第102話 法廷の乱闘(一)

「その先は、俺が聞いてやろう」


 突然、野太い声がして、法廷はざわめいた。法廷にいる皆が見回し、お互いに目が合うと、自分ではないと否定するかのように首を振り合っていた。


 ヘンリーは腰のエルメルシアの柄に手を置き、シェリーは傍聴席から僕の隣に瞬間移動して警戒態勢に入った。


 アーノルドとケイは傍聴席の最前列に移動して、僕の方を見て頷いた。


 ヌマガー一人が、顔を少し上げて目だけで周りを見渡している。


「陛下?」

と口が動いたのを僕は見た。


 そして、ヌマガーがいる証言台の少し前に黒い点が現れた。その点は次第に広がり輪のようになり、証言台の前いっぱいに広がった。


「ほほほほっ。家畜ども控えなさい。デーモン王の御成です」

と今度は甲高い女の声がし、輪の中から、異臭と妖気が流れ出て、何かが、黒い地面から出てくる。


 衛兵たちは、長槍を構えて、護衛の魔法使いたちは、杖を向けて、先行提唱を始めた。


あるじ、不味いぜ、臭ぇ匂いに混じって、サキュバスの吐息の匂いが混じってるぜ”

とアーノルドが、ブレスレットを通して、僕に警告してくれた。


’確かに、甘い吐息の匂いがする。けど、なんか頭にくる、怒りを誘う臭いも混じっている’

と僕は感じた。


 輪の中から、ゆっくりと、丸く曲がった角が生えた大男と、丸まった角に羽の生えた女が姿を現してきた。そして、その後ろに数匹の、全裸の女の魔族も付き従って現れた。


「衛兵たち、何をしている、その魔族を撃て。証言台の槍を落とせ」

とファル国王は、皇太子に守られながら、命令を出している。


「父上、早く退出を」

とブライアンは父王の前にたち、首だけ傾けて、後ろの国王ほか、各国の代表の退避を促していた。


 法廷は混乱している。

 

「あら、、雄どもが私に敵うと思っているのかしら」

とふーっと吐息を衛兵たちに吹きかけた。


 すると、衛兵たちは、構えた槍を落とし、ふらふらとしながら、鎧を自分で脱ぎ始めた。


「リリス、遊ぶのは後だ。何匹かは連れ帰って良いが、今は殺せ」

と大男が命じている。


「うっふ。判ったわ」

と言い終わらないうちに長い尾っぽが、衛兵たちの喉笛を次々と突き刺していった。

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