第114話 取り違い

「あら、案外ゴッツイのね。まあ、あのノアピの娘だからかしらね。大人しく我がデーモン王の所に来るのよ。死ななければどんな形でも良いと許可を貰っているから、抵抗しない方が良いわよ」

とサキュバスは、カーリンを指差して脅迫した。


「えっ」

と私は思わず口にしたが、

「ほう、このノアピ・ルーゼン帝の娘、アメーリエ・ルーゼンにそんな脅迫が通じるとでも思っているのか?」

とカーリンは私の前に出て、サキュバスに対峙した。


「カーリン、貴方は少し離れていなさい」

とカーリンは私に顔を向けて離れる様に促した。


「ふっ、ちょっと痛めつけておしまい。殺さなければ、手足をもいでも構わないわ」

とリリスは、後ろに下がり、取り巻きのサキュバスと、どこかが現れたのか、ゴブリン達が出てきた。


「ナウム、アメ ……… カーリンを頼む。俺はちょっと、カ ……… アメーリエ殿に助太刀する」

とサリエは、蛮刀を抜きカーリンの横に立った。


 ムルチは、長弓を構えて、空中のサキュバスに狙いを付けてた。


「ここは、あちらのアメーリエさんの言う通りにした方が良いと思うぜ」

とナウムも蛮刀を抜きクルクルと回しながら、私を守り少し下がった。


   ◇ ◇ ◇


「オマエ、マゾクノウラギリモノ」

とゴブリンの一匹が、サリエに剣を向けながら叫んだ。


 次の瞬間、ゴブリンの首は、落ちていた。


 サリエが、目にも止まらぬ速さで走り抜け、すれ違いざま、蛮刀を左下から右上へ切り上げていた。


「おい、無駄口叩いている暇はねぇじゃねぇの?」

とサリエは他のゴブリン達に、蛮刀の先を向けて言い放った。


「ギー」

とゴブリン達は地団駄を踏んで、悔しがっているが、次から次へと首が落ちていく。


「あら、やっぱりゴブリンじゃ役に立たないわね。無駄飯ぐらいの穀潰しとは良く言ったものだわ」


 一方、3匹のサキュバス達がカーリンに向かって殺到した。尾っぽを繰り出し、手足を突き刺す攻撃だが、カーリンの持っている盾と剣で跳ね返される。


 サキュバスの一匹が爪の攻撃を入れながら、突出してカーリンに仕掛けてきた。


 長い尾っぽで後ろからカーリンの肩を狙い突き刺そうとする。


 カーリンは、素早く左に持った盾を肩のあたりに回し避ける。


 サキュバスが右手の爪を立てて、カーリンの顔を狙って横殴りに払う。


 それを剣で受る。


 ガラ空きに見えるカーリンの右脇腹を狙って、他のサキュバスが尾っぽを突き出そうすると剣を滑らせて、右脇に持っていき、それを抑える。


 そして、左手の盾を肩から前に回しながら、

「火の加護」

と一言。


 一瞬で盾が赤々と熱を持ち、そのまま爪攻撃を仕掛けてきたサキュバスの顔面に叩き込んだ。


ジュ

―――顔が焼ける音―――


 カーリンはつかさず、盾を前に構え


「高温」

と一言うと、盾は高温で白い色に変わった。


「ウォー」

とドスの利いた掛け声と共に、顔に火傷を負って怯んだサキュバス目掛けて突進した。


ドカッ

―――盾がぶつかる音―――


 当たると同時に炎が立ち上がり、そのサキュバスは燃えながら吹っ飛んだ。


「あら、品の無い雄叫び、本当にお姫さんなの?」

と上空で見ていたリリスは声に出して聞いてみた。


「おい、ババア、下らないたわ言をいつ迄続けるのだ? 私は父上の意志を継いだ、アメーリエ・ルーゼン、その人だ」

とカーリンは答えた。


「ババアですって? あなたとそう変わらないじゃ無いのよ!」

と怒りの形相に変わった。


「その前に、オマエ、チョロチョロとその弓、邪魔だ! 」

