2-7

 翌日も異世界に入ると、拓は門を潜り、町へと入った。

 早いうちに、安全なセーブポイントを町の中に確保したいところだ。


 明確な時刻を持たない世界なので、鐘三つの頃というアバウトな待ち合わせ。

 鐘三つは大体午前8時だ。

 鐘一つが朝4時で、2時間おきに鐘が増え、午後2時から午後の鐘一つにリセットされる。

 拓はまだその時間まで居た事が無いので聞いた事が無いが、夜の8時に夜の鐘一つ、夜10時に夜の鐘二つ、というのもあるそうだ。


 それはともかく、待ち合わせの広場には既にマキナの姿があった。

 泉を囲む石垣に座って足をブラブラさせていたが、拓を見付けると笑顔で立ち上がった。


「おっはよー、タク。

 昨日はよく眠れた?」


 屈託無い笑顔が眩しい。

 しかし、この距離感と言い、勝手に姉気取りな所と言い、何だかよく知っている人物に似ている気がする。

 いや、気のせいに違いない。


 しばらく世間話をしていると、ニナがやって来た。

 ニナが到着するとマキナはニナの元に行き、昨日買ったアクセサリーがどうとか、女子トークを始める。


「全く、あたしをあんなお尻の青いお子ちゃまと重ねないで欲しいっす。」


 振り向くと、ネーレが腕を組んで立っていた。


「いやいや、神出鬼没すぎでしょ?」


「だってだって、タッくんのお姉さんポジションが危うい予感がビシビシするっすよー。

 勝手にお姉さんを増やさないで欲しいっす。」


「そもそもあんたも勝手に姉になってるじゃないすか。」


 そこに、クーリオとマニブスも到着する。


「うす、タク。

 今、誰と喋ってたんだ?」


 その言葉にネーレの方を振り向く。

 ネーレはすまし顔で拓にウィンクをしている。

 何のアピールだろう。


「いや、ちょっと詠唱の練習を。」


 苦しい言い訳にも意外とあっさり納得されて、クーリオ達もマキナの元に向かう。


「やっぱネーレって他の人には見えないんだ。」


 今まで一緒に居て、魔物や獣が全くネーレを認識していない風だったから、そんな予感はあった。


「正確にはちょっと違うっすけどね。

 あたしが存在を見せる相手を選んでるっすよ。」

 そんな発言で、ますますネーレの謎が深まる拓だった。

 バチコン、とこれみよがしにウィンクしてくるのは勿論スルー案件だ。


 本日のクエストを吟味するため、冒険者ギルドに向かう。

 移動を始めた頃、ネーレも姿を消した。


「がんばって弟力上げるっすよー。」

 などと手をひらひら振りながら。


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 冒険者ギルドは朝一番の為か、なかなか活気にあふれている。

 この町は、東西南をぐるっと深い森に囲まれているため、冒険者の仕事もそれなりにあるらしい。

 屈強な男がたむろする中、小柄な亜人種の者も散見される。

 リアルケモミミを目前にすると、またもやゲームの中に入り込んだ錯覚が襲う。


 壁の掲示板に向かうと、色取り取りの紙片が張り出され、大小様々なクエストが並んでいる。

 大きな依頼と言えば、他の町までの行商などの護衛や、大型の魔物の討伐。

 もちろん大型の魔物の討伐なんて、そうそう滅多にある物ではない。

 これらのクエストは銀階級以上の上級冒険者でないと受けられないケースが多い。

 小さな類いの物は昨日の採取系の物から、弱い魔物の討伐、害獣駆除、建物の修理など様々だ。

 さすがに浮気調査が無くて安心した拓だったが、そもそもこの世界は重婚が基本らしく、男も女もわりと重婚するせいか浮気にも寛容だという。


「特に変わり映え無いなぁ。今日も採取でいっか。」

 クーリオが一枚の紙片を剥ぎ取り、皆に見せる。


「今日は時間に余裕があるし、昨日より少し足を伸ばそう。」


 紙に書かれていたのはフィトゥルーリアの採取。

 場所もやはりシムルと出会ったあの湖のようだ。


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 再びやって来た湖で、拓はメンバーと一緒に水草の採取に勤しむ。

 それほど期待していたわけでは無いが、やはり湖にブラウニーの姿は無い。

 

 隣で作業しているマキナに、拓は聞いてみた。


「この辺に、ブラウニーの集落があると聞いたんだけど。」


「ヴェネ・ブラウニーね。

 そう、あっちの方の森の中にあるんじゃなかったっけ。」

 そう指差す方向は、たしかにブラウニー達が去って行った方角のはず。

 近くにいたニナもうんうんと頷いている。


「いつかそのうちに行ってみたいよね。」


「行った事ないんです?」


「まぁ用事でもないとね。友好的な人達らしいけど。」


 いつかその用事が出来る日が来る事を願う拓であった。


「それにしても、今日は静かねー。」


「ん。魔物の気配が無い。」


 マキナの呟きに、ニナもボソッと答える。

 確かに道中も全く出会さなかった。


「こう静かだと、逆になんか嫌な感じよね。」


 拓はそれを知ってる。

 それはフラグってヤツだ。


 どうか何事も起こりませんようにと、胸の中で拓はそっと祈るのであった。

 

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