20章

アンとマナの2人は、ガレージテントに住んでいた子供たちを連れて、シックスと共に反帝国組織――バイオ・ナンバーの基地ベースへと向かっていた。


――陽が沈み、食事を取ることにしたアンたち。


マナが手のひらから炎を放ち、子供たちが集めた枯れ木に火をつけて、それを皆でかこった。


人前で自分の力を使うことを恐れていたマナだったが、子供たちは気にしておらず、むしろ「すごい!」と喜んでいる。


それは最初に助けた少女も同じで、アンの機械化した腕を見ても、怖がらずに笑顔で話しかけているくらいだった。


傷つきながらも自分たちを守ってくれたアンのことを、子供たちは英雄扱いしていた。


マナは枯れ木に火をつけると、アンの傍へ行き、傷ついた身体にそっと触れる。


両目を閉じたマナは、何かをいつくしむような表情をすると、炎が優しくアンを包んだ。


……傷がすさがっていく。


なんだ、この暖かい感じは?


アンが不思議に思っていると、マナが微笑み、人差し指を立てて言う。


「ふふん。どう? もう痛くないでしょ? あたしはこっちの方が得意なんだ」


自慢げに言うマナを見て、アンは無愛想に礼を言った。


「食事だ」


静かだがはっきりと聞こえる声。


シックスは、アンのように無愛想ではなかったが、2人からは口数は少ないと思われていた。


それは、彼が必要最低限のことしか話さないからだった。


シックスは、き火の前に腰を下ろすと、ここから基地ベースまでは、人の足で歩いて半日はかかると言う。


「ここまで来ればもう到着したようなものだ。それより早く食べたらどうだ?」


すすめてくるシックス。


だがアンは、目の前に出された食事に手を出せなかった。


シックスが出した大きな布の中には、カエルやヘビの燻製くんせいが大量に入っていたからだった。


「いや、その……」


グロテスクな食べ物を見て、戸惑うアン。


その横では、マナも子供たちも出された食事を美味しそうに口へと運んでいる。


その様子を見たアンは、自分は温室育ちなのだと、少し落ち込んだ。


そして、涙目になってカエルやヘビの燻製を飲み込んでいった。


それを見てマナが言う。


「アンったら、泣くほどおいしいの?」


「大事……食べ物の見た目は大事」


アンはボソボソと独り言を呟いた。


その後、基地ベースへと到着。


その目の前で、数体のキメラに襲われたが、中から現れた反帝国組織の兵が、キメラをサブマシンガンで撃退した。


基地ベース周りに有刺鉄線のさくがあり、柵の中にはマナたちがいた村と同じようにガレージテントが並んでいる。


シックスが戻ると、周りにいた兵が気さくに声をかけていた。


アンやマナ、シックスほどではないが、ここいる兵士も20代くらいの若者ばかりだった。


「女をふたりも連れてくるなんて」みたいな、からかうような言葉がシックスに向けられたが、あまり相手にしていない。


子供たちをここへ住まわせると伝えるシックス。


若い兵士たちは、誰も反対はしなかった。


それから子供たちは兵士たちに連れられていった。


これから寝泊まりするところを案内するそうだ。


「お前たちはこっちだ」


シックスは、アンとマナに手を振って、自分のものと思われるガレージテントへ入って行く。


中の造りも、マナたちがいたガレージテントと同じで、小さな木のテーブルとイスに、横になるためのベットがあるだけだった。


……違いといえば、ドラム缶風呂がないことくらいか。


アンは、そう思いながら部屋を見渡していると――。


毛むくじゃらの小さい物体が、アンに向かって飛び掛かってきた。


その毛でおおわれた物体は――電気仕掛けの羊、ニコだった。


「ニコ!? 無事だったんだな。よかった」


アンがそういうと、ニコはほおずりして嬉しそうにいた。


シックスの話では、たまたま川岸で倒れていたところを拾ってきたそうだ。


「ありがとう、シックス。お前には助けてもらってばかりだな」


アンの表情に、女性らしい優しい笑みが浮かぶ。


その表情を見たシックスは、思わず見惚みとれてしまった。


シックスは顔をらして少し照れながら、二人にイスを差し出てから訊く。


「俺は、これから組織の本拠地ほんきょちへと戻るが、お前たちはどうする? ここに残るか?」


二人がイスに座った後に、自分も座るシックス。


アンは首を横に振った。


そして、ポケットから地図を出す。


「私には行かなければならない場所があるんだ。ここなんだが、わかるかシックス?」


地図を渡されたシックスは、じっくりと地図を見ながら答える。


「ずいぶん古いものだな。それにしても、どうやってこれを作ったんだ? この地図、この周辺だけではなくストリング帝国から、海を渡った先の場所まで書かれている」


アンは、その地図をくれた人物のことを話した。


シープ・グレイのことを――。


はぐれてしまったことも伝える。


「そうか。このしるしのついた場所へ行こうとしていたのなら、そこで会える確率は高いな」


シックスは、地図を見ながら言葉を続ける。


「そのグレイという男が何者なのかわからないが。この印がついているところ……。ここは反帝国組織バイオ・ナンバーの本拠地だぞ」


アンはそれを聞いて言葉が返せず、ただ立ちくしてしまった。

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