第13話 再び

 気づけば少し前に通っていた穴の前にいた。ほとんど勢いだけでここに来てしまったがアイラに聞けば何か分かるかもしれない、そんな期待がどこかあった。  しかし……。

「そんなの今、初めて聞いた」

 そんな期待は一瞬で砕かれた。

「それに別れてからそこまで時間が経って無いんだからその程度、少し考えれば分かると思うけど?」

 それどころか駄目だしで追加口撃もしてきた。

「……まぁ自分の親が危険な状態にあるって聞けば動揺するのも分かるけど。その討伐隊? が向かっている場所も分かるし、聞いた限りだとまだ全滅したとも限らない。……私が様子を見てくるわ」

 それでもアイラは親切にそんな提案をしてくれた。ただ、やってもらうだけというのはていが悪い。

「俺も行く」

「いや、今の君に付いて来てもらっても邪魔になるだけよ」

「…………」

 いや分かる。確かに今の自分と一緒にいても守る対象が一人増える分、足手まといになるだけだ。。それは事実だが……。

「……言い方悪かったのは謝るよ……」

「いや、誤られた方が心に響く……」

「…………そ、そうだ、その代わりこれから子ども達を連れて食材探しに行く予定だったからそれを手伝ってあげて」

 アイラはごめんねとジェスチャーして、そのまま逃げるように外に出ていった。


 そんなこんなで現在、俺はアイラの代わりに子ども達と共に食材探しをしていた。子ども達に話を聞いてみるといくつかの畑のようなものを作っているらしくそれを循環するのが基本らしい。俺は大きな籠を背負い、子ども達の案内を頼りにその畑を目指していた。

「凄いな……」

 畑を見て、無意識のうちに口から感嘆の声が零れる。檻の内部は乾燥しているイメージが強かったが、檻の内部にある小さな川の周辺はオアシスのように緑が茂っていた。その中にアイラが所持する畑の一つがあった。畑はきちんと網に囲まれていたり、鳥よけのような罠があるなど、所々に苦労の跡が見て取れる。

 子ども達の話を聞き、立派に育った野菜を摘み取っていく。その手伝いをしていると、一人の子どもが俺の服を引っ張る。

「どうしたんだ?」

「あそこ、あそこ。あれ、アイラがいつもとってくれるの」

 そう言われ子どもが指している方向を見ると、川に鳥の群れがいた。どうやらあれを捕まえ、食卓に出ることが子ども達の少ない娯楽と言う事らしい。そう言われると、アイラの代わりという役目である以上、やるしかない。

 俺は近くに落ちていたちょうどいい石を見つけそれを即興で作った紐が両端に付いている布に包む。そして一方の紐を指に括り、もう一方を同じ手で掴み、そして頭上でそれを回す。そして、狙いをつけ、石を放つ。石は見事、鳥の群れの一匹に命中した。

「すげぇぇぇぇぇぇ」

 子ども達からの歓声を浴びる。

 いわゆる投擲というやつだ。子どもの頃、いたずらに使用できそうという理由でバレルと共にかなり練習した。

 この調子だとまだまだ腕は衰えていないらしい。

 それからしばらく、子ども達と一緒に畑仕事を行った。

 その帰り道、子ども達から是非あの技を教えて欲しいと口々に言われた。この状況はとても良い。尊敬の眼差し、普段受ける事が無い俺にはとても嬉しいものだった。

 家が見え始めた頃、一人の子どもが大声で叫ぶ。

「あれ、あれ……」

 子どもが指した先、どうせ鳥か何かだろうと余裕ぶっていた俺に現実は痛く襲い掛かった。

「ヴィ……、ヴィルス」

 遠くからでも分かるその真っ黒な巨体があった。まだ遠くにいるが視線は確実にこちらを向いていた。距離的に子ども達は家に入る事は可能だろう。そんな事が咄嗟に浮かんだ。

「早く家に戻れっ!」

 俺は近くにいた子どもに自分が背負っていた籠を渡す。

「で、でも……」

「いいから、早く戻れ」

 焦っているせいもあるかかなり嫌な大声を出してしまった。

 しかし、子ども達も察したのか、家の方角へ走っていった。

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