第24話 勝利の行方
こゆきの乗ったF35の左翼が爆発し、地上めがけて落下していった。
突然のことに、柚木菜とキナコグリーンは何が起こったか分からなかった。
ただ、何かが機体に当たり爆発を起こしたようだった。
何かが飛んできた方向、つまり火線の遙か向だったが、そこには真っ黒なステルス戦闘機のF35が飛来していた。そこから長距離で超高速投射弾頭を撃ってきたのだ。
レーダーに写らないF35は、まさに隠密行動をし、奇襲をしかけてきたのだ。
柚木菜とキナコグリーンはとっさに状況を理解した。
キナコブルーが、闇の存在である黒い虫に取り込まれてしまったのだと。なかとし同様、黒い存在になってしまい、キナコブラックになってしまったのだと……
柚木菜とキナコグリーンは散開し、回避運動をとりながら敵機に照準を合わせようとするが、鈍重なF35はそれをなかなかさせてくれなかった。
さらには、敵F35の40ナノ砲とミサイルが激しく襲いかかり、それどころではなかった。
遠くでこゆきの乗ったF35が大爆発を起こした。その爆風に巻き込まれた敵機キナコブラックのF35が空中でひっくり返った。
柚木菜とキナコグリーンのF35も影響は受けだが、白き光の爆発の影響は比較的少ない。
あちらがひっくり返っているうちに、キナコグリーンが照準を合わせようと機体を敵F35に機首を向けた。照準を合わせようとしたそのとき、敵F35の機首から光が見えた。先に超高速投射砲を撃ってきたのだ。
動きを止めたキナコグリーンのF35は、格好の的になったわけだ。
次の瞬間にはキナコグリーンのF35が火を噴いた。超高速投射弾頭は機体のど真ん中に当たり機関部のエンジンを破壊したのだ。二回ほど小爆発を起こし、そのあとに大爆発を起こした。
柚木菜は現状を目の当たりにして手が震えていた。ほんのわずかな瞬間にこゆきがやられて、キナコグリーンもやられた。しかもやったのは、先ほどまで仲間だったキナコブルーだ。
「う、うそ、でしょ…… そんな……」
先ほどまでわきあいあいとしていた仲間達が、ほんの数分の出来事でいなくなってしまった。
柚木菜は恐怖よりも、悲しみのほうが大きかった。あまりにも唐突しすぎて涙すら出なかった。まだこの状況が信じられないという心境だった。
どうしてこんなことに……
それは、少し時間が遡る。
名古屋上空での激しい戦闘で、キナコブルーは機体に被弾はしたものの、撃墜はされていなかった。
二体の人型虫との戦闘で他の隊員はブルーの安否を気にはしていたが、今はそれどころではなかった。
気を抜けばやられる。やられる前にやる。
実際に攻撃は最大の防御だった。それ故に人型虫を排除が最優先されたのだ。
キナコブルーには自力でなんとかしてもらうしかない。一応、自動小銃二丁とハンドガンも装備している。近接戦なら問題ないはずだ。
自分の身は自分で守る。他の人の脚は引っ張らない。
これは柚木菜の持論であったが、沈着冷静なキナコブルーはこの一面が特に強く出ていた。
そのため、他の人に応援を頼むようなことはしなかった。
人型虫の銃撃を受けて推力が落ちたF35は、ゆっくりと高度を落としていった。
途中、虫達の襲撃を受けてある程度は撃退することはできていたが、それも時間の問題だった。
F35の死角に入られたらどうすることもできず、あっという間に虫達に取り囲まれてしまった。
クールで慎重なブルーは後悔した。もっと早くこの機体を捨てて、単独でみんなと合流すれば良かったと……
キナコピンクが二体の人型虫に串刺しになった記憶が生々しく、機体の外に出る勇気がなかったのだ。
キャノピー越しに虫達が群がっていくのがわかった。
そして、群がった虫達はF35と融合していった。高密度の人型虫に対して、これはヒコーキ型虫というわけだ。
搭乗していたキナコブルーは、体が冷えてくるのを感じた。寒い! でも気温が低いわけではない。悪寒のような感覚が全身に襲ってきた。震える手を見ると、いつの間にか血色はなく、青白くなっていた。やがて、グレー色になり黒くなっていった。
黒のヒコーキ型虫の中にいたキナコブルーは、自分の体が虫の黒い存在に浸食されているのを知った。
目の前でキナコグリーンのF35が大爆発を起こしていた。遙か遠くでその爆風を受けて機体を大きく揺らしていた敵機のF35が爆風の光の中に映り出された。
柚木菜ははっと我に返り、機体の機首を敵機に向け、照準を合わせた。
が、トリガーを引くことはできなかった。
中に乗っているのは、先ほどまで仲間だったキナコブルーだ。しかし、今は敵で、こゆきとキナコグリーン二人の仇だ。撃てないはずはないのに、指は動かなかった。
「キナコブルーなんでしょっ! 聞こえるなら返事してっ!」
柚木菜の心の叫びはむなしく響くだけで、返事は返ってこなかった。
頭の中に声が聞こえた。
(ママッ! 撃って!)
