第105話 法廷の乱闘(四)
尻尾による攻撃が効かないこと悟っているリリスは、なんとかシェリーを捕まえようと爪を立てて挑んでいた。
しかし、手を出そうとするとエルステラが邪魔をし、尻尾で攻撃すると、柔軟な体で躱し、玄武結界で逸らし、瞬間移動してしまう。
「キー、チョロチョロと」
リリスは目尻をあげて、怒りの形相で叫んだ。
「あら、そんなに眉間にシワを寄せると、小じわが増えますわよ」
とシェリーは挑発した。
リリスは、益々、怒り狂って、今度はファイヤボールを発動して、投げつけはじめた。
そこへ、
「リリス、何を遊んでいるのだ」
とデーモン王は、軽く叱責した。そして、シェリーに向かい
「女、お前は、作り物だな? うーむ、しかし、いたぶり甲斐がありそうだ」
と右手に魔法陣を描きそれを握った。
すると、それまで、蜂のように動いていたシェリーが床に落ちた。そして、目が虚ろになり、ゆらゆらと起き上がった。
「どれ、そんな服など要らぬだろう」
と言って、指を弾くと服が破れて全裸になってしまった。
引き締まった体、長い手足。そして細い足首。長い銀髪を束ねていた紐が解かれ、その一部が、程よい大きさの胸にかかり、後ろは背中を通って腰まで伸びていた。
「シェリーに手を出すな」
とジェームズは時空矢を放ったが、悉く、時空を渡り切らずに落ちてしまった。
「ガハハハ、なんだその子供騙しは。そんなものが、この地獄門を超えられると思っているのか」
と言いながら、右手を弾いいた。
すると、黒い塊が空中から現れ、ジェームズに向かって飛んできた。
’避けられない’
とジェームズは咄嗟に顔の前に手をかざし体を硬くした。
そこへビューンと突風がジェームズを吹き飛ばした。
ケイの風のタガーが起こした突風がジェームを救った。
「リリス、ヌマガーを捕まえておけ」
とリリスに命じて
「女、こっちへ来い」
とデーモン王はシェリーに命じた。
シェリーはエルステラを落とし、フラフラとデーモン王に近ずいていく。
そして、地獄門の輪の近くに来た時、デーモン王はシェリーを掴もうと手を輪の外に出した。
ザク
と音がした時、その手首が切り落とされた。
「俺の女に手を出すんじゃねぇ」
とアーノルドが吠え、突進してシェリーを突き飛ばした。
「シェリー悪りぃ」
と言いながら、デーモン王に正対し、竜牙重力大剣を正眼に構えた。
デーモン王の手首からは、黒い液体が流れていたが、平然と腕を引っ込め、手がない手首を上に向けると、切り口から肉が盛り上がり再生した。
そして、
「ほう、リリイを抱いたやつだな。どうだ、良かったろ? あれは、俺が特に調教したからな。その女も調教してやるぞ」
「下衆野郎」
「なんとでも言ううさ、お前たちも牛や馬が吠えたって、気にもせぬだろ?」
とデーモン王は、再生した手を見ながら答えた。
「しかし、行儀の悪い家畜は、罰を与えなければな」
と再生した右手の人差し指を、ちょっと動かした。
すると、石畳であるはずの地面から、アーノルドに向かって土の槍が出て来た。
「おっと、危ねぇな」
と正眼に構えていた竜牙重力大剣の剣先を下に向けて、土の槍を粉砕した。
「これは、楽しませてくれる奴だ」
とデーモン王は言いながら、次々に土の槍を繰り出した。
アーノルドは、小さく剣を動かし、時には大きく払い、土の槍をかわしながら、攻撃の機会を待った。
「痛っ」
影の棟梁の土の槍とは比べ物にならい速度と量を何とか躱すものの、アーノルドは少しづつ傷ついた。それでも致命傷にならない様に避けながら、わざと、輪の方に近づく。
デーモン王はアーノルドの背中を狙い、土の槍を出した。
アーノルドは、後ろを向いて、大剣で粉砕した。
ニヤッとデーモン王は笑い、後ろを向いたアーノルドの首根っこを掴もうと輪の中から、右手を出した。
「待ってました」
とアーノルドは呟き、体を捻った。
デーモン王の右手は、空を掴み、代わりにアーノルドは回転して左手で、デーモン王の右手の甲を掴んだ。
さらに回転して、前のめりなって、輪から出たデーモン王の首に、斥力重力波を最大にして大剣を当てた。
ガチッ
本来なら、首と胴が分かれているはずだった。
デーモン王は、左手に発現した魔法陣で、竜牙重力大剣とその重力波を止めていた。
「ほう、中々、やるではないか。だが」
と今度は逆にアーノルドが引っ張られ、輪の境界あたりで、強烈な衝撃波を受け跳ね飛ばされた。
墜落したアーノルドは、血を吐いた。
「まあいい。家畜よ、お前たちの力など、この程度よ、思い知ったか?」
とデーモン王は笑いながら続けた。
「お前たちの結界など何の役にも立たぬぞ。俺の力を持ってすれば、こうして、どこにでも現れて、いつでもお前たち家畜を狩ることができるのだ」
と勝ち誇りながら法廷にいる全ての人属に聞こえる様に叫んだ。
そしてヌマガーを前に出した。
「ヌマガー、久しぶりだな。アルカディアを陥落させた功績は大きいぞ。よって、お前に褒美として死を贈ろう」
