魔族の城 調査
第147話 魔族の城のゴーレム
――― その城は、黒い岩肌がむき出しで、無計画に組み立てられた不気味な佇まいであった。頂上の一番高い所から、真っ黒な煙を吐き出していた。その周りに様々な魔物達が集められていた ―――
僕たちは、竜王達に乗せてもらい魔族の城から離れた場所に降りた。数万体の小ゴーレム達も運んでもらったが、重量を羽根の軽さにしていたので、風竜王も簡単に運べた様だ。
そして竜王達は目立つので、この場所に待機してもらい、僕たちはデーモンの城が見下ろせる小高い山の上に移動した。
魔族の城を観察してみると、周りにはかなり多くの魔獣がいるが警戒感は全く無く、それぞれがボーッとしている様に見える。
案の定、アーノルドが口に出して言った。
「
と鞘に収められた、大エルフラーマに寄り掛かりながら感想を述べた。
火竜王の髭を入れて、直筆の刻印がされた、その大剣と短剣には、重力を操るだけでは無く、火炎が乗った重力波が出せる様になった。ただ、カーリンさんの様に精霊と契りを結んだ訳ではないので、アーノルド自身には、文字通り、双刃の剣になる可能性がある。それでも、ちょっと練習しているところを見たが、何とか上手く使いこなしている様だ。
「確かにそうですね。それと、さっきから城の真ん中あたりの入り口から、数体づつ中に入っている様ですが、出てくるところは見えないです」
とシェリーも観察した感想を述べてくれた。
ん? 魔物が入って出てこない。そして、あの不気味な煙。何か嫌な予感がする。魔物を使って行う事、魔族の魔法使いがやる事といえば、『キメラ』の創造だ。
上級魔族は、おおかた、魔法が使える。そして時々、ずば抜けて魔力が強く、知性も高い者が現れて、様々な事を行うが、その一つがキメラの創造だ。今の獅子の体にヤギの頭と蛇の尾っぽのキメラも数百年前に作られ、自然繁殖したもと言われている。
あの城の中には、魔族の魔法使いがいて、キメラの創造を試みているのだろうか?
デーモン王がホモンクルス、黒い塊の正体が微小なゴーレム、そして、デーモンの体液もゴーレムだった。とすると城の中にいるのは、非常に珍しいが、魔族の錬金術師なのもしれない。
などと考えていると
「
とアーノルドは、耳を穿りながら聞いて来た。
「無闇に入ると、何が起きるか判らないから、小ゴーレムに行かせてみよう」
と以前、死人の洞窟でやった事を試みることにした。
一体に自分の身に危険が及ばない限り、攻撃せずに入り口まで行って、中を探れと命じた。
すると、その小ゴーレムは、口を開けて笑ったあと、大きな頭を下げてお辞儀をして、魔族の城に向かって、ヒョコヒョコと歩き始めた。
ゴーレムは、そもそも無機質の機械なので、魔物たちからみると、石や岩の様なものにしか見えない。ただ、知性のあるゴブリンなどには、すぐに正体がバレてしまうが、見たところゴブリンはいないので、なんとかなりそうな気がする。
◇ ◇ ◇
途中、大型魔獣に踏まれそうになったり、尻尾で払われりしたが何とか入り口から潜入できた。
映像がイメージとして伝わって来た。
大きな、通路を魔物達が、何かに操られているかの様に歩いている。その先には、
「何だ、あれは」
と僕はつい口に出してしまった。映像が見えないアーノルドは、
「何だよ、
とアーノルドは頭を掻きながら横を向いて拗ねた。
「アーノルド、背の高い、黒くて、腕が長くて、目が三つある、金属で出来た物 二体が、魔獣達を刺し、血を抜いているですよ」
とシェリーが、説明しようとしたが、
「うーん、解んねぇ」
とアーノルドは想像するのを止めた。
「ゴーレムだ。間違いない」
と僕は、アーノルドに向いて教えた。
僕たちの小ゴーレムが送って来た映像では、中は緩い傾斜になっていて、その奥の方に二体のゴーレムが魔物から血を抜いてタンクに入れ、血がなくなった死体はトロッコの様な物に無造作に入れていた。また、その奥に階段があり、上に続いているの解った。
「気付かれない様にあそこまで行ってみないと判らないな。あの二体のゴーレムの気を引く方法は無いかな」
と僕は腕を組みながら、何気に呟いた。
「私が、移動して攻撃を仕掛けるのは如何でしょう」
とシェリーが僕の方を向いて、エルステラの柄の部分に左手を置いて話しかけて来た。
「まだ、あの城には不明点があるからな」
と僕はシェリーに話している時、
「
とアーノルドが、手を額に当てて、城の方を見ながら教えてくれた。
僕は少し驚きながら、スコープを覗き込んだ。
「あれは、ゴブリンじゃ無いな。背が高いし」
と影に隠れながら、城の入り口に進んで行く、人影を見ながら、アーノルドに返すと、
「あれは、サリエだ。それにサリエの連れ」
とアーノルドが、少し怪訝そうな顔をして答えた。
すると今度は、シェリーが
「ご主人様、右側の離れた方にも、オークの集団がいます、五人、いえ、七人でしょうか。そういえば、周りの魔獣達は騒いでいないですね。オークには敵対しないのでしょうか」
