第4話 相談

 家に辿り着くといなやバレルが口を開く。

「いっしょにヴィルスを倒しに行かないか?」

「はっ?」

 言いたいことが言えてすっきりしたのかバレルは勝手に食糧庫を漁って食べ物を探していた。あの時、少しでも同情していた俺の気持ちを返して欲しい。それにしてもやはり、俺の幼馴染の危機管理能力はちっとも作動していないらしい。

「もしかして、それがさっき言っていたお願い、なのか?」

「そうだよ。流石にこんなことを他の人間に聞かれたらやばいだろ?」

「そういうレベルの話じゃないと思うんだが……、というかどうしてそんな急   に?」

 昔からバレルはヴィルス討伐を志していた。確かに病的な部分も見られたがそれは昔の話だ。最近ではバレルの口からヴィルスという単語も聞かなくなっていた。

「まぁ小さい頃からの夢だったしな」

「それは知っているよ。ただ最近はそんな事一言も言わなくなったし」

「それはまぁ……色々とあったんだよ。現実を見たってのもあるけどさ」

「じゃあどうして? というかそもそも許可貰ってない俺たちが檻に入れるわけな いだろ?」

「いやいや、実は中に行ける方法があるんだよ、俺たちでもさ」

 まただ、あの少年のようなキラキラした目。

 あれは危ない目だ。あの目をしたバレルと行動して良い方に転んだ事なんかゼロに等しい。脳内で幼馴染に対する警報が鳴る。

「でもそんな事をしてバレたらどうするんだよ。叱られるとかそんなレベルじゃす まないぞ」

許可をもらわなければそもそも壁にある入り口にすら近づくことは出来ない。それこそ国家が関わるようなものだ。今までのいたずらのようなものとは次元が違う。

「そんな事にびびってるのか? 

 例えバレたとしてヴィルスさえ倒しとけば叱られたりしねえよ、それどころかも う英雄扱いだぜ、きっと」

「ヴィルスに勝てれば、の話だろ。そんな現実上手くいくわけねえだろ。

 今までどれだけの人間が立ち向かって敗れて来たと思っていんだよ」

「だからこそ、だろ? 英雄になるのがそんな簡単なわけないしな。

 それに俺の出来る限りの準備は既にしているんだよ」

「準備?」

「さっき中に行ける方法があるって言っただろ。

 まぁそんなこんなでここ数日間ずっと準備をしていたってわけだよ」

「バイト行ってない原因ってまさか……」

「その準備のせいだな。まぁ未来への投資ってやつだよ。

 流石にヴィルスを倒した英雄様にはガイルも怒れねえだろうし」

「…………」

「どうしたんだよ、いきなり黙りやがって。もしかしてこの俺の天才的な考え   に……」

「いや、それはない。よくそんな捕らぬなんちゃらの皮算用で行動できるなって感 心していたところだよ」

「褒めても何もでないぞ」

 バレルは鼻を伸ばしつつ照れる。どうやら皮肉を皮肉と理解できないほどには頭がいいらしい。そんな頭の奴の準備など正直信用できない。

「どんだけ準備したんだよ?」

「どんだけってそりゃあまあ、寝床の確保もしたし、一週間分程度の食糧も準備し た。それに応急手当のセット、後予備の武器とか、後もう少しい雑多なものをち らほらと」

「……思っていたよりも随分と準備は良いんだな」

「当たり前だろ? 流石に俺もただ死ぬために行くわけではないからな。で、どう するんだ?」

「どうするって言われてもなぁ……」

 俺もこの街で育って来た人間として、ヴィルスを倒すと言う事に関して憧れを持っているのは確かだ。しかし、国の援助を受けた実力者すら成功したことが無い事を、素人二人で行こうとしているのはまた話が違ってくる。それは無謀な蛮勇に過ぎない。それにこれは師であるレインの教えから最も離れたものだろう。

 それでもどこか、行かなければならないという使命感があった。

 それがどうしてか分からない。

 もしかすれば一時的なテンションのせいなのかもしれない。それでも……。


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