第20話 臨戦


 作戦名 「パラレルアタック」

 発案 沢井こゆき

 監督 沢井柚木菜

 小隊長 沢井こゆき

 隊員1 キナコレッド

 隊員2 キナコブルー

 隊員3 キナコイエロー

 隊員4 キナコグリーン

 隊員5 キナコピンク

 主装備 F35x1機・MP5x4丁・P220x1丁・M416x1丁

 

 柚木菜が生んだ自分の分身を、ユキナの名を取ってキナコと名付けた。

 ユキナコでも良かったのだが、これは娘のこゆきに却下された。ユキナコと呼ぶと自分もそちらを向いてしまうからだ。紛らわしい。

 キナコは五つ子だったが、それぞれ性格が違うため、性格に合わせて色をつけてやった。

 それが、このキナコ姉妹だ。一応、父親は違えど、姉こゆきの妹になる関係だ。

 いわく付の身内になるが、こうして柚木菜、こゆき、キナコ隊五人、計7人の小隊、「こゆき小隊」が誕生した。 

「…………って、どうするの? キナコ部隊の装備品、何もないよ。大人サイズのものしか無いんでしょ? そもそも、こんな妖精サイズのものなんてあるの? あったとしても火力が100分の1程度になるんだったら、やっぱり意味なくない?」

 と、口を割ったのは、柚木菜だ。これでは、人員が増えてもあまり意味が無い。

「ママって、自分の分身ができたんだから、モノの複製くらいできるんじゃないの? サユキナへの応援パワーもあるんだから」

サユキナとは、地上にいる巫女姫様の下っ端の部下らしいが、柚木菜のことである。

 今もなお研究室にいる水渓の計らいで、日本全国にその存在が知れ渡ってしまった。

そして、その応援の熱は並ならぬものがあった。

元々、巫女姫の信者、正確にはフォロワーは数多くいたが、今回の台風の一件でたちまち全国区に広まってしまったのだ。

 その部下のサユキナが、実際にカメラに捉えられ、信者の、ぃゃ、フォロアーの妄信的な熱い声援はついに頂点に達したのだった。姿を目の当たりにして興奮しない信者はいなかった。そして、さらなる信者を増やしていったのであった。正確にはフォロアーさんだ。

その多くの人達の応援は柚木菜に力を与えた。

人の思い、熱き情熱は未知なるエネルギーになり、柚木菜の中には注ぎこまれた。

今の自分なら、モノを作り出せる。それこそ神の力だ。

とはいえ、それなりの対価は必要だった。

 柚木菜は自分の分身を誕生させたときの苦るしみを思い出した。

 また、あんな思いをしなければいけないのか……

 と言っても、髪を引きちぎられた痛みと、処女を失うときの痛みなのだが、肉体的な痛みよりも、心の痛みが大きかった。

そもそも自分のコピーなのだから自分の細胞を使ったのだが、モノの場合は一体どうすればいいのだ?

「そんなこと言っても、やり方がわからないよ」

こゆきは少し考え、手で銃の形をかたどり、柚木菜に向け構えて言った。

「じゃあ、自分の好きなモノを具現化とかはできるんじゃないのかな? 私にはできないけど、ママにならできるはずだよ」

「好きなもの?」

 はて、自分の好きなものは一体なんだったっけ…… そうだ、あるではないか。

「よし、じゃあ、出してみるよ」

 好きなものはチーズケーキだ。カフェ・ド・ジゲンのチーズケーキ!

 イメージイメージイメージ……

「………………でろっ!」

 一同が見守る中、床の上に光が現れ、一瞬強く光ると、物体が現れた。

 ティーカップとポットそして本命のチーズケーキがのったお皿だ。

妖精もどきから歓声が上がった。大好きなチーズケーキが現れたからだ。

「おおっーすごいほんものだよこれでもひとつかもっとだしてよじゃんけんできめるそれともはやいものがちふぉーくとすぷーんないけどどうーするのけちだなこいつひとりじめかよ……」

「……ママ、好きな食べ物を出すのはいいけれど、もう少し気を使ってくれないかな?」

「ごめんごめん、あと六つ出すね、…………出ろ、六つ!」

 さらに光が六つ現れ、チーズケーキ紅茶セットが出できた。

「やるなさすがわたしだとうぜんよねはやくたべよおいしそうねひさしぶりだわさいしょからだせっていうんだもったいぶりやがってだしおしみするなここのやきがしってさいこーよね……」