「……… 」
デーモン王はヌマガーの頭を掴み、記憶を探り始めた。
「あガガガガ」
ヌマガーは、目を大きくひん剥いて、苦しみ始めた。そして、目、耳、鼻から血を出して、悲鳴をあげた。
「何?、クソー。ん? 何奴と話したのだ。おい、ヌマガー?」
とデーモン王はさらに力を入れた。
ぐちゃ
ヌマガーの目が飛び出し、頭が潰れた。
「ふっ、面白く無いな」
とデーモン王は呟き、頭の潰れたヌマガーの死体を放り投げた。
―――アルカディア学園首都を破壊した、希代の錬金術師ヌマガー・ガッシュの呆気ない最期であった―――
「女、こっちへ来い」
と再び、シェリーを呼び寄せた。
「シェリー、しっかりしろ! シェリー!」
とアーノルドは、口の血を拭い、声を上げて、シェリーを抱きかかえようとした。
「人属! 邪魔だ!」
とデーモン王は、指を弾いて黒い塊を空中に発現させ、アーノルドとシェリーに向かって放った。
「危ねぇ」
とアーノルドは、シェリーを庇って、倒れ込んだ。
ジュジュジュ
―――肉が焼ける音―――
「ガァー」
アーノルドは左手に激痛を感じ、悲鳴をあげた。
アーノルドの左掌に塊の一部が当たり、溶かし始めた。
シェリーは、まだ虚ろな目をして、デーモン王のところに向かうため、起き上がろうとする。
「シェリー、俺は、お前を愛している」
と左掌が溶けて穴が空いて来たが、それにも構わずに、右手でシェリーを抱き寄せ、口づけをした。
「………」
シェリーは最初、抵抗したが直ぐに力なく、アーノルドに体を預けた。
「ふん、『愛する人の口づけ』か、リリス、戻るぞ」
と言いながら、両手を天に翳し、巨大な黒い塊を頭上に顕現させた。そして地獄門を開いた。
◇ ◇ ◇
「ちょっと、この部屋陰気臭いな。と言うより、臭いな」
と言いながら、サリエとナウムは外光を遮る分厚いカーテン開けて、窓を解き放った。すると春の柔らかい陽の光が部屋一杯に差し込んだ。
そして明るなった部屋を見てギョッとした。人属の骨が其処彼処にあり、それが異臭を放っていたのである。
「風の精霊よ、清浄なる空気でこの部屋を清め給え」
とアメーリエは精霊に頼んだ。
「どこに、その笏はあるんだい?」
「あれよ」
と壁に掛けられた物を指差した。
先の部分に石が埋め込まれて、高価そうではあるが、何の変哲も無い、王族が使う笏だった。
アメーリエはが、それを取ると笏の先の宝石が緑色に光始めた。
「へー。ローデシアの王族が持った時だけ光るって寸法かい?」
とサリエは光る宝石を指差しながら聞いた。
「そうよ」
と言っている時、
「……… 戻るぞ」
と聞こえた。
「えっ、お父様?」
とアメーリエは当たりを見回した。すると、黒い点が床に現れているのが見えた。
「お父様なの?」
とアメーリエは少し大きな声で聞いた。
◇ ◇ ◇
「何、何で、向こう側が明るいのだ?」
とデーモン王は、巨大な黒い塊を作るのをやめて、足元を見た。
ジェームズはやっとの思いで起き上がり、下の証言台近くに倒れているアーノルドを見て、
「アーノルド、大丈夫か? アーノルド、そこから離れてくれ」
と叫んだ。
「おう、少しやられたがな。解ったぜ」
とアーノルドはシェリーを抱えて移動した。
そして、デーモン王の足元の光から、
「お父様なの? どこにいるの? お父様?」
と声が聞こえてきた。
するとデーモン王が身悶えした。
「アメーリエ、逃……… げろ、今すぐ……… 逃げろ、愛しいアメーリエ、ローデシアは……… お前に任せた。逃……… げろ」
「ノアピ、うるさいぞ、ノアピ。しかし何処に隠れていたのだ、お前の娘」
「逃……… げろ」
「アメーリエ、そこで待っていろ。今父がそちらに、向かう。父とともにローデシアを再興しような」
「逃……… げろ」
ジェームズは、デーモン王の顔がブレているのを見た。ヌマガーの証言にあった通りだ。
ジェームズは、八本の時空矢を地獄門の輪の周りに射て、
「僕が命ずる。大地に暗黒の陣を顕現し、大地の重力を百倍にし、そこにあるものを大地に押さえつけよ」
とグラビティーホールを顕現させて潰そうとした。
「ケッ。人属よ、今度来るときは、戦争だ」
と言いながら、地獄門を開き向こう側に移動していった。
◇ ◇ ◇
「すぐに、ここを逃げましょう」
とアメーリエは判断した。親子の情より、統治者として判断を優先した。
アメーリエ達は、部屋を出て、
「私、アメーリエが四大精霊に命ずる、紅蓮の炎で焼き尽くし、疾風の風で切り刻み、大地の溶岩で全てを飲み込み、絶対零度の世界に凍らせよ」
と精霊達に命じて、その場を後にした。
◇ ◇ ◇
デーモン王が戻ってきたとき、部屋は紅蓮の炎で満たされていた。
「おのれ……… リリスこっちへ来い」
とリリスを抱えて地獄門を開きなおし、北の大陸へ移動した。
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