それは、先ほど撃墜されて大爆発を起こしたF35に搭乗していた、こゆきの声だった。
幻聴? こゆきの魂みたいな存在?
(なにバカを言っているの! まだちゃんと存在しているよっ!)
はっと、ようやく目が覚めた思いだった。F35は確かに撃墜されて大爆発を起こしたが、こゆきは言っていたではないか、痛い程度で済むと……
柚木菜はトリガーの指に力を込めた。ちょうどキナコグリーン機の爆風が収まり、視界がクリアになりかけたときだった。先に撃たなければ撃たれる。
軽い振動と共に超高速投射砲弾が射出された。敵までの距離はざっと5キロ。着弾までざっと1.2秒だ。
敵機キナコブラックの乗るF35の尾翼に爆発が起こった。しかし、そのほんの少し前にも、敵機が超高速投射弾を放った。
そして、約一秒後には柚木菜機F35の左主翼の先端部が爆発した。機体が激しく崩れたが、すぐに姿勢を安定させて第二弾を放った。同時に、機体下部に相手の超高速投射弾頭を喰らい、爆発が起きた。今度は相手が一足先に撃ってきたのだ。柚木菜が撃った弾頭は、敵機の主翼に当たったが穴を開けた程度で撃墜にはいたらなかった。
柚木菜の乗ったF35はエンジンの出力が落ちて、高度を落としていった。こうなるとただでさえ鈍重なF35は回避運動もできない。
その機体めがけてとどめの一撃を放とうと、キナコブラックはトリガーに指をかけた。
そのとき、キナコブラックの機体下部に、一条の銃弾が当たった。弾丸は小さかったがそれなりの衝撃を与え、柚木菜機に放たれた超高速投射弾頭は尾翼をかすめただけで、直撃はまのがれた。
下から銃弾を撃ち込んだのは、キナコグリーンだった。F35は撃墜されたが、自身は特にダメージを受けていなかった。タイミングを計って脱出し、反撃とばかりに奇襲をしかけたのだ。
ただし、武器はMP5の9ナノ弾の自動小銃だったため、キナコブラックのF35の機体にそれほどの損傷を与えることはできなかった。それでも、柚木菜機を狙撃させることを妨害するには十分だった。
背中の羽はこゆき同様トンボのような透き通った羽で、機敏に動くことができた。それ故、F35の死角に入り込んで、仕返しができたと言うわけだ。
その状況を、柚木菜は感じ取ることができた。
「キナコグリーン無事だったのね。死んじゃったのかと思った…… こゆきもきっと無事なのね」
(マザー。心配かけたな。ヤツの背後を取るには、こうしないとね。下手に外に出ると、ヤツに狙撃されるから、タイミングを計って脱出して)
キナコグリーンの声が頭に届いた。今まで沈黙していたのは、敵になったキナコブラックに悟られないようにするためだ。黒い存在となったとはいえ、もとは柚木菜の分身だ。きっと声は伝わっているはずだ。
そんな状況下の中、頭の中に誰かの声がした。声事態は柚木菜とキナコグリーンと同じだったが口調は違っていた。
(生きていたのか、クソマジでむかつく…… 隊長もまだいるみたいだし、ほんとマジで腹立つ……)
それは、黒い虫達に侵食され、闇の存在となってしまったキナコブラックの声だった。
「キナコブルーっ、お願いもうやめてっ!」
もうダメだと分かってはいたが、柚木菜は叫ばずにはいられなかった。どうしようもない気持ちで、胸が張り裂けそうな思いだった。
(マザー、私を産んでくれて、本当にクソサンキューだよ。私はこの世界を黒く染めるのに全力を注ぐわ。だから、マザーの白い光は目障りなの。だから、消えて)
キナコブラックのF35は、グリーンの銃撃を受けていたが、それを気にしないかのように、照準を柚木菜機に合わせ、超高速投射砲弾を撃った。
弾頭は柚木菜のF35の尾翼をかすめた。当たりはしなかったが、衝撃波で尾翼の端部は吹き飛んだ。
(クッソ…… グリーンか…… ほんとうに腹立つ! 目障りなんだよ! 最初にあったときからウザかったんだよ、几帳面でお利口さんで、優等生で……)
キナコグリーンが機体下、死角からの銃撃の成果か、照準にブレが出ていた。
(ママっ! こいつはもうキナコブルーじゃない。黒い存在だよ。害虫なんだよっ!)
