第22話 戦慄

日本全国からの熱い声援と思いによって、力を得た柚木菜とこゆきは、6機のF35のコピーに成功した。大きさもオリジナル同様になり、しっかり人が乗れる大きさになった。

元の一機と足して、7機のF35こゆきスペシャルは名古屋上空をざっと半径5kmで旋回飛行し、一機辺りの四キロ程の間隔を空けて飛んでいた。

つまり、円を一列になってグルグル飛んでいることになる。

この状態なら死角も少なく、地上攻撃に対しても有効だった。

ただし、上部からの攻撃には弱いので、この辺りは後続の機体に援護してもらわないといけない。

練習飛行を兼ねていきなりの実戦である。先の戦闘で、機体本体とこゆきの身体には戦闘の記録と記憶が残っている。これを各員の頭の中に叩き込んで搭乗しているので、こゆきと同程度の飛行と戦闘は可能なはずだ。

 頭に叩き込んだと言っても、短期間で猛特訓をしたわけではない。叩き込む、正確に言えば、口から流しこんだのだが……

兵器自体はそれこそデーターを書き込めば良いが、人体の脳となると、生体的な接触によってでしか記憶を送れなかった。

例によって、上の口と、下の口からの接触による記憶の流し込みだった。



 

キナコ隊員の五人は、最初は嫌そうな態度と表情を示したが、キナコピンクが切り出して最初にやると言ったら、それを観ていた他の隊員達も抵抗の壁を薄くした。

キナコピンクはその色の通り、柚木菜のエロスの部分を突出した存在だ。

こゆきの舌と、下半身に挿入された指型のディバイスはキナコピンクの身体を震わせ歓喜の叫びを咆哮した。

「ママのあっちの本性は限りなくエロいんだね。私の身体はそれを引き継いでいるからよくわかるよ。凄く感じちゃうもの」

顔を赤くして柚木菜は答えた。

「……親に面向かって言わないでくれるかなぁ。それって、もしかして褒めているのかな?」

次に情熱のキナコレッド、ついで好奇心のイエロー、クールなブルー、最後は潔癖症のグリーンだった。

「ハァハァハァハァ…… ゃだ…… 私の身体、汚れてしまったわ…… こゆき隊長、ちゃんと責任を取ってくださいね……」

キナコグリーンは顔を赤くし、恥じらいながら言った。

「もちろん、ちゃんと責任は取るよ。だって、ママの分身だからね。後でゆっくりスキンシップしようねっ」

「こら、こゆき…… そういうことは二人きりの時に言って」

「だって、七人でしたら楽しそーじゃない」

柚木菜は妄想を膨らませてみたが、いまいち想像力が追いつかなかった。

「はは…… 7Pか…… どうやってするんだ……」

こうして、兵器、戦闘スキルを備えた極めて異例な小隊が誕生した。

こゆきサンゴー小隊だった。




(10秒後にパパの援護射撃の豪雨がくるよ。もうすぐ暴風圏内に入るから気をつけて。

(りょーかい)六人の声が頭に響いた。

すでに台風24号は中部地方に上陸している。結構な風も吹いているし、雨だってそこそこ強くなってきていた。

この後、台風級の豪雨がくる。これを浴びた負の存在達、黒い虫達が地上から姿を現し空を目指してやってくる。

それを、こゆきサンゴー小隊が迎撃するのだ。

今回はこのエリア全体を視野に入れている。7機のF35の火力なら対応できるはずた。

豪雨がやってきた。

一気に視界が無くなり、機体を安定させるだけでも、技術を伴った。

「…………あと、十秒で雨が上がる、そのあとは、編隊を維持したまま、各個で目標を撃破せよ。各員健闘を祈るっ! って、かっこいーっ! 一回言ってみたかったんだぁ。じゃあ、みんな頑張ってっ!」

