第115話 希望を繋ぐ糸
―――周りは石だけの壁、屋根の落ちた家々、雑草が生え、深いところでは、何があったかも判らない。廃墟。もともともは、ローデシアとエルメルシアを結ぶ街道沿の大きな街。今は、草木が生え、虫達が花の蜜を取るために飛び回っている―――
私は眠りから覚めた時、羽織っていたマントが掛けられ、カーリンが横に居た。あの戦闘の途中から睡魔に襲われ、その後のことは覚えていない。
「お目覚めですか? ご無事で何よりです」
とカーリンは、笑って言ってくれた。
「いつも、守ってくれて有難う」
と私は、心の底から湧き出る言葉を脚色なく発した。
「主君から、その言葉を頂けるだけで、騎士冥利に尽きます」
とカーリンは答えてくれた。
そこへ、ムジさんが、やって来て、
「お目覚めですかい? 今日、長老がやって来やす。アメーリエさんと会いたいとのこと。で、サリエとナウムの事が終わるまで、待っちゃくれませんか? 」
とムジさんは自分の額をペシペシと叩きながら答えた。
「こと? 」
と私が聞き直したら、ナウムの声が聞こえて来て理解した。私は年甲斐もなく赤面しただろうと思った。
「サリエ殿とナウム殿、ムルチ殿も一緒に戦いました。礼を言わなければなりません」
とカーリンが『事』をはぐらかすためか、こんなことを真顔で言った。
◇ ◇ ◇
―――春の穏やかな陽の下に即席の椅子が設けられた。アメーリエと対峙して、オークの長老が座り、後ろにカーリンとサリエが控えた―――
「風の精霊に辺りを見回るようにお願いしたけど、ピクシーは同じ精霊の一種なので、発見できないでしょう」
とオークの長老に言った。
長老は、後ろに控えるサリエさんに何事か話すと、オーク達が周辺に散っていった。
「どの程度、防げるか判りませんが、こちらも若いのに見晴らせました」
とオークの長老は応えてくれた。
長老とは言え、見た目は壮年を思わせる偉丈夫で、サリエさんより若干、年上にしか見えなかった。
「私の名前は、ガランのソクラ。サリエの叔父にあたります。長老連中の中では一番新参者ですが、最長老は遠くこの地に来ることは難しいため、全権を任され私が参りました」
とソクラと名乗った長老は自己紹介をしてくれた。
「私は、アメーリエ・ダベンポート・ファル皇太子妃です。ノアピ・ルーゼン・ローデシア帝の末娘に当たります」
と社交辞令から会談が始まった。
私は魔族というと、野蛮としか思っていなかったが、サリエさん同様、このソクラ長老からは全くそのような感じは受けなかった。そこらの人属の貴族よりずっと気品があるように感じた。
世情など情報交換を行った後、
「私供は、私供オークを解放してくれる人属を探しております。大変申し訳ありませんが、殿下では無いと思われます。伝説の人属と若干違うところがありますゆえ」
とソクラ長老は、頭を下げて謝罪して来た。
「いえ、私もそのような大任を負える人属では無いと感じておりましたので、問題はありません。それより、遠くからいらしたのに、残念なことと同情いたします」
と私は無駄足に終わりそうな、長老の来訪に同情した。
「魔族であるオークと人属の間を取り持ってもらえるお方も重要と感じております。実は、ニコラス・オクタエダル様であれば、我々オークの話もお聞きいただけると思っていたのですが ……… 」
とソクラ長老は切り出して来た。
続けて、
「私たち魔族と否定することなく伝説の人属との間を取り持っていただけるお方として、大変不躾とは思いますが、殿下にお願いできないかと思う次第です」
とまた、頭を下げて来た。
「先ほど、皇太子妃と申しましたが、こうして出奔した身。すでに廃妃されているかもしれません。それにローデシアに戻ることも出来ません。そんな私、アメーリエ 一人で良ければ、できる限りのことは致しましょう。その代わり ………」
と私も条件を出した。
「ローデシアが魔族、ああ、失礼。侵略者によって蹂躙されていますが、ローデシアの市民で難を逃れた人達もいると思います。何処かに隠れ住んでいるか、はたまた、北の大陸まで行った者もいるかも知れません。そういった人属を見かけたら、居場所を教えて頂けませんでしょうか。多分、今は近ずくと無用な争いが起きかねませんのでそっと居場所だけご教示いただけば」
と私からも条件を切り出した。
ソクラ長老は少し考え、
「了解しました。全オークに伝えます。情報はサリエに伝わるように致します。逆に人属との間を持って欲しい時もサリエに伝えます」
と言ってくれた。
サリエさんには申し訳ないが、次代のローデシア帝候補を探す旅に付き合ってもらう事になりそうだ。
「サリエさん、ナウムさん、申し訳ありませんが、今しばらく手伝って頂けませんか。私たちが希望を繋ぐ糸と思います」
と二人にお願いした。
「あたいは、良いぜ。それに伝説の人属も探さなきゃならないだろ?」
とナウムが答えてくれた。
サリエも
「面白そうだから、良いぜ。なあ、ムジ、ムルチ、当然行くよな」
と二人に向かって言った。
「へーい、どうせあっしの話など聞く気ないでげしょ」
「姉さんが良いと言うなら、依存はありませんぜ」
と二人は答えてくれた。
こうして私たちの奇妙な仲間の旅はしばらく続く。
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