第142話 ファル王国の抵抗

「ハハハハハ、ファル王国もそろそろ終わりだな。この第三城壁を破れは、あとは小い丘みたいな城壁しかない。ほら、お前ら、攻めろ、攻めろ、自らの血で穢し、魔法障壁を破れ。中には柔らかい肉の子供と女どもで溢れているぞ」

とデーモン王は魔物を追い立てて魔法障壁にぶつけさせた。


 ファルを落として、次はあの小国エルメルシアの人属を皆殺しにしなければならない。あの変な力を持った王と、俺の秘密を知る奴らを生かして置くわけには行かない。


「おい、お前達サキュバスは、ムサンビや骸骨兵はいないか、空から見はれ。良いか、見つけたらすぐに知らせろ」

と俺は横にいたサキュバスに命じた。


 ムサンビは俺を狙う可能性が高い。一応、用心だ。


「それから、お前、魔物を補充しろ。魔犬でもなんでも良い。明日までに千匹連れてこなければ、お前をあそこに行かせるぞ」

と横にいたゴブリンロードを脅して命じた。


 普通のゴブリンに比べて少し頭が回るが、それ故にこいつら、身の保身も考えてやがる。率先して前線に行かないのだ。ゴブリンロードの尻を蹴って行かせた。

 今回、攻略が進んだのは結界がない事が大きい。なぜ消えているのか解らないが、内部で何かあったに違いない。

 

 ひょっとして、リリスがやったのか?


 だとしたら、タップリと褒めて遣らねばなるまい。


   ◇ ◇ ◇


「陛下、ここは危のうございます。どうか王宮へ」

と私が正気に戻り、ここにいることを知った大臣達が集まって来て、戦の邪魔をし始めた。


「おい、大臣だとしても、戦の邪魔をするなら、容赦はしないぞ。ここを破られたら、あとは平地みたいなものだ。どこに逃げるんだ? そんなことを言っている暇があるなら、お前も戦え」

と不愉快を前面に出して叱責した。


「将兵諸君、もう暫く耐えろ。もう直ぐ、魔除けの結界が復活する」


 アメーリエ、頼んだぞ。


   ◇ ◇ ◇


カツカツカツカツ

―――石畳を馬が走る音―――

 私は、三人の魔法使いを引き連れて、ファル王都中心にある魔除の結界装置のある塔へ向かった。


 すると、

「アメーリエ様」

と私を呼ぶ声が聞こえた。カーリンだ。


「ちょっと、先に言ってて頂戴」

と魔法使いたちに先に行くよう命じ、カーリンのところに馬を寄せた。


「メリエ様は、ダベンポート雑貨店に居らしたアルフォード先生に預けしました。それでよかったでしょうか?」

と確認してきた。カーリンにとっては、私の意向通りに実行できたか、一抹の不安があったようだ。


「ええ、ありがとう。先生がいてくださるなら、尚のこと良かったわ。ただ、王の前ではダベンポート雑貨店に預けたことは言わないでね」

とお礼を言いながらも、ちょっと釘を差しておいた。多分カーリンなら判るはず。


「承知」

と短い言葉で、全てを了解してくれた事がわかった。


 そして、カーリンに馬を御してもらい、私は後ろについた。乗馬もカーリンのほうが、ずっとうまい。


 塔に着くと、すでに三人の魔法使いは、定位置について私を待っていた。


「さあ、力を貸して頂戴。最大限の魔除の結界を張るわよ」

と魔法陣を作り出し、結界装置を再起動させた。


――― 塔の頂上が淡く青い光を放ち始めた。そして、その色が強くなった時、塔を中心に青い輪が広がって行く。輪は馬の走る速度で、ファル王都の隅々に広がり始めた。ファル王都を二百年を守り続けた魔除の結界が再始動したのである ―――


   ◇ ◇ ◇


 魔犬がキャンキャンと鳴き、苦しみ出した。あらぬ方向に勝手に走り始め、しばらく走るとバタっと倒れた。ゴブリンたちも頭を抱え攻めるどころではなくなった。


 四将軍たちでさえも、頭を抱えて、

「これはたまらん。一旦引き上げだ」

と勝手に、苦しむ眷族をまとめて、第一城壁の外に移動し始めた。


「おい勝手に引き返すな!」

と言ってみたものの、自分の体にも異変が出てきた。血が逆流したような物凄い不快感と虚脱感、そして耳鳴りと頭痛。あまり、将軍たちに無理強いすると逆に反乱を起こされてしまう。仕方がない。


