2-4

 拓が道具屋を出て、これからどうしようかと思案しているところに、背後から声が掛かった。


「あれ、君さっきギルドに居た子じゃない?」


 明るい女の子の声に振り向くと、色白でやや緑がかったストレートのロングヘアに、人懐こそうな顔をした女の子がいた。

 背は150cmくらいのスレンダーなタイプ、それでいて胸元はなかなかボリューミーで、羽織ったグレーのローブの下から確かな主張をしている。

 よく見ると長杖のような物も手にしており、いかにも魔術師といった格好だ。

 年齢は二十歳前後だろうか。

 どこかで見た顔のような気もする。


 女の子と一緒に、やや軽薄そうな金髪イケメンも近寄ってきた。

 こちらも同じ年くらいで、拓が腰からぶら下げている剣を凝視している。


「ほぉ、剣士か…。」


 こちらも見覚えがある顔だ。


 さらに後ろから二名の男女がやって来て、先ほどギルドで入れ違いになった冒険者パーティであることに思い至った。


「ねぇ君、君も冒険者なんでしょ?

 見かけない顔だけど、どこのパーティの子なのかな?」


 最初に話しかけてきた女の子が、親しげに聞いてくる。

 こんなにグイグイ来る女の子に相対した事が無かったため、拓は少し引き気味だ。


「マキナ、落ち着け。

 引いてるぞ。」

 金髪イケメンが間に入ってくれたので、女の子は一歩後ろに下がったが、なおニコニコと拓の顔を見つめている。


「あの、さっきギルドに登録したばかりで、特にパーティには…」


 おずおずと答えると、女の子がさらに笑顔になる。

 特別美人だとは思えないが、愛嬌のある笑顔にドキッとする。


「そうなのか…。

 なぁ、少しその辺で話さないか。

 今、うちのパーティは前衛のアタッカーを探してるんだ。」

 少し思案顔で、金髪イケメンはそんな事を言い出した。


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 5人で連れ立って近くの酒場に入る。

 まだ日も高いというのに、酒場にはそこそこ客がいる。


 席に座って、それぞれ簡単な自己紹介をした。


 まず、金髪のイケメンがパーティのリーダーで、20歳の弓使いのクーリオ。

 少し軽薄そうな印象だが、それゆえ人当たりが良さそうだ。


 続いて最初に話しかけてきた女の子が、魔術師のマキナ、19歳。

 火魔法とあまり効かない回復魔法が使えるらしい。


 痩せ型ながらも長身で、チームの盾役をやってるのが、マニブス17歳、男。

 灰色の短髪で、朴訥な感じの子だ。

 拓の級友(クラスメート)に自己主張が少ないが、話掛けると真面目に答えてくれるヤツがいるが、似たタイプに思う。

 地味系運動部だ。


 最後に褐色で小柄な女性、ニナ。

 マニブスと同じ17歳で、斥候をしているらしい。

 長い前髪で左目が隠れている。

 先ほどからほとんど話さないが、店内で人が動くたびに、さりげなく視線を送っている辺り、職業に身が染まっていそうだ。


 マニブスとニナは無口タイプらしく、クーリオ、マキナとバランスが良さそうだ。


 クーリオの話では、元々剣を使う男性がリーダーをしていたのだが、年齢的な理由で最近引退してしまったらしい。

 パーティメンバーに冒険者の手引きをしてくれた師匠のような人だったらしく、その存在感の欠落に依然戸惑っている印象を受ける。


「そんなわけで、俺たちと組んでみないか?」


 クーリオが言うと、すかさずマキナも便乗する。


「まずは、お互いお試しって感じでいいからさ。

 ね?

 悪くないよね?」


 拓もソロでのレベル上げに行き詰まりを感じていたので、グッドタイミング、渡りに船なのは確かだ。

 ただ、すでに冒険者の実績をある程度積んでるパーティに入って上手くやれる自信が無い。

 全員拓より2つか3つレベルが高いし、連携も取れているのだろう。

 拓は数回MMORPGで遊んだ事があるが、手慣れた人達の足を引っ張るのが怖くて共闘が必要なイベントを回避し、結果ソロプレイでは続かずに投げ出した記憶がある。

 それに、この世界の移動手段が馬くらいならば、クエストによっては野宿なんかもあるだろう。

 時間制限のある拓では、やはり足手まといになりそうだ。


 正直にまだ経験が浅い事を話すと、まずは簡単なクエストで連携を高めようと言われた。

 クエスト内容も一日掛からない物をしばらくは受けるという。

 そこまで言ってもらえるなら、拓にとっても有り難い話だ、腹を括ることにした。

 グループ行動の経験が少ない拓には期待と不安、同じくらいが入り交じり渦巻くこのソワソワした感じ、これは言うなれば持て余す感情だ。


「よし、話は決まった。

 よろしくな、タク。」


 立ち上がり手を差し出したクーリオに、慌てて拓も立ち上がりその手を握り返した。


「よーし、タクはお姉ちゃんが守るからね!」

 マキナも嬉しそうに握手している手の上から自分の手を重ねる。


 他の二人も、よろしく、くらいしか言葉は出なかったが、歓迎ムードのようだ。

 こんな時、どんな顔すれば良いの―

 分からない―


 まず最初に5人は、さきほど受けたという近場での薬草の素材採取へと向かうことにした。


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