第148話 合流

「ちっ、外の奴らは、無事か? 」

と俺は、ムルチに聞いた。


「ちょっと厳しいですね。助けに行きやす」

とムルチは答えて、踵を返す様に戻って行った。


「ムジ、クロは諦めろ。この、この縫いぐるみが此奴を抑えている間に、外の奴らを助けに行くぞ」

と、縫いぐるみを見て、ちょっと気が晴れたムジに命じた後、ナウムに顔を向けて頷き合った。


 俺たちが城の入り口を出ると、そこには大小何千もの魔獣達が、気が狂った様に暴れまくっていた。魔獣同士で闘っていたり、走り回っていたりと騒然としている。その中で、オーク戦士の一団が周りの魔獣から襲われている。


’ちょっと距離がある上に、魔獣どもがこっちに気付きやがった’

と蛮刀で襲ってくる魔獣を切り倒していると、何かの影が魔獣の近くに現れて、魔獣を消し去っているのが見えた。


「何だ、あれは? 」

白い光の輪が現れると、魔獣達は断末魔の叫びを上げる前に消えてしまう。そして、あっちこっちでその輪が現れる。


「魔物を一瞬で消し去るのは、物凄い聖素よね。取り敢えず、皆んなを救ってくれてはいる様だわね」

と俺の背中を守っているナウムが、蛮刀を振り回しながら答えた。


「救ってくれるのなら良いが、あんなものに触ったら、俺たちもタダじゃすまねぇな」

と俺はナウムに答えた。


「お頭、姉さん、上を」

とムジが、三連矢を射って魔獣を、殺した後、空に向けて指差した。


’人が空中に立っている。あの装束は魔法使いのものだ’

と考えていると、空中に魔法陣が現れ、そこから無数の光の矢が降って来た。そしてその下に居た魔獣達、ハリネズミの様になり倒れている。


ドドーン、ドドーン、ドドーン、ドドーン


と少し離れたところで爆発が起きた。それも無数の爆発である。


「おいおい、今度は何なんだ。敵じゃないよな。あんなのが敵じゃ、オーク戦士、千人居ても敵わないぞ」

と俺は情けない事だが、ナウムに聞かせた。


「多分、敵じゃないわよ」

と爆発音の真ん中あたりを指さした。


   ◇ ◇ ◇


「オラオラ、怪我したくなかったら、退け退け」

と大エルフラーマを背負い、小エルフラーマでちょいちょいと斥力重力波を出しながら進んでいく。


’馬ほど、じゃねぇが中々いいぞ、これは’

と俺は、あるじがよくやる様に自画自賛した。


 さっき、戸板を見つけたから、頭でっかちの小ゴーレムに担がせて、乗ってみたら中々良い。結構、速いしな。


「進め、あるじに負けるな」

と下の小ゴーレム達を叱咤した。


「おっと」

急に速度が上がったので、ひっくり返るところだった。


   ◇ ◇ ◇


 何か、板のような物の上に胡座をかいて座っている人属が向かって来ている。良く見ると、アーノルドさんの様だ。


「アーノルドさんかな。わっ、良く見ると縫いぐるみが、物凄い数だ」

と段々と近づいて来た大群の正体が解って来た。


 近づいて来た縫いぐるみ達は火炎を出すのを止めて、フワッと飛んで、魔獣にしがみ付つき、押さえつけていた。


 そして、

「おう、サリエ、久しぶりだなぁ」

と縫いぐるみに担がせた戸板の上に乗ったアーノルドさんが、片手を上げて挨拶して来た。


 何百と魔獣が暴れまわっている所を、まるで近所の親戚に挨拶に来たかの様なアーノルドさんに、何と言って良いのか咄嗟に思いつかず、

「どうも」

と俺は頭をコクリと下げて答えた。


「上にいるのは、あるじ、それから、あの辺で剣を振り回しているのがシェリーだ。それから、ここらにいる小さい頭でっかちは、俺の手下だ」

と親指を立てて空を指差した後、顎で光の輪のあたりを指し、周りの縫いぐるみを見回して紹介してくれた。

 少し遅れて離れていたオークの戦士たちもこちらに合流できた。それでも魔獣はまだ多く残っている。


「こんにちは、サリエさん」

とジェームズさんが、紐を片手に持って空から降りて来た。


 そうしている間にも飛びかかる魔獣には、アーノルドさんが大剣をブンっと一旋して切り飛ばし、ジェームズさんが、狙ってもいない弓の玄を弾いて射殺して行った。


 そして、

 キメラが、俺たちに向かって突進して来たが、尻尾が消え、ヤギ頭が消え、獅子の頭が消えた。


「こんには、サリエさん、ナウムさん」

と目の前に突然、人属の女性が現れて、長い剣を鞘に収めた。


   ◇ ◇ ◇


「さて、如何するか。城からは一向に反応がない。誰も居ないのか、罠なのか」

と僕は思案していた。周りでは小ゴーレム達が円陣を組んで魔物を近づけさせない様にしている。


「ジェームズさん、中はメル大陸の様式です。メルを旅したときに見たものと作りが似ています」

とサリエさんが話してくれた。


 僕は掌を握って、額に当てながら考えた。


あるじ、考えていても埒あかねぇぜ。ほら『何とかに入らずんば、なんとかを得ず』って言うだろう?」


「虎だ。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』 シン王国の古い諺だよ」

と僕は答えた。


 確かにこうして居てもしか方がない。


「アーノルドの言う通りかもな。僕たちはこの城を調査します。サリエさんたちは、どうしますか?」

と僕は額に当てていた手を放して聞いてみた。


「俺も行くぜ。こんなことは滅多にないからな。ナウムは残れ」

と僕に答えた後、ナウムさんに向かって言った。


 ナウムさんは、小ゴーレムの一体を、子供を抱き上げる様にしながら、

「あら、アチキも行くわ」

とサリエに向かって言わずに、抱き上げた小ゴーレムに向かって喋りかけていた。


 それを聞いたサリエは、唸った後、

「勝手にしろい」

とだけ答えて、僕の方を向いて、ニッと笑って、

「だそうだ」

と回答してくれた。


「判りました。では小ゴーレムを何体か先に行かせながら進んでいきましょう。中は何があるか判りませんから」

とサリエさんの肩越しに、シェリーがしゃがんで、小ゴーレムの頭を撫でているのを見ながら提案した。


あるじよ、小ゴーレムってのは、女の心を引きつけるまじないでも掛かってるのか? 」

とアーノルドが聞いて来た。


「いや、良く分からない」

と答えながら、オークの国でも、売れるかもしれないかと思った。

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