とシェリーも、背伸びしながら答えてくれた。
シェリーの言うとおり、オーク達は魔獣の真っ只中にいるが、魔獣は気にせず、なぜかボーッとしている。
◇ ◇ ◇
「ナウム、ムジは、ここに入って行ったのか? 」
と俺は、隣の岩影に身を潜めているナウムに聞いた。
「ええ、そうよ。ムジが、クロと呼んでいた黒走鳥を追って入っていたったわ」
とナウムが岩を背に持たれて答えた。
――― 黒走鳥はオークが、乗り物として普段使う地を走る鳥である。空を飛ぶことはできないが、強靭な脚と魔法を弾く羽根で覆われている。平地では、人属が使う馬より速度の点で劣るが、岩場では負けることはない。甲冑を付けた黒走鳥が山から集団で駆け下りれば向かうところ敵なしの強さを誇る ―――
’ここ最近、黒走鳥が何匹も消えたが、皆この城に囚われたのかもしれない’
と考えていると、
「おい! お前ら、何てことしやがる。俺のクロを、畜生め」
ムジの悲痛な怒鳴り声が、城の入り口の奥から聞こえて来た。
「何かあったららしい。ナウム、行くぞ! ムルチは、後方の奴らと待機しろ」
と俺は、岩影から立ち上がり、入り口へ走り出した。
中は緩やかな坂になっていて城の外観の無秩序さとは違い精巧な人工物で出来ていた。石積みではなく、木でもない。勿論、獣の皮でもない。金属質の材質でできた通路だ。これは、この作りはメル大陸のものだ。
奥へ行くと、ムジが、頭がだらりと垂れ、力のないクロを抱えて泣いていた。
「くそ、くそ、こんな事をしやがって」
その後ろで大きな二体の金属の三つの目の物体がいた。その一体の三つ目が、クルッと回転した。
「ムジ、危ない」
と俺はムジに突進して押し倒した。
黒い物体の光線が危うくムジに当たるところだった。そして、光線が当たったクロには、焦げた穴が開いていた。
ナウムが弓で黒い物体を射たが、
カン
と言う音とともに弾き返された。すると今度はナウムに向かって光線を発射しようと三つ目が回った。
「ナウム、よけろ」
と俺は、ナウムに声を掛けた。それに反応してナウムは転がって避けてくれた。
「この野郎」
と叫びながら、俺は蛮刀を抜き、黒い物体を斬りつけた。しかし、やはり刃が立たない。そして黒い物体の長い腕が振り回され、俺は後ろに転がった。
「痛っ」
頭をしたたか打ったが黒い物体は目が回転して俺を狙って来たのが判った。ナウムが俺に覆いかぶさる。
’やられるか’
とナウムを抱きしめ、体ごと転がった。ナウムの頭を腕で覆い目を瞑ると、
ドッカーン
とこれまでとは違う音がした。何が起きたのか解らず、黒い物体を見ると一体の頭が吹っ飛んでいた。
そして、入り口の方を見ると、三頭身で、短い手足にプックリとしたお腹の、子供が遊ぶ縫いぐるみの様なのもが口を開けて立っていた。
もう一体の黒い物体が走り出し、俺たちを超えて、縫いぐるみに襲い掛かった。
その物体が、長く鋭い腕を縫いぐるみに突き刺したかの様に見えた。しかし、縫いぐるみは、風に舞う木の葉の様にフワリと避けて、黒い物体の頭の上に乗った。
その次の瞬間、黒い物体は頭を強い力で押さえつけられたかの様に、バタンと床に頭を打ち付けた。
見ると、縫いぐるみが短い手足で黒い物体の頭にしがみ付いている。そして黒い物体の方は頭を持ち上げられずにバタバタしている。何か奇妙な光景であった。
ナウム、ムジ、そして俺は恐る恐る、近づいて、その様子を見ていると、縫いぐるみがナウムのほうに向いて、口を開けて笑いかけて来た。
ナウムは、胸の前で両手を重ねて、可愛いと言いたげだったが、
「うっ、可愛い」
と声に出したのはムジだった。
ムジにちょっと軽蔑の目を向けた後、バタバタしている黒い物体を見ていると、目が青に変わった。
ガガガー
―――幾百もの魔獣の咆哮―――
急に外が騒がしくなり始めた。
「お頭、大変ですぜ、外の魔獣どもが正気に戻って。襲って来やす」
とムルチが報告してくれた。
◇ ◇ ◇
城の入り口から、ドカーンと音がしたか思ったら、周りの魔獣たちが暴れ始めた。ちょうど入り口近くにいるオーク達が襲われている。
「アーノルド、シェリー、助けに行くぞ。僕は空気壁を伝わっていくから、アーノルドは………何か考えて来てくれ」
と城の方を見たまま、二人に指示した。いつもなら、アーノルドは馬を使って移動するが、今回は連れて来ていない。
「ヘイヘイ、
とアーノルドは少し拗ねた。
「アーノルド、あちらで待っているわ」
とシェリーがフォローに入る。
’二人して見つめあっている時じゃない!’
と思いながらも、
「魔獣を追い払え。逃げるものは追わなくていい」
と小ゴーレム達に命じた。すると小ゴーレム 一千体が、一斉にお辞儀した。
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