第143話 聖火竜王の願い


”のぉ、大魔導師殿、もう武器を作る予定は、ないのだろうか?”

と聖火竜王が、大きな体を丸くして、頭を僕の目線に下げて言って来た。


”いや、無いのなら、良いのじゃぞ。別に儂は良いのじゃ”

と自分で結論を出した。


”しかし、もし、あれば、であるがな”

と僕の顔ほどもある目を上に向けて、思念送って来た。


「もしあれば?」

と薄々感じながらなも、ちょっと聞いてみた。


”いやぁな、名前をつけるじゃろ?”

今度は目を下に向けて、思念を送って来た。


 まあ、大体判った。


『エルメルシア』 祝福の水、

『エルステラ』 祝福の大地、

『エルベントス』 祝福の風


と、水竜王、土竜王、風竜王とそれぞれに関係のある名前の武器がある為、火竜王に因んだ武器が欲しいのだろうと思う。きっと風竜に自慢でもされたのだろう。


”いや、やはりだな。古来、火竜と言うのは力の象徴でるからして”

と僕に目を向けて思念を送って来た。


「今のところ、新しい武器を作っても、その使い手がいないですよ。エルメルシアだけは、僕の家の家宝みたいな物ですが、他の二つはシェリーとケイさんと言う使い手が使っておりますから。それに匹敵する使い手が………」

とちょっと、言ってみた。


”ああ、いや、その使い手が現れてから良い。その時は是非、儂に相談してくれ”

と聖火竜王は、少し寂しい顔をした。


「ああ、でも僕が作った武器で、相当の使い手なのに、刻印されていない武器があります」

と答えた。


”おお、それはどこに、どこに、ああ、あの御仁の。しかし、名前があったろ”

と顔を上げて、右の人差し指を口元に持っていきながら思念を送って来た。


「ええ、竜牙重力大剣と名前をは付けていますが、個体名では無いですよ。作った時は竜力が宿る髭が手に入らず、竜牙を使っていますし」

と僕は、両手を少し広げて説明した。


”ならば、この髭を使うと良い”

と二本、髭を爪で切って僕に渡そうとした。


「あっ、でも出発は明日、打ち直しには、間に合いません」

と僕は申し訳なさそうに答えた。


”打ち直す必要などなかろう。水、風ならいざ知らず、儂の髭は火竜の髭ぞ。土竜と儂は鉱物には相性が良い”

と火竜王は、右頬を見せてニッと笑った。


   ◇ ◇ ◇


あるじ、俺の剣を打ち直すって」

とアーノルドが大剣を背中に背負って、シェリーとやって来た。


「いや、火竜王様がアーノルドの剣に、火竜の加護を与えたいってさ」

「へー、それは何でだ? 」


 僕はちょっと返答に困った。竜王達の意地の張り合いと言うのも気が引けたからだ。


 僕は、頭を掻いていると、

”何、アーノルド殿、魔族と戦うのに重力だけでは足りない事があろうかと思っての。だから、儂が加護を与えてやろうと思っての”


「おう、そっか。確かに霊体には、重力は効かなねぇからな。てっきり、風竜の向こうを張ろうってことかと思ったぜ」


 図星であった。アーノルドは、動物的な感が鋭い。


”そんな事はないぞ。ない。ちょっとあるけどな”

と火竜王様も観念した。


 火竜王様は、大剣と短剣の二振りを地面に置かせ、そこに自分の髭を大きな爪で、なぞるように貼り付けた。爪の先が、赤黄色に変わり、かなりの温度になっているようだ。


 物の数分、僕たち、錬金術師なら何日も掛かるところを、あっと言う間に髭と剣を結合させてしまった。


「参りました」

と思わず呟いてしまった。


”さて、刻銘するぞ、名前は『エルフラーマ』 聖なる炎だ。しかも儂の直筆じゃ。いひひひひ。さて、大魔導師殿、アーノルド殿、シェリー殿、少し離れておれ”

と笑いながら、何か呪文を唱えた。


 あたりが暗くなり、聖火竜王の鱗と髭が赤く光り出した。空中に火の玉が幾つも現れ、それが、竜王の周りを回っている。


 火の玉はゴーっと音を立て始めた。何か物凄い事が起きそうな感じがした。多分歴代の錬金術師、オクタエダル先生でさえも見た事がない、物凄い事が起きそうだ。


 あたりの音はさらに大きくなり、八本の火柱がたった。そして、聖火竜王は、人差し指を剣に当てて、


カリカリカリ、カリカリカリ


と引っ掻いた。すると、火の玉の火柱も止んだ。


”どうじゃ。完成じゃ”


 えっ、なんか、呆気ない。


「竜王よ、さっきの火の玉と火柱はなんだったんだ?」

とアーノルドが、思った事を口にした。


”あれは、演出じゃよ。演出”

「ガハハハ」

と思念の後に声に出して笑っていた。

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