「……はいはい、食べてください、キナコ隊用のフォークとスプーンも出したから」

「わーっ、すごいね、ママの世界の食べ物なんだよね。どうやって食べるの?」

「ふぉーくでわってたべてこゆきはおおきいからそのままてでたべてもいいわよひだりてでふぉーくでこていしてないふできってたべるのよそそのままかぶりつけじょーひんぶるなふつうにたべればいいのよ」

 キナコ隊の六人が一斉にしゃべり、こゆきは誰の話を聞けばいいのか右往左往した。

「あのぉ、バラバラにしゃべると全然分からないんだけど…… それにしても、ちっちゃいママってみんな性格が違うんだね……」

「ほら、早く食べてちょうだい。もう時間が無いんだから」

 確かに自分の知っているモノなら実体化することができた。でも知らないモノはやはり無理なのではないか……

 こゆきが、チーズケーキをフォークで刺して、口に頬張りながら言った。

「いひゃはるふきにゃはそにょみゃんんみゃふくしぇいでひるひょ」

「は? 食べながら喋らないでよ。何言っているのか全然わかんない」

 こゆきは、口の中にあるチーズケーキをようやく食べきり、ティーカップの紅茶を口に含んで一息ついた。

「このケーキと紅茶、まじおいしいっ。ママ世界ってサイコーだね。スキンシップもサイコーだし」

「こゆきっ、それは言わないでっ。って、それが言いたかったの?」

「ちがうよ、今ある武器は、そのままコピーできるんじゃないの? って言ったんだよ」

「でも、私、武器の構造なんて知らないわよ。名前も知らないし」

「でも、ママはこのチーズケーキの材料なんて知らないでしょ。作り方だってそうだし」

 確かに言われてみればそうだ。食べたことがあるから味は知っている。でも、それ以外は何も知らない。

 銃だってそうだ。使ったことはあるが、構造は知らない。同じではないか。

「そうだようね。言われてみれば、そうだよ」

「じゃあ決まりね。でも、その前に、キナコ隊をどうにかしないと。こんなに小さいと、持てる銃も小さくなってしまうよ」

「じゃあ、キナコ隊を大きくすればいいのよね」

 現在、柚木菜の分身、妖精もどき達は身長15センチに対して、チーズケーキ10センチに喰らいついていた。

 質量的にはチーズケーキの方が大きいだろうか。

 柚木菜は妖精のような自分の分身が、自分と同じくらいの大きさになるのをイメージした。

「キナコ隊、大きくなれっ!」

 必至にチーズケーキに喰らいついていた小さな存在は、身体が光出すと、みるみる大きくなっていった。

 そして、柚木菜と同じ大きさになった。

 もちろん裸だった。小さなときは裸で胸をプルプル震わせていても可愛いなと思っていたが、いざ大きくなって、目の前で裸体をさらしているのはさすがに抵抗があった。自分の裸を見られているようで気恥ずかしい。

 ついでに服も用意した。最初に柚木菜が着ていた女神スタイルだ。自分も下半身裸だったし、上半身も血まみれだったから、こちらも新調した。

 自分はやはり白色、あとの五人はそれぞれ五色の色に分けた。

 赤、青、緑、黄色、ピンクと、何だかヒーロー物の色分けだった。

 身体が大きくなった自分の分身は、文句を言ってきた。

「ちょっと、食べ終わるまで、どうして待てないの」

「何この服? マジださくない?」

「私この色いやだな。紫が良かった」

「私が六人。でもリーダーは当然、この私よね」

「チーズケーキのあとは何が出てくるのかな。楽しみっ」

「ちょっと、勝手なこと言わないでよ。オリジナルは私なんだから。あなた達は私の分身で、これから虫退治にいくのよ。分かっているの?」

五人のキナコ隊は一斉抗議した。

「むしたいじそんなのいきたくないむしきらいわたしじゃなくてもできるでしょるすばんはまかせてねいやだよいかないむしきらいむしってころすのつかまえるのそれっておいしい……」

「ちょっと同時に喋らないでよ…… とにかく虫退治。そのためにあなた達は私のお腹から生まれたのよ」

「ぅわまじきもじぶんでじぶんうんだのやばくないひとりてやったってことなのまじどんびきへんたいじゃないひとりえっちでにんしんなんてありえないきっとやんでいたのねばかじゃないの……」

