第3話 友人

バイトからの帰り道。今日は給料日だというのにどうにも気持ちが高ぶらない。その理由は考えるまでも無く明白だ。

「あいつ、化け物かなんかなのか……」

 強いという話を聞いてはいたがまさかあそこまで強いとは思ってもいなかった。不意打ちに自信を持つというのもおかしな話ではあるが、あれは確実に決まる技だと自負していた。それなのにあんな容易く止められるとは……。

 しかもそんな相手に強いと言わせたレインの存在。

 自然とため息が零れる。

「駄目だ駄目だ。……どうせ家に帰っても人がいるわけでもないから外食でもするか」

 自分の頬を二度ほど叩いて気持ちを入れ替える。こういう時は切り替える事が重要だ。変に引きずっても何もいいことは無い。どこに食べに行こうか、気分を変えようとそんな事を考えていると突然後ろから肩を叩かれる。振り返るとそこにはフードを被った人物が見えた。

「どちら様?」

「俺だよ、俺」

 フードの人物が顔を出す。何処かの不審人物、という訳でなくフードの中にあった顔は良く見知った幼馴染の顔だった。

「あぁ、バレルか」

「何だよその反応は……。というかさっきからずっと声かけたのに無視はひどくないか?」

「そうだったのか? 考え事してたせいで気づかなかった」

「お前が考え事?」

 随分と失礼な言い草だ。俺だってそういう気分になることだってある。

「あのなぁ……。それよりもガイルのおっさんがぶちギレしていたぞ。

バイトを無断欠席してたとかで」

「あっ……、あぁ」

 バレルが目を逸らす。安心した、俺の幼馴染はどうやら危機管理能力はちゃんと作動しているらしい。

「ったく何でサボったんだよ。こうなる事なんて想定できるだろ?」

「まあ色々あるんだよ」

「色々って何だよ……」

「それはな……っと、ここは駄目だ。ちょっと二人きりになれる所、そうだなお前の家近いからそこで話をしようぜ」

「はっ? いやこれから俺、晩飯食いに行くからさ」

 幼馴染の目を見れば分かる。あれはとんでもない厄介事に首を突っ込むときの目だ。キラキラとした目は子どもの頃から何も変わっていない。

「そんなの後でもいいだろ。とにかくほらっ」

 バレルが無理やり俺の腕を掴むとそのまま俺を引きずって俺の家に向かおうとしている。

「ちょっと待てって」

「何だよ?」

「何だよ? じゃねえよ。何をそんなに急いでいるんだよ。こっちは働いてくたくたなんだぞ。話を聞いてほしかったらそれなりの態度っていうものをだなぁ」

バレルはしばらく考える素振りを見せた後、観念したように言葉を吐く。

「……お願いがあるんだよ」

「お願い?」

「あぁ。それで二人で話がしたいんだ。……あまり人に聞かれたくないんだよ」

バレルの見せる表情はいつも彼が見せるそれとは違った。そのせいだろうか、少し話を聞こうと感じた。


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