(マザーっ、早く撃て! あなたが消滅したら、私だって消滅してしまうんだよっ!)
こゆきとグリーンの声が頭に届いた。わかってはいる。でも、敵だと分かっていても声を聞いたら、もしかして、と思っていまい、トリガーに力が入らない。きっと何か良い手があるのではないかと……
キナコブラックはさらに撃った。今度は機体上部をかすめた。衝撃波が機体を振動させ、搭乗席のキャノピーを粉砕させた。
「キャー!」
柚木菜は思わず悲鳴を上げた。上部の透明なキャノピーは粉々になって降り注いできた。先ほど損傷した尾翼は根元からちぎれ飛んでいた。
(ママっ! 早く撃ってっ! 本当にやられるよっ!)
「わかってる、わかってる! でも、きっと何か別の方法があるかもしれない。そうよ、きっと……」
頭の中に笑い声が聞こえた。キナコブラックの声だ。
(アハハッ。そうよ、あるわよ、いい方法。まずはマザーが消えることよ。そして、グリーン、そのあとにこゆき隊長ね。短い間だったけれど、クソお世話になったわ。じゃあ、マザー。さようなら……)
キナコブラックは照準をむき出しになった搭乗席の柚木菜に合わせた。キナコグリーンの銃撃は続き、機体は常に振動していたが、自動補正も働き、しっかりと目標をロックすることができた。さらに柚木菜機もこちらをロックしていたため、同じ射軸にいたから狙いは確実だった。
(ママ撃ってっ!)
(……ごめん、こゆき、ごめん……)
(マザー消えて……)
キナコブラックの機体に振動が走った。キナコブラックは超高速投射砲の発射したときの振動だと思った。確かに超高速投射砲弾は発射されて柚木菜のF35めがけて時速15,000キロで飛んでいった。しかしそれは、大きくはすれて空の彼方へ消えていった。
キナコブラックはキャノピー超しの視界がグルグル回るのを見た。そして、視界の片隅に機首が無くなったF35が落下しているのが見えた。
それを遠くから見ていた柚木菜は、状況を理解した。
今まで影を潜めていたこゆきが、敵機のF35を両断したのだ。搭乗席より少し後ろでF35は見事に切断されていた。こゆきの手には光る剣を握っていた。そういえば、自分もこゆきから似たような剣を持たされたのを思い出した。
こゆきのF35が撃墜され大爆発を起こした際に、こゆきはそれを利用して一気に天高く飛んだ。そして、機会をうかがっていたのだ。敵が動きを止めるその瞬間を。
こゆきとしては、柚木菜が反撃する機会はいくらでもあり、それこそママがやっつけてくれるだろうと思っていた。しかし、そんな期待は見事に裏切られた。優しい我が母は、黒く染まってしまった自分の分身を助けたいとの一心で何もできなかった。結果的には陽動に利用して、キナコブラックのF35を両断することに成功したのだった。
一方、両断されたF35のキャノピーが弾け飛び、そこからキナコブラックが飛び出した。
それを狙って、こゆきとキナコグリーンは自動小銃で狙撃した。キナコグリーンの銃、MP5は弾がばらけてクリーンヒットはしなかったが、こゆきの銃、M416は見事に当てることができた。
キナコブラックの左膝下が吹き飛んだ。
(ぎゃーーーーーー!!!)