とリリスは、ファイアボールをムルチに向かって投げつけた。


 ムルチはよけ損ねて、直撃を受ける所だったが、水の精霊がファイヤボールを消してくれたので、弓を壊すんだけで軽傷で済んだ。


「あんがとです。ア……」

とムルチは、慌てて口をつくんだ。


「そんな顔すると小じわが増えるぞ」

とカーリンは自分に注目させるために挑発した。


「キー、またその言葉! シャドウピクシー、彼奴らを眠らせなさい」

とアメーリエ一行を指差して、シャドウピクシー達に命じた。


 怒りの形相を見せられ、シャドウピクシー達は一瞬怯んだが、すぐに飛び回り催眠効果のある鱗粉を飛ばし始めた。


 アメーリエは、風の精霊を呼び出そうと呪文を唱え始めたが、

「従者の癖に精霊召喚の術を使うのね。そうはさせないわよ」

とリリスは、ファイヤボールを投げて召喚魔法を唱えさせない。


 ナウムが、アメーリエを庇って、横に倒れこんだ。


 非常に細かい鱗粉は、朝霧のようにジットリと体にまとわりつき、呼吸器だけではなく皮膚からも浸透し眠りを誘った。


 サリエ、ナウム、ムルチ、そしてアメーリエは強烈な睡魔に襲われた。


「私にはそのようなものは通じない」

カーリンは体を発火させて、鱗粉を燃やし始めた。炎に包まれているが、カーリンその人は平然と立っている。


「ん? やるわね。でも、もうあなた一人よ。それに、ほら、お仲間達が危ないじゃなくて? 」

と眠り始めた、四人にサキュバス達が近づき始めた。


「貴様」

とカーリンは歯ぎしりをしながらリリスを睨みつけた。


「そうカッカしない方が、お友達が傷つかないと思いますけど。火を納めて武器を捨てた方がお友達のためじゃなくて」

とリリスは、ゆっくりと地上に降りながら、アメーリエを指差した。


 するとサキュバスが、熟睡状態のアメーリエの喉元に尻尾の先を当てた。


「解った」

とカーリンは一声発して、体の発火を止めた。


「さっきは、良くも小じわのことを言ってくれたわね。それに取り巻きが一人死んじゃったじゃない。少し痛い目にあってもらうわ」

とリリスは、尾っぽをカーリンの太ももに突き立てた。


「ぐっ」

とカーリンは苦悶の声を発し跪いた。


「そう言えば、ババアって言ったわね。それはどっちよ」

と言いながら、両肩を突き刺した。


「ぐっ、ぐううう」


「それに、餌を与えてきたゴブリンも随分と減らしてくれちゃって。残っているのは三匹だけじゃない」

と言いながら、リリスは、負傷しながらも残ったゴブリンに吐息を吹きかけた。


「ガァー、ハァハァハァ」

ゴブリン達が、おかしな声を発しながら、騒がしくなった。


「ゴブリンって、いつも節操ないけど、今私の催淫の吐息を掛けたから、三日くらいは絶倫よ。ほらあそこも何時もより大きいでしょ」

とリリスは、大きさで、腰巻が、はち切れたゴブリンの股間を指差した。


「抵抗しないでね。お友達の喉に穴が空くわよ。さあ、ゴブリン達、そのお姫様を存分に犯してあげなさい」

とゴブリン達に命じた。


「クー」

カーリンははを食いしばって、ゴブリン達が、軽装の鎧を剥いでいくのを抵抗することなく耐えた。


「私は、あのオークの雄を頂こうかしら。さっき対催淫薬を飲んでいたから、どうかしらね」

とリリスはサリエに近づき、仰向けしてして、ズボンの中に尻尾を入れた。


   ◇ ◇ ◇


「おい、そこのゴブリン、私が三匹を相手してやる。寝ている人形より、私の方が良いだろう?」

とカーリンは、アメーリエの方に行こうとするゴブリンを体を張って止めにかかった。


’アメーリエ様、早くお目覚めください’

