4話 怒涛の採取指示が入植者を襲う

「労働力が必要でしたら、入植者を募りましょう。その為にも村長さんには、ある条件を達成して頂きます」


「条件?」


 俺は首を傾げる。するとナビ子は頷いて、


「入植者を迎える為には、資材と食糧の確保が条件となっています。二人目の住民ならば、今伐採しているものと、先程作った畑で収穫できる食糧で足りるでしょう。ですが収穫までは時間が掛かるので、採取などをして食糧を賄いましょう」


「次は食糧の確保ですか。えっと――」


 森中を見渡した俺の視界に、小さな繁みが映る。その繁みには赤い実が確認できた。小さな粒が集まった、キイチゴのような見た目だ。


「ナビ子さん、これは?」


「《レッドベリーの繁み》ですね」


「食えるやつ?」


「はい」


「序盤に農業しなくてもよかったやつか……」


 選択を間違えたか。肩を落としていると、ナビ子は短いツインテールを揺らして、それを否定する。


「『農民』は育てておいて損はない役職です。それに、フィールド上に存在する食糧も無限ではありません。村長さんの選択は間違ってませんよ。気を落とさずに!」


「ありがとう、ナビ子さん……」


「村長さんのサポートも、この『ナビ子』の役目ですから! さあ、村長さん。一緒にアランさんにエールを送りましょう!」


 植民地に住民を迎えると言っても、その為の資材と食糧の確保に動くのは俺以外の住民だ。その事実は変わらず、もどかしさも解消されなかった。だがそれも、このゲームの特色であろう。村長――プレイヤーである俺は、彼等の営みに手を出すことは出来ないのだ。


 とりあえず俺は、ナビ子と一緒にアランの応援を始めた。


「がんばえーアランしゃーん」


「うるせぇ、気が散る! どっか行け!」


 ■   ■


 耕作と伐採、それを立て続けに終えたアランはぐったりとしていた。草原の上に身体を横たえ、駄々を捏ねている。


「はー、もう嫌だ。もう働かねぇぞ」


「お疲れ様です、アランさん」


 彼の努力のお蔭で《木材》が三十個強入手することが出来た。


 伐採の指示を出したのは三本、つまり樹木一本からおよそ十個の《木材》が手に入る計算となる。この調子ならば、規模の小さい森でもある程度の《木材》は確保できそうだ。


「ナビ子さん。入植者受け入れの条件って、今どうなってる?」


「資材量の条件はクリアしました。残りは食糧です!」


「了解です。小麦とニンジンは……まだ育たないか。そこら辺に生えている奴を集めますか。――アランさん、起きてください」


 そう声を掛けるも、彼は呻くばかりで起きようとしない。もう働かない、その宣言通り休む気なのだろう。だが俺は、いずれ来たる夜を前に、最低限の備えを済ませたいと考えていた。アランには悪いが、もう少し頑張ってもらう。


 森は案外開けている。陽の光が入る明るい森。それを進んでいると、《レッドベリーの繁み》がそこら中に点在していることに気付いた。農作物を望めない現状においても、食糧の心配はしなくてもよいようだ。


「村長さん、村長さん!」


 尚も歩き続けた俺の袖をナビ子が引いた。キラキラと目を輝かせた彼女は、小刻みに跳ねつつ、ある一点を示していた。


「見てください、あれ。《キノコ群》ですよ! あれからは、様々な種類のキノコが取れるんです!」


「食べられます?」


「食べられるのもあります」


「なら採取させておきますか」


 木の枝でそれに触れる。半透明の線がそれを覆い、指示の完了を表した。しばらくすればアランがやって来ることだろう。


「ノルマの達成って、具体的に数字ってありますか?」


「食糧を十五個ですね」


「採取だけで達成できそうですね」


 《レッドベリーの繁み》と《キノコ群》、目に付く全ての採取ポイントに触れ指示を出す。きっと彼は今頃げんなりとしているだろう。馬車馬のごとく扱き使われ、休憩もままならないのだ。現実世界だったら確実に法に触れる。


 彼はすぐにやって来た。服を器代わりに《レッドベリー》を山ほど乗せ、木々の間を縫うように進む。


 そろそろ諦めて仕事に励んでいるかと思いきや、彼の表情はすっかり失せていた。目の色は淀み、今にも自殺せんばかりの雰囲気を醸している。俺は思わずたじろいだ。


「こっ、これで最後ですから」


「最後最後って……そうやってなぁ、期待を持たせるのはなぁ、よくねぇぞ? なあ?」


 文句を言いつつも、彼は手早く採取を進める。残り五個、四個。《レッドベリー》が積まれ、服のたゆみが大きくなる。


 そうこうしている内に、ピロリと可愛らしい音がした。音の方向――ナビ子を見遣ると、トレードマークである短いツインテールが天を向いていた。静電気でも帯びたかのようである。


「やりました、村長さん!」


 その笑顔はこれまでにない程眩しかった。


「食糧確保の条件を達成しました。これで新しい住民を迎えることが出来ます!」


「実感湧かないなぁ。でもよかった」


 俺はナビ子の手からバインダーを受け取る。今回届いた入植志願書も一枚だけのようだ。


「おっ、女の子じゃん」


 ヒュウとアランは口笛を吹く。彼の言うと通り、二人目の志願者は女の子だった。写真を見る限り随分と若い。加えて彼女は、アランと対照的にしっかりとした役職を希望していた。希望役職『ニート』縛りは回避できそうだ。


 俺は早速、その書類にペンを走らせた。


入植者番号二

 名前・クローイ

 性別・女

 希望役職・木工師

 特性・完璧主義

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