第7話 夢
夢。これは夢だ。
目の前には小さい頃の自分と、まだ早起きだった頃のレインがいた。
庭での修行、それはいつかの日の再生だった。
素振りをしているレインは俺に尋ねた。
「なぁ、どうしてレインは強いって言われるんだ?」
確かこの日の前日に俺は剣聖の称号の意味を知った。
「強い? あぁ、そうだな。答える前に質問だがお前はどういう奴が強いと言われ ると思う?」
「どんな奴が? そりゃもちろんどんな戦いにも勝つ奴に決まっているでしょ」
その気持ちは今でもほとんど変わらない。どんな場面でもそこに凛としている存在。それこそが強者としての存在だ。
「確かにそれも強い奴だ。でもな、本当に強い奴は負けないんだ」
「負けない?」
「そうだ負けないんだ。負けないように戦う、それが本当に強い奴がすることだ」
「負けないって事は勝つって事じゃん。それなら俺の言っている事と同じじゃん」
「そう言う事じゃない。……、そうだな、ようは最終的に勝つ奴が強い。負ける戦 いを避け、勝てる戦いを戦う、そう言う奴が強い奴だ」
「そんなんずるだよ……」
それはずる賢い奴がする真似だ。
そんな者が強いと、身内であり師であったレインの口から出たことは少なからずショックだった。
「確かにお前の考えの中ではそうかもしれない。でもな、世の中で強いのはそう言 う奴だ。それに勝てない戦いと分かって戦うのは勇気では無い、蛮勇って言うん だ」
「でも、それでもさ……」
「最終的に勝てばいいんだ。確かにその場で逃げるってのは恥かもしれない。でも な、その恥を受け入れるっていうのも一つの強さだ。その恥を受け入れて、必死 に努力して最後に勝つ奴、それが本当の強い奴だ。それにな、ガンガン行ってや るって言う奴の死に顔は大抵見苦しい。命を大事に、生きていれば何度でもやり 直しが出来るんだ」
「いいか、死が誉れだと言った人間の死に顔は碌なものじゃない。生きて足掻け、それが強者の抱える強さだ」
レインは優しい笑顔を浮かべ、まだ納得しきっていなかった俺の頭を撫でた。
それが在りし夢の終わりだった。
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