キナコブラックの断末魔のような叫びは、皆の頭の中にも響いた。そして、呪いのように言葉を連発した。
(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………)
柚木菜はF35の中で頭を抱えて、泣き叫んだ。
「もうやめて! キナコブルー! もうやめて! もう終わったのよ…… だからお願い、もう……」
(ママ、こいつはもうママの知っているブルーじゃないよっ。早く駆除して、パパのところへ帰ろう……)
柚木菜はこゆきの声を聞いて、なお涙を流した。
「こゆき…… 確かにもうブルーじゃないわ。でも、確かに私なのよ。キナコブラックは私の黒い部分の塊なのよ…… だから、あれは私なのよ……」
(……あんなママは嫌いだよ。だから私が綺麗さっぱりにしてあげる。キナコグリーン、援護してっ)
こゆきはアサルトライフルを左手に持ち、右手は腰にぶら下げていた剣の塚に手をかけた。手に取った剣の塚は、光を放って光の剣になった。刃渡りは10mほどあろうか、この光る剣でキナコブラックのF35を両断したのだった。
(こゆき隊長。決着をつけようか。このときがくるのを待ちわびたよ。最初から気に入らなかったんだよ。偉そうにしやがって)
左膝下を失っていたキナコブラックだったが、無くなった部分は黒いもやのような物に包まれていた。そして、右手には黒い長剣。左手にはMP5が握られていた。
(ママの黒い部分が突出してできた存在でもあるのね。でも、そんな部分はいらない。消えて無くなって…… そんなママは嫌い)
(そう言うあんたは、目障りなんだよ。勝手に出てきやがって。何が我が子だよ。冗談じゃない。さっさと消えてなくなれ。綺麗好きなグリーンもあとで真っ黒に染めてあげるよ。気持ちがいいよ)
(地に落ちたな、ブルー。私はおまえみたいに汚れるなら、真っ先に死を選ぶよ。おまえこそ、消えてなくなれ。私達にこれ以上泥を塗るな)
「キナコブルー…… もう、本当に黒く染まってしまったのね…… 今すぐここを立ち去りなさい。またいつの日か会いましょう。そのときちゃんと話そうよ。きっと私の心があるなら、光を取り戻せるよ。ティカセならきっといい方法を知っている。だから、ここから去って……」
(そう言う訳にはいかないんだよっ!)
そう言って、キナコブラックは左手のMP5を撃ちながら、こゆきに迫った。
こゆきは回避運動を行いながら、アサルトライフルのM416を撃った。右手に持つ光の剣は、相手の銃弾を消し飛ばし、ライフルの銃弾はキナコブラックを捉えた。
と思われたが、銃弾はキナコブラックの黒い長剣で弾き飛ばされていた。
一気に間合いを詰められ、焦ったこゆきは右手の光剣を縦に払った。
刃渡り10mの光剣を、キナコブラックは右手に持つ黒い長剣で受けた。受けたつもりだった。
光の剣はキナコブラックの剣を切断して、左肩をも切断した。
無くなった左腕の部分から大量の黒い血が噴き出した。
キナコブラックの断末魔が皆の頭の中に響いた。
間髪入れず、こゆきは光剣を横に払った。払おうとした。
そのとき、地上で大爆発が起きた。キナコブラックの乗っていたF35が爆発したのだ。黒き存在のF35は黒い光の塊となって、こゆきとキナコグリーンとキナコブラックを包み込んだ。
白い光の爆発なら、こゆき達を焼くことはなかったが、今回は黒い光の爆発だ。ただではすまないはずだ。
離れた場所から黒い大爆発を見ていた柚木菜は、悪い予感しかできなかった。
先の戦闘ではキナコピンクが人型虫に黒い剣で串刺しにされた……
今回はもしかしたらこゆきが……
一方、キナコグリーンは、こゆきの戦闘を見守って、隙あらばキナコブラックに銃弾を撃ち込もうと、狙いを定めていた。こゆきがキナコブラックを両断する様を想像していたが、黒い大爆発に巻き込まれ吹き飛ばされてしまった。体中に激痛が走り、体中が焼かれたのを知った。
こゆき隊長の姿を探した。……いた。自分は爆風で吹き飛ばされ、結構な距離を離されていたが、こゆき隊長は先ほど変わらない位置にいた。そして、キナコブラックも同じ位置にいた。ただ違っていたのは、切断された左腕と、左膝下は元通りのように存在していた。そして、両断された剣は元の長さに戻っており、新しくなった左手にも黒の長い長剣が握られていた。
二人の会話が頭の中に聞こえてきた。
(さすがこゆき隊長ね。何なのその剣は? 私の剣はおろか、黒い炎までなぎ払ったわけね)
こゆきは肩で荒い息をしていた。右手に持つ光の剣は、今は刃渡り1mほどしかなかった。
(この剣はパパから預かったのよ。ムラクモの剣とか言っていたけど、ほーんと、雲でも真っ二つにできそうだわ。結構疲れるけどね……)
(あら、怖い剣ね。天界の武器なのかしら。隊長を殺したら私が有効に使ってあげるわよ。お仲間もそれで真っ二つにできそうね)
(そう、でもその前に、真っ二つになるのは、あなた、キナコブラックよっ!)
