるか!? いるなら返事をしてくれ!!」


アンが呼びかけるが、その声はむなしく響くだけだった。


……ここにいないなら、マナたちはどこへ連れて行かれたんだ?


シックスもどこへ……。


アンが鉄格子を掴みながらうなだれていると、小さい声が聞こえてきた。


「おい、お前がアンだな」


アンは顔を上げて、その声の主を見た。


そこには坊主頭の男が、落ち着かない様子で立っている。


「誰だお前は?」


「し~静かにしろよ。俺はブラッド、シックスにお前を逃がすよう頼まれた」


「シックスは無事なのか!? それとマナは!?」


大声を出すアンに、ブラッドと名乗った男は小さい声で怒鳴るように言う。


「だから静かにしろよッ! 聞こえたらどうするんだよ!? まったく……。安心しな、そのマナって娘と電気羊は別ルートで逃がしてある。それより早く出るぞ」


それからブラッドはアンをおりから出し、出入り口に人がいないかを確認しに行った。


残るように言われたアンは、他の檻を見ていると――。


「どうしてこんなところに……?」


そこには 金髪碧眼きんぱつへきがんのロングヘアの女性――ストリング帝国の将軍の1人、キャス・デュ―バーグが気を失って倒れている。


両手は厳重げんじゅうに拘束されていて、体中が傷だらけだった。


……キャス将軍……捕まったのか?


じゃあシックスの父親を殺したのは……?


でも、殺したのなら牢屋に入っているわけがない。


いや、あとに捕まったのか。


アンが考え込んでいると、ブラッドが戻って来る。


「よし、今がチャンスだ。行くぞ」


「待って、この人も連れて行く」


アンはブラッドに、キャスの檻も開けるように頼んだ。


ブラッドは、っぱい顔をして返す。


「この人って、こいつはストリング帝国の女将軍じゃねぇか!? なんでこいつを助けなきゃなんねぇんだよ!?」


「このままここにいたら、この人は殺されてしまう。だから……」


「この女は殺されるようなことをしてきた奴だ。俺の仲間が何人この女に殺されたと思ってる!?」


「それを言ったら私だって……元は帝国の兵士だった」


ブラッドは、その話はシックスから聞いて知っていると答えた。


そして、アンとキャスの違いを言う。


「お前さんは、シックスが信用できる人間だと言ったからだ」


「なら、その私がこの人を助けたいと言っている」


「どんな理屈だよ!! っくそ! 言い争っている場合じゃねぇな。しょうがねぇ、そいつも連れて行くよ」


「感謝する。ありがとうブラッド」


「シックスの言う通りだ。無愛想なのに感情的で……」


「なにか言ったか?」


ブラッドは何でもないと言って、キャスの体をアンと共にかついだ。


そして、無事にブラッドの部屋まで逃げ切ることに成功する。


部屋に入ると、こんな地下には似合わない綺麗な肌の銀髪の女性が現れた。


彼女はキャスをベットに寝かせるのを手伝うと、アンを見てニッコリと微笑み、お茶を入れると奥の部屋へいってしまった。


ブラッドは、アンに椅子いすに座るように言った。


差し出された椅子に腰を下ろしたアンは、部屋を見渡していた。


天井と壁には、ランタンがあり、テーブルや椅子、そして端にあるダブルベットにはキャスが寝ている。


圧迫感はあるが、思っていた以上に文明を感じさせる部屋だった。


「お腹がいているでしょ? あまりおもてなしはできないけど、よかったら食べて」


穏やかな優しい声。


先ほどの銀髪の女性が、トレイにお茶とクッキーをのせて持ってきてくれた。


アンは頭を下げて自分の名前を名乗ると、女性はクスッと笑って、もう知っていると返した。


「あたしの名前はエヌエーっていうの。よろしくね」


エヌエーがいうに――。


ブラッドと彼女は、シックスの幼馴染おさななじみだそうだ。


物心ついたときからずっと一緒で、今でも3人は親友同士だと説明している。


その話を聞いてからアンが訊く。


「なぜシックスがあんな目にあわされているんだ? 仲間なのに?」


「それは……」


ブラッドが答えようとしたその瞬間――。


突然扉からノックの音が聞こえた。


ブラッドがアンに黙っているように合図を送ると、扉に向かって答える。


「誰だ?」


「俺だ! リーチだよブラッド!! 大変だぞ! 中に入れてくれ!!」


ブラッドは、悪いが、いま部屋の中が汚すぎて人が入れない状態だと返した。


訪問してきた男――リーチが言う。


「じゃあ、しょうがねぇ」


「それで、大変てのはなんなんだよ?」


「実はな、シックスの処刑が決定した」


それを扉越しに聞いたアンは、思わず立ち上がってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る