「一旦、第一城壁の外に移動する」

と宣言し移動を開始した。すると城壁から弓が狙い撃ちし、重装騎馬隊が出てきて、魔犬、ゴブリン、トロール、キメラまでも蹴散らされていった。


’小癪な’

と思いながらも、城壁の修復はそう簡単ではないと予想した。第一城壁の外から穴のあいたところを集中攻撃してくれる。


 向かってくる騎馬隊に向けて、黒い塊を投げつけ、馬ごと溶かしたが、勢いづいた騎馬隊は、どんどん魔族達を蹴散らして行く。


 俺はいち早く、城外に出て、両手を天に向かって上げ、巨大な黒い塊を作り始めた。


 そして、騎馬隊が第一城壁の崩れた場所に達した時、それを落とした。


 騎馬隊の半分は馬ごと溶かした。


 逃げ遅れた魔族もいたようだが、この際多少の犠牲は仕方ない。どうせ死に兵だ。


 騎馬隊は停止し、すぐに引き返し始めた。


「魔法が使えるやつは、穴から魔法を打ち込め。とっととしろ、鈍間が! 」

と大声で怒鳴った。


 くっ、これでまた時間がかかる。


「続けろ、魔力が切れるまで続けろ」

と魔法を使える魔族を叱咤した。


 ファルを一旦諦めるか?


 いや、エルメルシアの小国を優先させて、ファルを諦めるなど、俺の沽券に関わる。


「なんとしても、ここを落とす」

とつい口に出して言ってしまった。


 それを聞いたゴブリンロードが、王の命令と勘違いし、どこかに行ってしまった。


’馬鹿が’


と思いながら、天幕に戻った。


   ◇ ◇ ◇


ウォー

――― 兵達の歓声 ―――


 将兵達に精気が戻った。皆歓声を上げて、喜んだ。


 アメーリエ、良くやってくれた。ローデシアがアルカディア学園首都を破壊した時、大臣達がうるさく言い募ってきたが、私は、君を信じて取りあわなかった。そして、君がローデシアに向かった時、何度か探しに遠征もした。無事でいてくれさいすればと思ったが、今回も、ヌマガーの裁判の時も、サキュバスに取り憑かれた時も君が助けてくれた。立派なファル王国の王妃だよ。君は。本当に感謝する。


 しかし、魔族達は壊れた魔法障壁の穴から、魔法を撃ち込んできている。まだ、気が抜けない。


「諸君! 王国始まって以来の未曾有の危機に良く耐えた。今、我が王妃が魔除の結界を再起動し、諸君の活躍により魔族を退けることができた。しかしまだ、奴らは、あの様に攻撃を続行している。疲れているだろうが、もうしばらく耐えてくれ。かならずや、天は助けてくれる」

と疲れ果てた将兵を励ました。


 しかし、このままではジリ貧だ。ここは王のプライドなどと言っていられない。シン王国に助けを求めよう。うちと外で攻めれば魔族を殲滅できる可能性が高くなる。


――― ブライアンはある人物の顔が思い浮かんだ ―――


 分家か、父上は分家に助けられて、何時迄も心に蟠りが残った。分家の奴に頼むと私も蟠りが残るだろうか。

 しかしシン王国は遠い、それに助けに乗ってくるかどうかも分からない。一方でどういう訳かアイツヘンリーはシン女王から受けが良い。


 出兵の時、あんな態度をしなければ良かった。


 おっと、私としたことが、自分のやった事に弱気になっている。あれはあれ、これはこれだ。ミソルバの商人のように、『悪かったな』と笑い飛ばしてやろう。


「魔法便を多量に作ってもらいたい。誰か部屋に寄越してくれ。ああ、それから優秀な斥候も数人寄越してくれ。命知らずな奴がいい。成功したら、家族三代まで、納税を免除する」

と近くにいた将校に命じた。


 結局、六人が志願してきた。どいつも一癖ありそうな奴らだ。この魔族の包囲網を突破して書簡を持っていく。命知らずでなければ、とてもじゃないが実行できないだろう。私の計画を聞いても誰も欠けなかった。我が兵士ながら天晴だ。


 三人ずつ書簡を持たせて、エルメルシアとシン王国へ送った。同時に魔法便も大量に作って両国に向けて送った。魔法便は時間がかかるため、うまくいけば斥候達のほうが早く着くはずた。


 なんとか持ち堪えなければ。今は、このファル王国存続のために集中しなければならない。

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