2-6

 敵襲を告げるニナの声が聞こえた瞬間、3人は驚くべき早さで散開する。

 呆気にとられている拓に、後方の繁みに向かいながらクーリオが言う。


「タクは離れたところで見ててくれ!

 まずは俺達の戦い方を見てもらう。」


 言われた通り、拓も邪魔になりにくそうな場所まで走る。


 ニナが現れた場所には盾を構えたマニブスが立ちはだかり、その後ろ十数メートル離れた繁みにマキナとクーリオが隠れたらしい。

 いつの間にかニナも姿を隠している。


 やがて、繁みから二頭の魔狼が飛び出してきた。

 最初に飛び込んだ魔狼を、正面からマニブスが受け止める。

 腕の長さの倍のサイズの盾が、しっかりと魔狼の体を抑えつけている。


 そこに、二頭目の魔狼が右側に回り込むようにしながら飛びかかろうとする。

 あと数歩で噛みつくというタイミングで、側面からニナが放ったナイフが牽制した。

 瞬時にそちらに方向転換する魔狼。

 走り始めるより早く、クーリオの矢が脇腹の少し上に突き刺さった。


 その動きを気配で察したのか、背中を見せていたマニブスが90度回転し、魔狼の姿をこちらに見えるようにする。

 間を置かず、今度は炎の軌跡が魔狼を捉えた。


 倒れ伏した二頭の魔狼に、それぞれ止めを刺して戦いは呆気なく終わった。


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「ほー。なかなか手際いいな。」


 何もしないのも気まずいので、一頭の解体を受け持った拓の手練を、クーリオが賞賛してくれる。

 毛皮を剥ぎ終わった肉塊は、マニブスが切り分けてくれた。


 女性陣の解体作業も終わったようで、合流した。

 マキナの炎に焼かれた魔狼の毛皮は売り物にならないらしく、穴を掘って埋められていた。


 一カ所に集めた魔狼の素材を、いつもの調子で回収しようと、うっかり拓は何の気なしにアイテムボックスを開いてしまった。


「えっ!?

 アイテムボックスの魔法!?」


「すっごい!

 初めて見た!」


 途端に4人が騒ぎ出したのを見て、拓はしまったと内心で焦る。

 考えてみれば、低レベルな少年がこんな非常識な能力を持つわけ無いだろう。


 口々に驚くメンバー。マニブスやニナですら興奮している。


「なんだよタク、魔法使えないとか言いながらすげえもん持ってんじゃねえか。」


「本当だよ。

 こんなすごい魔法使えるなら、王都の宮廷魔術師も夢じゃ無いよ。

 お姉ちゃん、感動だなぁ。」


「いや、宮廷魔術師はちょっと言い過ぎだが。

 強さも見合えば十分チャンスあるな。」


 どうやら、心配したほどには非常識ではなかったようだ。

 実際、この世界にアイテムボックスの魔法は存在するが、人間にとっては高度とされる光か闇属性の持ち主で、かなり熟達した魔術師で無ければ習得できない物ではあるのだが、ここにいるメンツでそこまで知っている者はいない。


 とはいえ、今後は少し慎重になろうと誓う拓であった。


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 その後、採取を続けながら数回、魔物との戦いが行われた。

 今度は拓も混じって、射線を邪魔しないような立ち振る舞いを覚える。

 ひどく気を遣うが、なかなか愉しい体験だった。

 チームで戦う事でこんなにも達成感を得られる物なのかと、しみじみ思う。

 時に声を掛け合い、時には声を出さずとも通じ合う喜びを知る。

 真剣なアドバイスと下らないジョークが同じ温度で交わされる。

 命を預け合う関係とはこんな空気なのかと、そのほんの一端ではあったがそれを窺い知れた事が、拓にとってとても有意義な時間であったのは間違いない。


 充分な量の採取も終え、町に戻った一行は、ギルドへの報告やら素材の売却をして、町の中心部に設けられた、泉のある公園のような広場にやって来た。


「じゃあ、タク。明日もこの場所で待ち合わせよう。」

 そう言って別れていくパーティ。

 早くも明日を待ち遠しく思う拓だった。


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