故郷へ

第113話 追っ手


「アメーリエ様、大丈夫ですか?」

とカーリンが私を気遣ってくれた。


 もう、三度魔族の襲撃を受けている。今は、魔導車を捨てて、服装も歩きやすい魔物狩猟者のものを買い求めて着ている。カーリンは、火の精霊の加護を受けた軽装の鎧を外すことはできない為、目立たせぬ様にマントを羽織るだけにした。そして呼び方も皇太子妃殿下ではなく、アメーリエと呼ぶ事にしたが、カーリンには、『様』を取ることは出来ない様だ。


 宮廷生活が長かったせいもあり、山道は厳しい。それでも風の精霊に背中を押してもらい、土の精霊に地面を均してもらい、木の精霊に小枝や木の根を避けてもらっている。


「いや、良いね、道は平らになるし、木の枝は勝手に広がっていくし、心地よい風が吹いてくる。精霊召喚士ってのは便利だな」

とオーク族のサリエが頭を掻きながら喋ってきた。


「あら、オーク族は、元はエルフ族と同系でしょ? 本当なら精霊を呼び出せるじゃなくて?」

と少し、息を切らしながら、私はサリエに聞いてみた。


「昔は呼び出せた。オークの王だけが。でもその王が魔力と共に召喚力も伝えずに死んだため、誰も呼び出せなくなったのさ」

とサリエは両手を開き、首を傾げて答えた。

 

 話の内容はちょっと暗いが、サリエはいたって明るい。私がちょっと心配そうな顔をしたのを見て


「アメーリエ、気にすることはない」

とサリエは返してくれたが、


「アメーリエ様、百歩譲って、アメーリエ……… さんだ」

とカーリンが横目でサリエを睨みつけた。


「おお、怖ぇ」

とサリエは、ぴょんぴょんと飛んで二歩後ずさんだ。


「ねぇ、サリエ。明日、ムジと旧エルメルシア国の宿場の廃墟で落ち合うだっけ? 」

とナウムがサリエに聞いた。


「そうだ、長老たちの意見を聞かせに行った。明日、そこで落ち合う。いきなりアメーリエ ……… さんを北の大陸にお連れするのは危険だからなぁ」

とカーリン向かって、ニッと笑いながら答えた。


「この調子だと、俺たちの方が先に着きそうですぜ、ほらあの峠を越えれば目的地だ」

とムルチが指を指した。


 私たちは、急ぐでもなく、色々と喋りがなら歩いて行った。


 晩春の道のりである。


―――そのアメーリエ達一行から、少し後ろ、木の根元に蠢く者がいた。執拗に一行を追跡し、ある者に居場所を知らせている―――


   ◇ ◇ ◇


「なんか、雲行きが怪しくなってきたな」

とサリエが呟いたそばから、雨が降り始めた。


 この地方では、この時期、夕方の一時ひととき、雨が降ることが多い。そして雨で一気に冷え込む。私の濡れた服装では寒いかもしれない。


「アメーリエ様、これをお召しください。私は火の精霊の加護で寒くはなりませんから」

とカーリンがマントを掛けてくれた。


 私も火の精霊を呼び出せば、焚き火をすること出来るが、カーリンの場合は火の精霊と契りを交わしている為、体そのものを温かくすることできる。


 しばらく雨の中を進んで夜の帳が降りる頃、雨は上がった。しかし代わりに、道を塞ぐ者がいた。


「あら、お待ちしておりましたのよ。ノアピの娘さん」

と丸まったツノに羽と尻尾。胸が大きく開いた服を着ている女の魔族。


「おっと、サキュバスが何の様だ? こっちには用はねぇぜ」

と言いながら、サリエは丸薬を口に放り込み、ナウムを左手で抱き寄せた。


「俺には、相愛の連れがいる。お前には興味はない」

とナウムに軽く口ずけをして、宣言した。


「あら、連れないわね。私の名前はリリスよ。ちょっと良い男だけど、今日は貴方には用は無いわ」

とリリスは答えた。


「族長、俺も居るですけど」

とムルチも丸薬を飲みながら、軽く抗議した。


「あら、貴方にはさらに興味が無いわね。タイプじゃ無いわ」

とリリスから肘鉄を食らった。


「で、何れが、ノアピの娘なの?」

とサキュバスは後ろにいるシャドーピクシー達に聞いた。


「マントを着ていない方。マントの女は従者だ」

と答えた。

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