ファル解放

第138話 部隊編成

――― アーデル砦は、ジェームズとマリオリが陣頭指揮を取り、小ゴーレムと市民にも手伝ってもらいながら、立て直しをしている最中であった。そんな中ではあったが、今後の方針を決めるために幹部が集まった。砦の広場に椅子とテーブルを設けて、ヘンリー、ジェームズ、メリルキン、マリオリ、ケイ、ヒーナ、シェリー、アーノルドが座り、その周りに四竜が組んだ腕に大きな頭を乗せて会議を聞いていた ―――


「さて、最初に犠牲になったレオナと兵士たちに黙祷を捧げたい」

と兄上が右手を胸に当てて、こうべを垂れた。皆もそれに従い、しばらくの間、アーデル砦が沈黙した。


「戦時である故、正式な慰霊は侵略者を退けてからしたいと思う。それから、メリルキン殿、聖霊師様方のご様子はどうですか?」

と兄上は、メリルキンさんに聞いた。


 超精密で壮大な、『聖素慈雨の祈り』を発したため、しばらく休んでいると言うことらしい。それを聞いてヘンリーは、くれぐれもお大事にとメリルキンさんに事ずけをお願いしていた。


 そして、

「マリオリ、現在の状況と課題について述べてくれ」

と兄上はマリオリさんに向いて喋りかけた。それに呼応してマリオリさんは頷き説明を始めた。


 それによると、エルメルシアの方はムサンビを退けることに成功したが、デーモン王の本隊がファル王国に進軍したといこと。斥候によれば、広大なファル王都を魔族魔物が取り囲んでいたため、王都には接近できなかったと言うことだ。

 そして、周辺の町や村の犠牲者は、非道の限りを受けた酷いものだったらしい。


 それから、アメーリエさん一行の情報は掴めていない。ただ、途中魔地蜂の群れの死骸があり、魔族の物と思われる羽の一部、それに人属の遺体を荼毘に付した形跡のある場所があったという事だ。アメーリエさんが難を逃れらことを祈ろうと思う。


 また、ローデシア王都に現れた魔族の城の周辺には、数百の魔獣が守っているとのことだ。


「喫緊の課題は、ファル王都をどうやって救うかでしょう。壮大なファル王都ではありますが、ムサンビがやったように数で押して、結界や障壁を破るのではないかと思われます。そして、ファル国王は逝去されとの情報もあり、指揮をとる王家がいるのかが、心配されます」

とマリオリは、書類を空中に浮かべて、杖を使ってページをめくりながら、報告してくれた。


「ありがとう。皆、ご苦労であった」

と兄上は、寝ずに情報を収集し、報告書に書き上げたマリオリさんと、その配下の労をねぎらった。


「さて、何か意見はないか? 」

と兄上は皆を見た。


「先手必勝じゃねぇの」

とアーノルドが呟いた。


「確かにそれはあります。魔族、魔物は、ある時期から苛烈に攻め始めたとのこと。状況から考えて、ムサンビを退けた辺りからと推測されます」

とマリオリは答えた。


「つまり、奴らはファルを早々に落とし、こちらに来る可能性があると言うことだな」

と兄上は誰に言うでもなく、問いを口にした。


 マリオリさんは頷き、

「その通りです。ですから、ファル王都からの攻めと、城外での遊撃隊による牽制。ファルで、デーモンに打撃を与える事が重要です。しかし、闇雲に攻めては被害が大きくなる可能性があります」

と腕を組みながらマリオリは答えた。


「僕は、デーモンの城が気になりますね。前にお伝えした通り、あのデーモンはホモンクルスの可能性が高いですし、ローデシア皇帝に憑依しているとすれば、本体がいるのではないかと思います。デーモンの城には何かあると思います」

と僕は、兄上を見ながら答えた。


「デーモンの城を攻めるのは、牽制になるかもしれんが、賭けだな」

と兄上は答えた。


「いえ、ジェームズ様の仰ることも一理あります。しかし、我が方の兵力が問題ですなぁ。ファル王国の遊撃隊、デーモンの城攻略隊、そして、ここアーデル砦の守備隊と三つに分けなければなりません」

とマリオリは眉間に皺を寄せて答えた。


「ふっ、マリオリ、その顔は既に編成を考えているのだろ? お前がその顔をする時は会議を上手く運んだ時の最後の決めだなぁ」

と兄上はマリオリに向かって、ニッと笑った。


「いや、陛下には敵いませんな。ハハハハハ。されば」

とマリオリは、少し勿体ぶって編成案を披露し始めた。


それのよると、


ファル王国遊撃隊 … ヘンリー麾下 2千、ケイ


デーモンの城攻略隊 … ジェームズ、アーノルド、シェリーと小ゴーレム


アーデル砦守備隊 … ヒーナ、双子の聖霊師、軽傷者を含む三千


「そして、小官は陛下と共にファル王国遊撃隊として」

と言いかけた時、


「マリオリ、今回はアーデル守備隊の指揮を取ってくれ。ここの魔法防衛装置は三人の魔法使いが必要だ。ジェームズ、ヒーナ、聖霊師様の他にめぼしい魔法使いは、お前しかいない」

と兄上は釘を刺した。


 この時、マリオリさんは、少し寂しい顔をして目を瞑っていた。


「判りました。陛下。皆が戻れる場所を死守しましょう」

と少し、寂しい笑いを含めて答えた。


「それでも、やはり兵が足りないな」

とヘンリーは呟いた。


”我らも手伝わせてもらうぞ。聖魔のバランスを保つのが我らの役目だからな”


「ならば、竜王様がたは、ジェームズ様の助力をお願いいたします。移動にもご助力願い得れば」

とマリオリが聖火竜王に頭を下げた。


”心得た”

と答えてれくれた。


”それから、我らであれば、竜同士の思念で、シン王国と連絡がつくぞ。あちらに竜妃を残しているからな”

と聖水竜が提案してくれた。


「ならば、シン王国女王様にファルへの援軍を頼んでいただければと思います」

と兄上は答えた。


”心得た”

と聖水竜王が答えてくれた。


 そして、三日後、ファル遊撃隊と僕たちデーモン城攻略隊が出撃することになった。



「それから、一人、若い兵士についてお話ししたい」

とマリオリさんが相談を持ちかけてきた。

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