こゆきは左手に持ったアサルトライフルを撃った。先ほどの爆風を光剣でなぎ払ったためか、かなりの体力を消耗していた。今は接近戦は不利だ。間合いを取って相手の肉をそぎ落とし、機会があったら、接近して光剣で両断してやろう。
そう考えていたが、キナコブラックはそんなことはお見通しだと言わんばかりに、一気に間合いを詰めてきた。
こゆきはライフルを斉射したが、キナコブラックは両手に持った剣を手前でクロスさせて、銃弾を弾き飛ばし、なお間合いを詰めてきた。
至近距離でグレネードを打ち込んだ。目の前で白い閃光が広がった。同時に爆発と衝撃波が襲ってきた。
白い炎は、こゆきにはあまり影響がない。それでも至近距離での爆発で体は弾かれた。
閃光が収まり、視界が戻った刹那、目の前には表面の皮膚が焼けただれたキナコグリーンが迫り、白刃ならぬ黒刃が頭上に落とされてきた。
こゆきは右手の光剣でそれを受けた。そして後悔した。
この剣は何でも触れた物を切断できる。よって、受けることはできないのだった。
キナコブラックの黒い剣は真っ二つに切られた。しかし、その剣の勢いは止まらず、こゆきの胸を切り裂いた。
鮮血が飛び、キナコブラックを赤く染めた。
「こゆき隊長、お元気で。さようなら……」
キナコブラックは満面の笑みを浮かべて左手の長剣を振りかざした。そこに銃弾が飛んできて、キナコブラックの背中に当たり小爆発が起こった。キナコグリーンが打った銃弾だった。
「こゆき隊長っ! 逃げてっ!」
こゆきはすでに力を使い果たしたのか、今受けた傷の深さもあってか、意識を半分失っていた。キナコグリーンの声を遠くに聞いてはいたが、体は動かなかった。
キナコグリーンは、さらにキナコブラックに銃弾を撃ち込んだ。
しかし、キナコブラックは気に留めること無く、黒い長剣をこゆきの頭めがけて振り落とした。
そのとき、黒い長剣が頭に当たる寸前で剣が弾け飛んだ。次の瞬間には胴体が吹き飛び、下の二本の足は地上へと落ちていった。
胸から上部だけが残り、羽もかろうじて2枚だけ残ったキナコブラックは状況を理解した。
F35に乗った柚木菜が超高速投射弾頭を撃ち込んだのだ。
「……マザー 許さない…… この恨み、晴らさでおくべきか……」
キナコブラックは遙か遠くに飛んでいたF35をにらんだ。
こゆきは意識がもうろうとしていたが、最後の力を振り絞って、右手の光剣を縦に振り下ろした。
キナコブラックは残った剣で受けようとしたが、剣もろとも上半身はさらに真っ二つになり、黒い血を噴き出しながら地上へ落ちていった。
真っ赤に染まっていたこゆきは、今度は黒い血を浴びて黒く染まった。そして、意識をなくし、落ちていった。
近くにいたキナコグリーンはすぐさま飛んで行き、こゆきを抱きしめた。
「隊長! こゆき隊長っ! しっかりしてくださいっ!」
「ママ…… ぁ、グリーンか…… あいつは?」
「隊長が最後のとどめを刺しました。お見事です…… もう、休んでください……」
グリーンは大粒の涙を流してこゆきを抱きしめた。
そして、F35から長距離射撃をして、キナコブラックを粉砕させた柚木菜も機内で泣いていた。
キナコブルー…… ごめんなさい…… 本当にごめんなさい……
この世界では出ないと思っていた涙は、体の構造を裏切り、大粒の涙を流し続けた。
こうして、こゆきサンゴー小隊の最初で最後の作戦「パラレルアタック」は終わった。
隊員四名が殉職。七人中の半分が戦死する結果となってしまった。
主装備のF35は6機が撃墜され、一機は中破した。
確かに、このエリアの闇の存在は撃退できたかもしれなかったが、結果は散々たる戦果に終わった。
残った三人は気力を振り絞って、近くのヘリポートに帰投した。
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