25章

物音を聞いたリーチが、ブラッドに訊く。


「おい、誰かいんのか?」


表情をくもらせたブラッドは、冷や汗をかきながら一呼吸置いた。


それから落ち着いて言葉を返す。


「いや、み上げていたもんが崩れちまった。なにしろらかってるからよ」


それを聞いたリーチは、シックスの処刑時刻と場所を伝えると、扉の前から立ち去っていった。


扉の前からテーブルに戻ったブラッドは、憂鬱ゆううつそうに今聞いた話を説明し出す。


シックスは、反帝国組織バイオ・ナンバーを裏切って、ストリング帝国に寝返った。


その結果、リーダーのバイオをふくめた古参こさんのメンバーは全員殺され、やむをなく幹部のメディスンが指揮をとっている。


「裏切ったって……シックスはそんなことをする男じゃない! 実際にここへ来るまで私たちと一緒にいたぞ。そしたら彼らがやられていて……」


アンの言葉をさえぎり、ブラッドがテーブルに拳を叩きつけた。


そして、アンをにらみつけ、苦虫をつぶしたよう顔して言う。


「わかってんだよそんなことは!! あいつが裏切るような奴じゃねぇってことは、俺たちが誰よりも知ってる!!!」


そんなブラッドの肩に手をやり、振り向いた顔を見つめるエヌエー。


それからブラッドは、アンの方を見て頭を下げた。


「わりぃ、俺もなにがなんだかわからなくて……」


うつむいたブラッド。


エヌエーは、そんな彼に寄りう。


アンはそれを見て死んでしまった仲間――レスとストラを思い出した。


……この2人もきっと恋人同士なんだろうな。


態度や仕草しぐさから、それがわかる……。


アンが懐かしさを感じていたそのとき――。


「ここは……どこだ……? 」


キャスがか弱い声を出しながら、目を覚ました。


そんな彼女に、アンが近寄って詳しい状況を説明し始める。


ここが反帝国組織バイオ・ナンバー本拠地ほんきょちであることと、キャスが牢屋に入れられていたところを助けたこと――。


キャスはそれを聞くと、黙ってしまい、何も言わなくなった。


よほど捕まったことが悔しいのか、歯を食いしばっている。


ブラッドがアンとキャスに言う。


「ともかく、今はお前たちを逃がす。もうひとりの娘と電気羊はすでに海の向こうの駐屯地ちゅうとんちに運ばせている。そこなら本拠地の連中も手が出せないから安全だ」


「そうか、マナとニコは無事なんだな」


ホッとした表情を見せるアン。


その横でキャスは、話を理解できずに顔をしかめ、眉根まゆねを寄せて眉間にしわを作った。


明らかに不信感がある顔している。


エヌエーがいうに、マナは「アンが一緒じゃなきゃイヤだ!」と駄々だだをこねて、仕方なく薬で眠らせて運んだそうだ。


「あの娘、よほどあなたが好きなのね」


穏やかな笑みを浮かべたエヌエーの言葉に、アンは照れてしまい、つい視線をらしてしまう。


それを見たブラッドとエヌエーは、クスッと笑ってしまっていた。


先ほどまで暗くなっていた空気が、少しだけやわらぐ。


だが、突然キャスがダブルベットから立ち上がり、扉へ向かって行く。


慌てたアンは、後ろから抱きしめるように体を掴んで言う。


「どこへ行く気ですか、キャス将軍!?」


「ええい、離せ!! 私は戻ってノピアのしたことを、軍に報告しなければいけないんだ!!」


「ノピア将軍もこの地域に来ているんですか!?」


「さっきからお前たちが話しているリーダーの死や、シックスとかいう男の処刑も全部ノピアが仕組んだことだ」


必死でしがみついていたアンは、それを聞いて思わず手を離してしまった。

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