第93話 アーノルドとシェリーに相談
「アーノルド、貴様!」
とアーノルドを見つけたシェリーがすごい剣幕で、言葉を発したあと、鼻先に触れるほど、近くに瞬間移動して来た。
「なんだよ。キスしたいのか?」
とアーノルドが惚けて言うと、シェリーは顔を赤くして、上体を反らして頭を後ろに下げた。
「違う! あの王女様だ。なんで私が許可すれば、魔物狩猟者になれるなどと、嘘を言うのだ?」
と髪の毛を束ねて戦闘モードになっている。
「いやな、この前、竜達のところで、たまたま会っただけどな、魔物狩猟者になりたいって、せがんできてよ。でも俺、女のことはよく分からないし、『シェリーに相談してみたらどうだ?』って言ってみただけどな」
と頭の後ろを掻きながら答えた。
「ダメに決まっているでしょ。シン王国の王女様よ」
とシェリーはプンプンして答えた。
「でお前は、言ったのか? 駄目って」
とアーノルドに切り返された。
「えっ、言える訳ないでしょう。シン王国の王女様よ。挙げ句の果てに、私と勝負しろと言うし」
とシェリーにしては珍しくちょっと狼狽えた。
「なんだ、じゃ俺と変わらねぇじゃないか」
とアーノルドは、シェリーの肩に手を置きながら答えた。いつもなら、気で跳ね返すところだが、この時はなかった。
◇ ◇ ◇
―――火竜や風竜は、丸くなって寝始めた。少し日が翳り、寒さが戻って来た―――
「どうだい、竜達を見て、気が済んだか? そろそろ帰らねぇと、お付きの騎士がソワソワしているぞ」
とアーノルドは、足を抱えて、焚き火を見つめるお転婆姫に言った。
「私ね、ドラ……竜のような羽が欲しいの。そして色々なところに飛んでいきたい」
と焚き火に照らされ、少し赤い顔になった王女が答えた。
「俺もオメェ位の歳の時は、そう言う夢を持ったな」
「いいなぁ、私も一人旅したい」
「今はとてもじゃないが、無理だな。物騒すぎる」
とアーノルドは後ろに手をつき、空を見ながら答えた。
「ねぇ、カバレッジさんって、魔物狩猟者なの?」
「アーノルドで良い。まぁ、そんなもんだ」
とアーノルドは、なぜそんなことを聴くのか、判らない顔で、お転婆姫を見ながら答えた。
「私も魔物狩猟者になりたい。そしたら、色々なところに行けるよね。ねぇ、アーノルドさん、どうすれば、なれるか教えて」
と正座に座り直してアーノルドに聞いて来た。
「オメェには無理だ」
「どうして?」
アーノルドには、悲惨な死に方をした女性の魔物狩猟者のことが頭に浮かぶ。魔物に食われたり、ゴブリンに、生きたまま内臓を抜かれたり、死ぬまで犯されたり。しかし、こんな話をして良いか迷った。そして迷った挙句、
「俺の連れのシェリーに聞いてみな。女剣士だから知っていると思う……けどな」
とそっぽを向きながら、答えた。
◇ ◇ ◇
「全く、相変わらず考えることは人任せなのね」
とシェリーは非難した。
―――噂をすれば影の人物がやってくる―――
「皆さん、お揃いですね。私、如何しても魔物狩猟者になりたいです」
「如何してなりたいですか? 側で見るほど楽じゃ無いですよ。夜も野宿ってこともありますし、魔物の解体など、臭いしですし、お風呂だって、何日も入れない時もあるし」
とシェリーは、諦めそうなことを並べて聞いてみた。
「大丈夫です。私、その位なら、やっていけると思います。もうキャンプとかでやったことがあります」
アーノルドは、キャンプって言ったって、お付きが一緒で、お膳立てしたものだろうなと思いながら聞いていた。
「魔物狩猟者になって、色々な所に行って、見聞を広げたいです」
と王女は目を輝かせて答えた。
「エレサ、お客様を困らせるものではありません。まだそんな戯言を言っているのですか」
と後ろから、やや大きな声でシン女王が叱責した。
ヘンリーとマリオリも一緒で、これからの方針を話し合うところを、たまたま通り掛かったのだろうとアーノルドは思った。
「女王陛下、恐れながら、今、漏れ聞いた所では、エレサ王女陛下は、見聞を広げたいと仰っておられました。もし宜しければ、私が見聞を広げるお手伝いをしても構いません。その代わり、相当のショックを受けると思いますが」
とヘンリーはシン女王に頭を少し下げながら小声で具申した。
「男親を早くに亡くしたため、少し世間知らずに育ってしまいました。どの様にされるのでしょうか?」
とやはり、女王とは言え、親としては心配なサスリナはヘンリーに聞いた。
「アルカディアから救出した市民たちに協力してもらい、真実をお教え致します。包み隠さず、年齢的に少し早い所もあるかともいますが、どんな仕打ちをあの市民たち、娘たちが受けたかを全て語ります」
流石にシン王女も少し躊躇した。しかし、実際にその目で見たヘンリー言う話は、自分が語るより、ずっと説得力があるのは間違いない。今、この戦時下において、王族の甘い考えは、王家どころか、国も危ぶまれる。
「分かりました。世間知らずの娘に、よろしく、ご教示ください」
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