「だからぁ…… こゆきぃ、なんとかしてぇ……」

「ママの分身だからなぁ…… 子供の私がいうのもなんだけど……」

と、こゆきは言ったが、今のこゆきは結構な大人だ。二十歳前後に見えるだろうか。柚木菜から見ても十分年上に見えた。

「こぉらぁっ! 貴様らぁ! たるんどるぞっ! 今から聖戦に向かおうというとにその態度はなんだっ! 貴様らに戦士の誇りはないのかっ!」

周りの空気が一瞬凍りついた。

六人の視線がこゆきに集中した。

「ぁ…… ぇっと……」

こゆきはたじろいだ。

キナコ隊の赤い服を着た通称キナコレッドはこゆきを睨みつけた。そして、ヅカヅカと近づき口を開いた。

「申し訳ありませんっ! 私めの、腐った性根を鍛えなおしてください。我はこの戦いに命をかける所存でありますっ!」

「ぉ、おうっ! よく言ったっ!」

突然の申し出にこゆきはびっくりし、柚木菜の方を顧みた。

「最近、韓流ドラマを観たから、その影響かな……」

「キナコレッドは色の通り、情熱的なのね…… ょし。他のみんなは依存ないかっ?」

念のため後の四人の顔を見る。

「レッドがやるなら、あたしもやるよ」これはブルー。

「やるやるっ。楽しそうじゃんっ!」これはイエロー。

「この世界を綺麗にするためなら、私、やります」これはグリーン。

「ぇー、みんなやるなら、やるしかないじゃん」これはピンクだ。

ょし、いけるっ。これなら、きっといけるっ!

柚木菜は新たな仲間に、期待を膨らませた。だって、この人はこの人達は自分自身なのだから、大丈夫だ。他の誰でもない。私なのだから……

キナコレッドが口を開いた。

「早く敵を殺したいなぁ。銃で射殺するんだろう。それともナイフで一刺しか。どちらもいいなぁ」

「掃除ならちりひとつ残させないわ。汚れたものは全て排除よ」これはキナコグリーン。

「みんなで殺し合い? それとも虐殺ってやつね。なんだか楽しそーじゃん」これはキナコイエロー。

「早いところ終わらせて、みんなでお茶しようね」これはキナコピンクだ。

「あなたたち、私の足を引っ張らないでね」これはキナコブルー。

五人のそれぞれの面々を見たような気がして、柚木菜とこゆきは顔を見合わせた。

「ママって、多面性な性格なんだね。表の顔と裏の顔じゃあ、全然別人だね」

「はは…… 全然心当たりがないわけじゃないんだけど、こうも自分の闇をさらけ出されると怖いわ……」

 確かに五人はそれぞれに個性的だった。それが柚木菜の本性の一部だと思うと、まさに他人事ではない。ある意味それぞれが、自分の特質した箇所を強調したかのようだった。

「柚木姐、それでカチャはあんのかよ」

 これはレッドだ。口調も気も強そうだ。

「ユキネエ? 私のことか? カチャってなんだっけ?」

「ママ。銃のことだよ。まずは私達の武器も揃えないといけないね」

「ぉぅ、あんだろ。記憶の隅っこに馬鹿でかい銃をぶっ放して皆殺しにしているシーンがあるぞ。どうしたんだ、あの銃は? 出し惜しみすんなよ」

「銃乱射事件みたいに言うな、聞こえが悪い…… あの銃は前の戦いで真っ二つにされたんだよ。だから、もう無いの」

「けっ、しゃーねーな。じゃあ豆鉄砲の方はあんだろ?」

レッドの質問に、 今度はこゆきが答えた。

「MP5こゆきスペシャルならまだ三丁目あるよ。後、M416とP220が二丁ずつあるかな。F35の備品なんだ」

「なに、そのエムなんとかとか、220とかって、銃なの?」

「アサルトカービンと自動拳銃のことだよ。ママはそんなことも知らないの? 常識だよ」

「じゃあ、オレはP220がいいな。銃と言えばハンドガンだろっ」

こゆきがため息をついた。こんな銃ではとても対応できない。

せめて、自動小銃があと十丁は欲しい。できれば、グレネード付きでだ。

「ねえ、何か効率のいい武器か方法はないのかしら、あと、30分でむし達を殲滅させるなんて無理だわ。一つのエリアだけならいいけど、あと、ざっと、伏見、金山、今池、星ヶ丘、大須の六ヶ所あるのよ。一人一エリアで対応する?」

「それは、危険だよ、また人型の虫がいたら援護する人がいなくなるし、やられちゃうかもしれないし、今はみんなで行動したほうがいいよ」

「そうなると、やっぱ武器だよね。何かいい武器はないかな」

柚木菜は頭をひねって考えを搾り出そうとするが、そもそも武器のこのなど詳しいはずもなく、無駄な行為だと思えた。

「ねえ、ママ。とりあえずコレ、コピーしてよ」

と言って、こゆきは後ろに置いてあった黒いヒコーキのF35を指した。全長15mほどの黒い戦闘機だ。

「……これ? マジ?」

 柚木菜は目をぱちくりさせた。

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