「了解ラジャーガッテンわかったヘーイ」

「はいはい、こゆきこそ、気を抜かないで」

硬いことはなしだ。しかし油断はできない。柚木菜は気を引き締めた。

 豪雨が止み、闇にうごめく存在が一斉に動き出した。羽のあるものは飛び立ち、ないものは高いところを目指して登っていった。

それはまるでイナゴの大群の大移動にも思えた。

空を覆い尽くし、星の光や街の光をも通すことはなかった。

黄金の空に、夜の闇が出現したかのようだった。

こゆき小隊各機のF35が火を噴いた。

両翼に装備した40ナノ弾ガトリング砲は、実在するものをこゆきが改良したものだ。本来なら実機には搭載できない。

毎分3,000発撃てるこの兵装は、この状況にはまさにうってつけだった。

前方一杯に白い火球が現れた。着弾し闇の存在と激しく反応して爆発を起こし、一瞬の輝き後チリと化して消えていった。

黒い虫の密集地帯にはロケット弾の発射口から高密度ナノ弾を撃った。本来なら軽車両等を撃破するにはもってこいの武装だ。この高密度ナノ弾は着弾しいったん反応すると、直径100m程の爆発を起こし、数発打ち込むだけで、視界にいた黒い虫達は消し飛んでいた。

名古屋市上空を7機で旋回し、各機で捉えた情報はすぐさま共有され、的確に火力を集中させながら効率的に虫達を殲滅していった。

「なんか、調子良くない? 虫の数もそりゃあ確かに凄いけど、私達の連携攻撃は、それを凌駕しているわね」

「そうだね。思ったよりも善戦しているよ。ママの分身も思ったよりもしっかり働いてくれるしね」

「思ったよりもは余計よ。一応あなたの親なんだから、少しは敬いなさいよ」

「ママのことは大好きなんだけど、やっぱり分身の人達って、なんだか違うんだよね。でも、唇の感触と下の反応はみんな一緒だね」

「こら、そこは余分。でも、気は抜けないわ。まだ人型の虫が現れていない。いつものパターンだとそろそろ集結が始まる頃よ」

柚木菜の不安は的中し、レーダーには各所に虫が集結する様子を捉えていた。

 大須、金山、今池、丸の内、星ヶ丘、伏見の六エリアの上空に光の点が浮かび上がっていた。

 実際には黒い塊の超密集地帯なのだが、その密度は尋常ではなかった。

 虫の数に対して塊の大きさはそれほどの大きさではない。それこそ人ほどの大きさだ。

 柚木菜とこゆきはその正体を知っている。強いて言えば前回遭遇し、ひどい目に遭っている。だから今もなお慎重に様子を見ていた。

「よし、丸の内上空のやつを第一目標、次、伏見上空のやつ。みんないい? 撃てぃっ!」

 7機のF35が、一箇所を狙って砲撃を開始した。

 両翼のバルカン砲、ロケット弾式高密度ナノ弾、それから、機体下部のハッチから発射された誘導弾だ。

 黒い虫の集合体は、それはまるで細胞が組織になって、やがて器官になり、いつかは大多数器官の集合体、つまり人になっていくのだが、圧倒的火力の前には、形になる前に、瞬時に消えてなくなった。

