第116話 故郷へ


ヒュー、ドン

―――極大魔法のメテオフォールが、空を赤く焦がし、隕石群が魔族、魔物目がけて落下していく。破竹の勢いでファル王国軍はローデシアを進んでいる―――


「父上、今の所、連戦連勝です。明後日は、ローデシア帝都に着くでしょう。しかしあまりに簡単すぎるのが気になります」

とブライアン皇太子は、ファル国王の横に立ち、自分の剣の柄に両手を乗せて話しかけた。


「うむ、魔族の王がいなくなり、奴らは浮き足立っていることには違いない。しかし、気を抜かぬよう兵たちに申し伝えよ。連勝は、兵に毒だ」

と王も連勝に酔うことなく気を引き締めよと兵に申し伝えた。


 この辺りは、最古の王国の王とその皇太子である。連勝に酔うことはなかった。しかし兵たちは既に魔族、魔物を軽んじ始めた。


「して、分家の小僧はどうだ?」

と王はブライアンに頭を傾け聞いた。


「まあ、あっちも何とかしているようですな。何でも兵をミソルバの商人から借りて、シン王国からも少し借りたようです。一応軍隊の体を整えたと言うところでしょう」

とブライアンは面白くなさそうに答えた。


「エルメルシアまでは許すがそれ以上は出てくるなと念を押しとけ。出てきたら、敵対行為とみなすと」

とファル王は皇太子に吐き捨てるように言った。


「御意」

とだけ、ブライアンは答えた。


   ◇ ◇ ◇


 兄上と僕たち、エルメルシア軍は、各地の村や町の魔物たちを追い出し、周辺に隠れ棲んだ市民達を探し出し、丁寧に慰撫しながら進んでいった。


「兄上、やっと戻ってきましたね」

と僕は、兄上の横に立ち、あの丘の上に立った。


「お前は、あの悲劇の日以来か? 私は、あの日の後、何回か来ている。そして最後に母上に導かれ、あの城の廃墟で、このエルメルシアを受け継いだ」

と兄上は、海に面した城跡を見ながら語った。


「いえ、実は一度、影の頭領の真名模様を取りに来ています。そう、三年ほど前でしょうか。でも、今日、兄上と来て、ここが始まりだったと強く感じます」

と僕は涙で少し見えずらくなった。


「そうか、そうだな」

とだけ兄上は答えた。


 僕たちの後ろには、アーノルドとレオナが片膝を折って控えていたが、感極まって泣いているようだ。


 あの時、母上は父上と別れた後、傷を負いながら、ここまで僕たちを守って逃げてきた。そして影の頭領、カービンに兄が崖から突き落とされ、母が殺された。その時、オクタエダルが現れてカービンを追い払った。オクタエダルが来るまで、僕を守って、抑えてくれたのがアーノルドだ。


 この時、僕に耳の奥で、アーノルドの言葉が蘇った。

あるじ、こらえてくれ。でねぇとあるじも危なぇ。今の俺じゃあるじを守れなぇ。』


 僕は、振り返ってアーノルドを見て、

「アーノルド、今までありがとう」

と言葉が心の底から湧き立つようにでた。


あるじ、俺は何時迄も、あるじを守るぜ」

と涙を流しながら、ニッっと笑った。


「お前にはアーノルド、私にはレオナだ」

とヘンリーはレオナを見て語りかけるように言った。


「勿体なきお言葉です」

とレオナも男泣きに泣きながら答えた。


「さて、我らの城へ行くぞ! あそこにいる魔物を追い払おうぞ」

とヘンリーが聖剣エルメルシアを抜き放ち、エルメルシア城を示した。


 あの悲劇の日、僕たち兄弟は離ればなれになり、ヘンリーは一人で、僕とアーノルドはオクタエダルに連れられて、この地を後にした。


 そして、今、


 シェリー、ヒーナ、双子の聖霊師、レオナ、ケイ、マリオリ、レン老師、ほか、ヘンリーの手勢に、ミソルバ国、シン王国の兵の皆と帰ってきた。


’故郷を奪還しよう’

と僕は心の中で叫んだ


   ◇ ◇ ◇


「おい、どうするだ」

とデレクは他の四将軍に向かって言った。


「判らん。今ここで、人属と戦争をすると、証文の約定に反するのかどうか。どこまでが許されるのか、さっぱり判らない」

とムサンビが答えた。


「このままじゃ、やられっ放しだ。くそー。人属の奴ら、好い気になりやがって」

とラスファーンが赤い舌を出しながら地団駄を踏んだ。


「北の大地で、新しい王を決めようではないか」

とムサンビは、くぐもった声で王に拘った。


「何だ、お前、この間から王、王と。俺はお前には王は譲らねぇ」

とコーリンが顔をクリッと動かし言った。


「何だと。弱いくせに、お前に指図される事ではない。何なら、ここで決着を付けてもいいだぞ」

とムサンビが、巨大な鎌カラス頭に当てて顔のない顔で脅した。


「ムサンビ、お前、人属が怖いだろ。そんなに帰りたければ、尻尾を巻いて古巣に帰れ」

と尾っぽのあるゴリスが忙しく動きながら、尾っぽのないムサンビを挑発した。


 次の瞬間、ムサンビの鎌がゴリスの首を跳ね飛ばした。かに見えたが、頭は何事もなく付いている。しかしゴリスは息絶えた。


「動き回るから、手が滑った。ふふふふ」

と不気味な笑いがこだました。


―――上空に、黒い点が有った―――

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