1-4 《その場しのぎのバル》と新人冒険者

「お帰りなさい。どうでしたか?」


 ニエベはホッとした表情で四人を迎え入れ、バルに尋ねた。


「何とかこなせたよ。後、雌のアウズンブラが一頭だけ、川のほとりにいた」


「雌のアウズンブラが……?」


 ニエベは不可解そうな表情で聞き返す。

 帝都付近にアウズンブラがいるのは珍しいと、帝都のギルド職員ならば当然把握している情報だった。


「分かりました。情報提供ありがとうございます。上に報告しておきますね」


「次に依頼された品だけど」


 とバルは言ってから後ろで大人しくしている三人娘へ目を向けた。


「これでいいのよね?」


 ハイレンの枝を取り出してカウンターの上に並べ、エーファが尋ねる。


「はい。そうですね。特に問題はないようです」


 ニエベは慣れた手つきで素早く品物を確かめ、満足そうに頷いた。


「報酬は一万トゥーラ、情報提供料が二十万で合計二十一万トゥーラになります」


 彼女の発言を聞いた少女たちは、嬉しそうに頬を緩める。

 帝都に在住の職人の日当がおおよそ一万トゥーラくらいだと考えれば、なかなかの稼ぎと言えた。

 銀貨が入った革袋を受け取ったエーファは、ニエベに尋ねた。


「報酬の分け方はどうすればいいの? と言うか、バルにはいくら払えばいいの?」


 彼女の発言にニエベは一瞬目を丸くしたものの、好ましい変化だと思ってにこやかに回答する。


「バルさんには二割を払えばいいですよ」


「そうなんだ。少なくない?」


 エーファのこの発言に、ニエベは今度こそ本当に驚いた。


「ずいぶんと変わったわね」


 と言われた生意気な少女は恥ずかしそうに目を逸そらす。


「……自分の馬鹿さに気づいちゃったから」


「いい傾向よ」


 彼女はそう言ってから、バルに目を向けた。


「今回はどんな手を使ったんですか、バルさん?」


「何と言うか、運が良かっただけだね」


 彼は微笑みながら謙遜する。

 ニエベは信じなかったようで、呆れたような視線で彼を見た。


「もう、そんなんだから《その場しのぎのバル》だなんてあだ名がつけられてしまうんですよ」


 不満そうな抗議をバルは笑って聞き流す。


「はは。事実だから仕方ないさ。今回もたまたまアウズンブラがいてくれたおかげで、情報提供料をもらえたんだしね」


「運がいいのも大切ですよ、冒険者って」


 ニエベは謙遜するなと言う。

 エーファは袋から帝国銀貨を四枚と大銅貨を二枚抜いて、バルに差し出す。


「はいバル。四万二千トゥーラ」


「ありがとう」


 黒い安物の財布に銀貨をしまった彼に、彼女は問いかける。


「もしもよかったら、また組んでくれる?」


「おや、俺でいいのかい?」


 バルは意外そうに聞いた。

 エーファは顔を赤らめてうつむき、もじもじとしながら頷く。


「ええ。みんなもいいわよね?」


「いいですよ」


「バルさんなら頼りになりそうだものね」


 二人も笑顔で賛成した。


「変われば変わるものね。お見事ですわ、バルさん」


 ニエベは嬉しそうに少女たちを眺めながら言う。


「今日のところは解散して、また明日頑張るといいよ」


 バルは照れたように目を逸らし、少女たちに声をかけると三人は素直に頷いた。


「分かった。そうする」


「あの、打ち上げしますけど、よかったら、バルさんもどうですか?」


 ヘレナがおずおずと聞くと、バルは少し迷ってから首を縦に振る。


「うん、参加させてもらうよ」


 新人冒険者たちとの交流も、彼の仕事のうちだった。

 親しくなれば、その分素直に聞く耳を持ってくれる者は少なくない。


「やった! ……あっ」


 エーファは手を叩いて喜び、直後に我に返って真っ赤になって沈黙するという姿が見られた。

 その様子を見ていた者たちはニヤニヤしていたが、誰も何も言わなかったのは冒険者の情けというやつである。

 そそくさと逃げるようにギルドから出て行ったエーファを、イェニー、ヘレナ、バルの三人が追いかけた。



【次回:七級ながら、どこか余裕を感じさせるベテラン冒険者バル。その正体がついに明らかに!】

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