「よしっ、次行くよっ!」 これはこゆき。

「おッしゃりょうかいまかせとけっあっそいこいこっ」 と、キナコ隊だ。

「みんな、その意気だよっ」 締めの柚木菜。

 標的は伏見上空の目標になり、同じように集中砲火が始まった。伏見上空で、白い火球がいくつも咲いた。

 こちらも、人型になる前に消滅し消えていった。

「次、金山上空っ。撃てっ!」 

 7機のF35の火器は再度咆哮した。一機は、高層ビルが邪魔で撃つことができなかったが、他の六機がしっかりとアシストしてくれた。

 だが、若干火力が足らなかったのか、金山上空の虫はついに人型になるのに成功した。何発かは確かに着弾してはいたが、超高密度の体はその爆風に耐えた。

 そして、他のエリアの黒い虫の集団は人型に変化していった。

「各機周囲に注意して。あいつらは素早いから、距離を取って攻撃して。今は金山のやつに集中砲火、以後は、各機の判断に任せるっ」

 こゆきの声から緊張が伝わった。二体は撃破。残り四体。こちらは7機いるとはいえ、接近戦は不利だ。いかに連携して攻撃をするかで勝敗が決まる。

 細かい虫達も多少は数が減ったとはいえ、まだまだ相当な数がいた。それに加えて、人型の虫が四体ときた。これは一筋縄ではいかない。

 金山上空の人型虫は、一番近くにいたキナコイエローに襲いかかった。

「ひゃーっ! 変なのが来たよっ!」 

 キナコイエローはゴーグルに写った人型虫に照準を合わせて撃った。

 音速の5倍ほどの初速を誇る有質量ナノ弾だが、回避運動しながらやってくる人型虫を捉えるのは難しい。弾幕の厚さで近寄らせることを許さなかったが、有効打を与えることもなかった。

 そこへ、こゆきのF35が横殴りに突進してきた。すれ違いざまに反転して、底部のミサイルを放った。至近距離のミサイルは人型虫を捉えたかと思ったが、何かを投げつけて、手前で撃ち落とされた。爆風が人形虫を飲み込み視界が真っ白になった。その爆風の中から、表面を焼かれた人型虫が飛び出して来た。手には長い剣。それを振りかざして、こゆきの機体に迫った。

 F35の上部はまさに死角だ。この位置からは攻撃ができない。機体の機首を上げないと照準は定まらなかった。こゆきの目に人型虫が不気味な顔をしているのが映った。次の瞬間、人型虫の頭が粉々に粉砕した。さらに、上半身が砕け散り、次に下半身が粉々に粉砕されていった。

「ないすっ! キナコレッドとキナコブルー。いい腕だねっ」 柚木菜の陽気な声が届いた。

 鬼気迫る人型虫を長距離射撃で撃破したのだ。このF35のもう一つの装備。20mm無接点超高速投射出装置だった。バルカン砲や高密度弾の口径はせいぜい40ナノmだ。有質量とはいえ、大した重量にはならない。それに対してこの20mm弾は重量もあり、高密度対極性弾でもあり、これの初速は実に音速の15倍を超える。当たればそのエネルギー量に吹き飛ばされるというわけだ。

ダブルコイルアクション式超高速投射砲だった。

 初戦でしっかり使いこなすレッドとブルーはなかなかの戦闘センスだ。

「あ、ありがとう。二人ともやるねっ! ……少し焦ったよ」

 こゆきは素直に礼を言った。ここまでやってくれるとは、はっきりいって以外だった。もっと人を信用しないといけないなと、反省するこゆきだった。

「後三体っ! 各機警戒してっ! 次っ、星ヶ丘上空に集中っ。キナコピンク逃げてっ!」

その空域を飛んでいたキナコピンクは後ろから接近する黒い物体に戦慄を覚えた。

真後ろと真上を攻撃するすべはない。

とにかく逃げ回って、仲間に援護してもらうしかない。

他の二体の、今池にいた人型虫と大須にいた人型虫もキナコピンクに迫った。一体は側面から、もう一体は正面からだ。

こゆき小隊はもちろん砲門を全開して迎撃を試みたが、なかなか捉えることはできなかった。

「クッソ当たらんっ! ちょこまかしやがってっ!」

 これは、キナコレッドだ。

正面から迫った人型虫は、刃渡り2メートル程の長剣でキナコピンクのF35を下座切りにした。F35が、縦斜めに両断され、二つになった機体は飛べるはずもなく回転しながら落下していった。

その直後、機体を両断した人型虫は身体が粉々に吹き飛んだ。

こゆき小隊の各機が超高速投射砲を叩き込んだのだ。

動きが止まった一瞬を逃さなかった。

それよりもキナコピンクの安否が心配された。

「ちょっとっ! ピンク大丈夫なのっ?! 返事してっ!」

回転して落ちていくF35の上部キャノピーが弾け飛び、そこからキナコピンクが飛び出した。

少したって、落下する機体は青白い炎をあげて爆発した。さらに誘爆するように大爆発を起こした。周囲にいた闇の存在や、黒い虫達は当然消滅し、キナコピンクを含め他の機体も爆風に巻き込まれた。