とカーリンは心の中で祈った。


 カーリンが、これから起きるであろう陵辱を覚悟して目を瞑ったその時、


ヒュー、ヒュー、ヒュー

―――矢が空を切って飛んでくる―――


ドス、ドス、ドス

―――矢が突き刺さる―――


 アメーリエ達の喉元に尻尾を突き立てていた、サキュバス達の頭に矢が突き刺さった。そして、シャドーピクシーも悉く射落とされた。


さらに


ヒュー

―――槍が空を切る―――


「チッ、良い所に邪魔が入ったわ」

とリリスはその槍を躱し空に飛び上がり去っていった。


「族長、姉御、ムルチ。無事か?」

と声がして、蛮刀を持ったオーク達が殺到した。


 カーリンは目を大きく開け、瞬時に状況を把握した。

 股間にいるゴブリンを足で締め上げ、両方の胸に取り付いている左右のゴブリンの頭を逃げられないように抱え込み、


「ゴブリン、女は優しく扱うものだぜ」

とカーリンは言った後、体の温度を上げていった。


ジュー、ジュー

―――ゴブリンの肉が焼ける音―――


「ギヤー、ギャー」

ゴブリン達は、熱を帯びた女から離れようと、悲鳴を上げてもがいた。


「そう逃げるなよ、さっきは執拗に取り付いていたじゃないか。なあ、仲良くやろうぜ。ほら胸吸っても良いぜ。お前のそれを入れたいのだろ? 熱いぞ」

とさらに締め上げ、温度を一気に上げずに、ゆっくりと徐々に上げていった。


 ゴブリンの肉の焼ける匂いが、鼻を突ついたが、カーリンはそのまま、ゆっくりと焼いていった。


   ◇ ◇ ◇


「族長、大丈夫か? 」

とムジが心配して声をかけてきた。


「俺は大丈夫だ。他は? 」

とサリエは周りを見ながら聞いた。


「姉御もムルチも大丈夫だ。お姫さんはまだ寝ている。あのおっかねえ姉さんは、ゴブリンを焼き殺して、お姫さんの横にいる。いや、おっかねぇ姉さんだ」

とムジは、三匹のゴブリンを抱え込みながら、焼き殺していくカーリンを思い出し身震いした。


 ―――胸に取り付いていた二匹は、頭だけが燃え、両足で締め上げられた一匹は、股間と腰のあたりだけが燃えて死んでいた―――


 ムジの他にも戦闘オークが五人いたが、カーリンには近づかなかった。


「長老達はなんと? 」

とサリエはムジに向き直り聞いた。


「一番若い長老のソクラ様が、ここに来られる。直接見たいそうだ」

とムジは答えた。


「えっ、それは、また、随分と危険を冒して」

とサリエは思いを口に出して呟いた。


「今、世界が大きく動こうとしているらしい。オークとしても時代に乗り遅れる訳には行かないそうだ」

とムジ自身はよく分からないが、受け売りで答えた。


「解った。何れにしても、人属にはシャドーピクシーの催眠鱗粉は強すぎで、お姫さんは、しばらく起きないだろう」

とサリエが難しい話を切り上げたいと思ったところに、ナウムがやってきて


「ねえぇ、あんた、サキュバスに弄ばれて、前を大きくしたろ!」

とナウムが、妙に怒ってやって来た。


「えっ、いや、あの状況では仕方ないです。はい」

とサリエは正座をして、神妙になって答えた。ムジは、とばっちりを避けるために、そっと逃げ出した。


「あーん、もう、ちょっとアッチに来て」

とナウムはサリエを人属がいない場所に誘っていった。


 ナウムの歓喜の声とともに、サリエとの第2ラウンドは夜が明けるまで続いた。

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