第160話 証文石
激しい稲妻、激しい炎、絶対的な低温、強烈な重力、強烈な光、漆黒の闇
エルマーの賢者の石と僕の賢者の石の間で、空気、空間、光、水分、埃が性質を変えて現れた。
一方が、性質を変えて攻撃すると他方が打ち消す。かなり長い間、このやりとりが行われてた。
「ふん、生身の人属に何時まで持ちこたえられるかな? 」
と老人のエルマーは他人事のように呟いてきた。
僕は、高速に呪文を提唱しているが、装置のエルマーはより早く提唱する。鼻から口のかけて何か生暖かいものが流れる。多分鼻血だろう。
アーノルドは僕の横にやって来たが、手の出しようがない。下手に思念石を壊すと僕にどんな影響が有るのか判らないからだろう。実際、僕にも判らない。
「
とアーノルドは言うだけだ。
シェリーは、目を閉じ眉間にしわを寄せて、僕の提唱の高速化の支援をしてくれている。多分シェリーは僕の数倍の早さで、呪文を補完しているはずだ。
何時間経過したのか、それとも数分、数秒だったのか。僕の集中力が落ちて、次第に圧されてきた。僕の賢者の石の消耗が激しい。傷つき、欠け、小さくなっていく。
右手を握り、額に当てて、何とか集中しようと頑張った。
しかし、拮抗は破られ、巨大な衝撃波が、僕たち三人を吹き飛ばし、稲妻が僕を撃った。
「ご主人様、ご主人様、しっかり」
とシェリーが僕を揺らす。
そして、意識が消えた。
◇ ◇ ◇
「シェリー、
と俺はシェリーに願いながら、命令した。
「ここは、俺が食い止める」
とエルフラーマを正眼に構えて重力波を出しながら、エルマーの賢者の石の攻撃を躱した。
「でも、アーノルド」
とシェリーは不安げに答えた。
「頼む、おれは、あの日以来、
と頼み込んだ。
シェリーは自分がホモンクルスで有ることを負い目に感じて、人属より自分が下だと思っている。だから、自分が真っ先に死ぬものと思っている。
’違う。絶対違う’
「お前は俺の、かけがえのない人だ。だから、俺はお前も守る。守らせてくれ」
と言いながら、目の前に稲妻が走ってきたの見た。
「それに、俺が死ぬとはかぎらねぇぜ」
と笑って見せた。
「
と声をあげた。
シェリーは、頷き、
◇ ◇ ◇
シェリーは、落ちる時間をなるべく延ばすために、落下するジェームズを瞬間移動を繰り返して支えた。
そして、竜王二体が、急接近して、間一髪のところで両手で二人を捕らえた。
”大丈夫か、大魔道士殿、しっかりしろ”
と水竜王が思念を送ったが、ジェームズからは反応がない。
”シェリー殿、アーノルド殿はまだ中か? ”
と土竜王が聞いたが、シェリーは涙目でうなずくだけだ。
火竜王は、ドラゴン避け結界ギリギリの所を飛んで、アーノルドを待っていた。
◇ ◇ ◇
「なんと、面白くない。狼以外逃がしてしまった。お前は邪魔だ。消滅せよ」
とエルマーは手をかざした。するとエルマーの賢者の石が輝き始めた。
目が開けられない。眩しいし、熱い。
「
と死を覚悟したとき、
「儂の子に手を出す事は許さん」
と聞こえた。あの時の様に。
エルマーの光が弱くなり、老人のエルマーは辺りを見回した。
俺も
「何で、禿の声が聞こえんだ? 」
と喋りながら周りを見回した。
そして、
「ようやったの。ようやった。よう、皆を守ったの。後は、儂に任せて、逃げよ。ああ、ジェームズとヒーナに伝えておくれ、ジェームズは、アルカディアを再建し、ヒーナは新しい学び舎を建てよと。覚えたかのぉ。ならば行け」
と声を聞いたとき、フワッと後ろに引っ張られ、城の外に投げ出された。
◇ ◇ ◇
———三つ目の賢者の石、証文石が青とも緑ともつかない光を放って飛来し、魔族の城に衝突した———
「証文石!」
とエルマーが言葉を発したとき、証文石の八つの魔法が同時に発動した。
老人のエルマーは、首をくるくるまわし、手足をバラバラにバタつかせ、顔は笑ったり、怒ったり、泣いたり、そして子供になったり、女性になったり、魔族になったりと滅茶苦茶な様相になった。
「ロウを …… 切り …… 離さない …… と …… ま …… ず …… い ……」
と時々現れる老人のエルマーが途切れ途切れに呟いた。
———魔族の城が光った。日の落ちた夜空が、昼のように明るくなった。そして、衝撃波が火竜王を襲い、爆風が、地上のサリエたちを襲った。魔族の城は、北の大陸へ飛んで行く一群の思念石を残して消滅した。そして全く同じ時、ファル城外に居た魔族の王、デーモン王、ロウは、驚きの顔になった後、パラパラと砂で作った像が崩れるように消え去った———
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