19章

褐色かっしょくの男は、風の中をゆっくりとアンたちの側へと近づいてきた。


身長は2mはあるだろうか。


袖のない胴着のような服の上から筋肉が盛り上がっており、手足には鋼鉄の手甲脚甲てこうきゃっこうを付けている。


ゆっくりと歩いている男に、キメラが飛びかかる。


男はそれをさっと避けると、丸太のような腕でキメラの頭部を掴み、手の平から風を巻き起こしてそのまま握りつぶす。


キメラの頭部が粉々に砕け、まるでトマトが弾けるように真っ赤な液体が飛び散った。


全身が血でめられたというのに、その男の様子は、まるで貴族のような気品をただよわせていた。


「お、お前は……何者だ?」


アンが訊くと、男は静かに返した。


褐色の男は、自分のことを反帝国組織バイオ・ナンバーのメンバーだと答えた。


この場に現れた理由は、以前に放棄ほうきしたこの場所の様子を確認をするためだと説明した。


それから男は、アンとマナに下がっているようにいうと、手甲脚甲を付けた手足を動かして構える。


先ほどのように風を巻き起こして、残ったキメラたちを一掃いっそうした。


アンはその姿を見て思う。


……この男。


自分の意思で風をあやつれるのか?


それにしても強い……。


傷だらけのアンが、その強さに驚いていると、男にマナが声をかけた。


マナは深々と頭を下げ、助けてくれた礼と自分とアンの名前を伝える。


「それにしても大きな体……。あたし、てっきり森のクマさんが現れたのかと思っちゃった」


男の体にベタベタとさわりながら言うマナ。


そう言われた男は、真面目に「人間だ、クマじゃない」と返すと、自分の名を名乗る。


「俺の名はシックス。ここに子供の集団が暮らしていると聞いて来てみたんだが。どうも俺とそう変わらない年齢の人間が住んでいたんだな」


その言葉を聞いて、アンは両目を見開き、マナはピョンッと小さく飛びねる。


マナが言う。


「えぇ~!? あなたも10代なの!?」


「ああ、そうだが」


「えぇ~!!!」


マナは二度叫んだ。


シックスと名乗った男は、特に気にしていないようだったが、二人のあまりの驚きっぷりに困惑こんわくしているようだった。


「こう見えても18だ。もっと上に見えるか?」


二人に背を向けて言うシックス。


その様子が、落ち込んでいるように見えたマナは慌てて喋り出す。


「ち、ちがうの! あなたは体が大きいから、あたし勘違いしちゃって!!」


アンも同じように慌てて続く。


「そそ、そうだッ! それに態度も大人びているし、喋り方も……」


二人が驚いたことを一生懸命に弁解していると、シックスは急に大笑いし始めた。


あまりにも二人が慌てて喋るものだから、つい笑ってしまったと言う。


それを聞いた二人は、ホッと胸をなで下ろす。


「優しいんだな、お前たちは」


笑みを浮かべていうシックスに、アンとマナも笑顔を返した。


それから――。


マナがこの村の状況を伝えると、シックスはこの近くにある反帝国組織の基地ベースキャンプに来ないかと誘った。


武装した兵士が暮らす基地ベースキャンプにいれば、キメラを恐れることもなく、子供たちも安心して暮らせるのではないかと言う。


その誘いに喜ぶマナ。


そしてシックスと共に、子供たちを連れて、その基地ベースキャンプへ向かうことにした。


アンは思う。


……反帝国組織バイオ・ナンバー基地ベースか。


……グレイ。


少し遅れるよ……。


いまは子供たちを優先するのが大事……。


「ほら、アンも急いで!」


嬉しそうに言うマナの後ろをついていくアン。


そして考える。


……このシックスという男に、私が元ストリング帝国の兵士だと知られたらどうなるのだろう。


正直に名乗った方がいいのか……?


アンは、移動中の間ずっとそのことで頭がいっぱいになっていた。

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