2-5
クーリオによると、拓と会う前に既に受けていた依頼とのことで、近場で素材の採取に向かう。
今の4人になってから日も浅いので、このメンツでの連携の確認の為に、簡単なクエストを選んだとのことだ。
薬草の素材となる目的の物は3種類の草や木の実が指定されていて、そのうちの一つに拓も知るコリントの実があった。
いずれも珍しい物では無いが、採取にはやはり森の中に入る必要がある。
今回は鐘が三つ鳴る前には町に戻れる、ということだったので、5~6時間で終わるはずだ。
西の門から町を出て、半時間ほど麦の類いであろう濃厚地帯を進むと、森の入り口が見えてきた。
もちろん、拓には初めてのエリアだ。
町から歩いてくる間、ずっとパーティメンバーそれぞれの得意な事、普段の魔物相手の戦い方などをレクチャーしてもらう。
特に、マキナに聞く魔法の基礎知識が興味深い。
マキナの使う火属性の魔法は、ゴブリン程度なら簡単に焼き払えるらしい。
「魔法って凄いんだね。」
「んふふ…それほどでもあるけどね。
安心してお姉ちゃんに任せなさいな。」
森の中での戦闘では大っぴらに使えないが、非常に頼もしい。
ゲームやラノベでよく見かける、ファイヤーボールとかファイヤーストーム、のような個別の技があるわけではないらしく、対象や威力、顕現させる形などは全てイメージに頼るのだという。
口の中でそのイメージを呟く事で、より正確に思い通りの魔法が使えるようで、きっとそれが詠唱のような物なのだろう。
また、マキナは火の相性が良かったが、人によって相性のいい属性とやらがあるらしい。
生物の種族別にも大雑把に基本の魔素(マナ)属性と言う物があり、個体によって得意属性にバラつきがあるのは人間くらいの物なのだとか。
基本的に人間は自分の得意属性の魔法を、自分のうちにある魔素(マナ)を引き出し使用するが、かなり上位の魔術師の中には、大気中から魔素(マナ)を用いる事で相性と関係なく様々な属性を操る者もいるという。
妖精族なんかも精霊を介して魔法を使うので属性に縛られにくいとか。
妖精族といえば、やはり湖で出会ったシムルも魔法を使えるのだろうか。
そんなマキナの攻撃魔法はもちろん強力なのだが、発動までの時間が長いのと、回避されるケースも多い。
そこをクーリオの弓を用いた遠隔攻撃がカバーするようだ。
後衛が安全に攻撃する為に、マニブスが盾で敵を抑える。
斥候のニナもナイフ片手に、敵を攪乱する。
「少数相手なら充分このメンツで問題ないんだが。
やっぱ、数で囲まれるとなぁ…。」
やはり前衛のアタッカーが入る事で安定するのだろう。
拓は自分に求められている立ち振る舞い方をシミュレーションしながら歩を進めた。
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「良し、この辺で少し採取しとこう。」
森に入って数十分。
木々の切れ間で木漏れ日が差し込む草むら。
最初の採取ポイントだ。
マキナに目的の草を見せてもらい、拓も同じ草を探し始める。
いつの間にかニナが居なくなっており、周辺の偵察に出かけたようだ。
しばらく黙々と作業を続ける一行。
拓も慣れない作業で、必死に目を凝らす。やっとそれらしき草を見付け、土から掘り出していると、いつの間にか近くに居たクーリオが、作業しながら話しかけてきた。
「タクは彼女いんのか?」
「ひぇっ?」
思いがけない質問に思わず変な声を出す。
「いないんか。
…うちの二人はどうよ?年上も悪くないぜ?」
「はぁ…?」
てっきりどちらかはクーリオのお手つきだと思っていた拓は、意外な言葉に首をかしげる。
「まぁ、マキナはちょっと残念な感じだけどさ。
ニナはあれで結構、優しいとこあるんだぜ。料理もなかなか美味いし。」
「ちょっと!
余計なお世話なんですけど!
大体何よ、残念て!
そういうのはせめて本人がいないとこで言いなさいよ!!」
マキナが振り向いて矢継ぎ早に文句を言う。
「いや、お前らがあんまり男っ気ないからよ。
そろそろ男の一人でも作っとかないと、行き遅れ街道が」
「うっさい、ハゲ!!」
「ば!ハゲてねーし!」
じゃれ合ってるのかいがみ合ってるのか良く分からないが、これはいつものことらしく、マニブスは平然と薬草探しを続けていた。
しばらくその言い合いを眺めていると、繁みの中からニナが飛び出してきた。
「敵襲。魔狼2。」
淡々と告げるニナの背後から、草むらを走る獣の足音が鳴った。
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