「キャーッ!! なんなの、いったいっ!」

 これは柚木菜だ。爆風で機体が二回転ほど中転した。他の機体も同様だった。

 こゆきだけが冷静で、的確に対応した。

「機体の動力源は、パパの炉心のコピーだから、そりゃハンパないよ……」

「どっちの意味のハンパないよ、だよっ。キナコピンクは無事なの?」

「大丈夫だよ。光の爆発は私達に影響はないから。衝撃波は喰らうけれどね。多分少し痛い程度だよ」

「あれで、少し痛い、ね…… それより、人型虫を見失わないで」

「わかっているって。今の爆発で、それなりのダメージは与えられたはずだから。きっと動きも鈍くなっているはずだよ」

 あと二体。この二体を始末できれば、ティカセにここに来なくてもいいと伝えられる。黒い虫の存在がなければ、ティカセがここに来る理由はなくなるのだ。

 爆風が収まりレーダーがようやく回復した。人型虫の二体は一箇所にいた。それも比較的近くにいた。柚木菜からは直接見ることができた。

「…………うそ……」

 柚木菜は自分の目を疑った。

 二体の人型虫は長い剣を、キナコピンクの胸に深々と突き立てていたのだった。

 キナコピンクは苦しそうに、剣をつかんで抵抗していた。

 キナコレッドとブルーが超高速弾を撃った。キナコピンクに当たる可能性もあったがそんなことは言っていられない。

 一体の上半身は吹き飛び、もう一体は剣を握っていた腕を吹き飛ばされた。そして、キナコピンクを射線上にするように離脱していった。

 二人は何発も超高速弾を撃つが、クリーンヒットはなく距離を離されていった。

「ピンクッ!」

柚木菜は泣き叫んだ。

 キナコピンクは二本の剣を胸に突き立てたまま落ちていき、途中青白い光に包まれ、やがて、光の粉になって消えていった。

 柚木菜は操縦席でキャノピーを殴りつけた。

「ママ。悲しんでいる暇はないよ……」

「わかってる…… だけど、自分のおなかを痛めて産んだ子だよ。悲しむなと言う方が無理だよ……」

「そうだね…… ママの大切な家族だものね……」

 残る人型虫を三人が追っていた。バルカン砲で威嚇し、ミサイルで動きを止め、超高速弾で狙撃をしていた。

 弾幕の厚さは、やがて人型虫を圧倒しはじめ、直撃はないにせよ、細かいダメージを与え続けていった。

 キナコブルーの一撃が人型虫の剣を弾き飛ばした。その瞬間動きが止まり、それを見過ごすようなことはしなかった。

 キナコレッドが撃とうとした、そのとき機体の下部に衝撃が走った。手がブレて照準が定まらない。

地上から砲撃の直撃を受けている。

キナコレッドはコックピット内が赤く染まるのを見た。キャノピーから見えていた黄金の星空は不透明な赤い液体で染まった。

キナコレッドは気が付いた。これは自分の体液だと……

 明らかに弾丸だった。それも密度の濃い弾幕だった。キナコレッドのF35は無数の弾丸を被弾し、やがて小爆発を起こし、墜落していった。

 地上に激突する手前で大爆発を起こした。大きな火球となった青白い爆風は周囲の黒い存在を消し飛ばしたが、同時にキナコレッドの存在も消し飛ばしてしまった。

 他の仲間は、何が起きたかわからなかった。

 一つ分かったことは、人型虫がもう一体現れたことと、虫達が自分達と同じような武器を使って、仲間のヒコーキを撃墜したことだ。

 そして、見た。黒い人型虫は、左手に長い剣。右手には六砲身の大きな銃を持っていた。

 それは、先の戦闘で柚木菜が真っ二つに切られたあの銃だった。

 こゆき小隊は、新たな敵に戦慄を覚えた。


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