王家の務め
第91話 アーノルドの非番
「さーってと、今日は、どうすかな。朝のトレニーングは終わったしな」
シェリーは、助手として付き合わされている様だが、これも満更でのもねぇ様子だったな。
それにしても、錬金術師カップルの、あの嬉々とした喜びようは、今でも俺には理解できねぇ。
あと、ヘンリー王たちは何やら、政治的なお話会いとかだし、タン老師とレン老師は、ケイの申し出で、修行の指南とかでいねぇしな。
ケイは兄貴を亡くした所だが、武器のタガーを取られて、ゴブリンに捕まった事がよほど悔しかったと見えて、かなり厳しい修行に励んでいるらしい。そう言やぁ、新しいタガーは如何するのかな?
’まぁ、
流石に、こんな朝早くは、赤提灯は空いてねぇし、サキュバス事件から、ちょっとここの酒場はなぁ。
おお、そうだ。ドラゴンたちが対岸に住まうことを許されて、そこに居るって
’ちょっくら、モック借りて行ってみっか。ところで、ドラゴンって酒飲めんのかなぁ’
そう言やぁ、ドラゴンって呼ぶなって言ってたなぁ。バカにした呼び方とからしい。それなら、俺を粗忽者って呼ぶのは良いのか?
まあ、良いか、婆ちゃんたちにそう呼ばれるのって、悪い気はしねぇ。
◇ ◇ ◇
「この辺か? おーい、竜はいるか?」
と俺は、両手を使って、遠くに聞こえる様に言ってみた。
名前を聞いてねぇから、なんと呼べば良いか判んねぇ
「おーい、竜はいるか?」
”誰だ? 我等を呼ぶものは? 竜といっても八体おるぞ、誰に用なのだ?”
「おお、名前、知らねぇから、誰でも良いや」
―――緑色の竜が森からぬっと顔を出した―――
”何か用か? 粗忽者殿”
「アーノルドだ。アーノルド・カバレッジ。俺を粗忽者と呼んで良いのは、聖霊師の子供ババァーズカルテットだけだ」
”子供ババァーズって、聖霊師様達か? お前凄いな”
「そうなのか?」
アーノルドは、腕を組んで首を傾げた。
”我等が、人属に頭を下げることは殆どない。ヘンリー王と大魔導士殿は、まあ、お前も含めて、恩人の一行として、友人として認めよう。しかし聖霊師様は全く別格だぞ。我等も頭が上がらない”
と風竜が右手の指で丸を作り、爪を弾きながら答えた。
「へー、そうなんだ。魔力が凄ぇのは知っているけどな。まあ、良いや」
とアーノルドは馬を下りながら答えた。
”ところで、我等に何の様なのだ?”
風竜は、酒の匂いを嗅ぎつけて、鼻をヒクヒクさせながら、聞いてきた。
「おっ、酒、いける口か? ちょっと非番なんでな、酒でも飲もうと思ってな。ほれ、八頭のモックの背に二樽づつだ。モックは食うなよ」
”酒は、いける口だ。勘違いしておる様だが、モックなんぞ食わぬぞ”
と風竜は、涎を流さない様に気をつけながら答えた。
◇ ◇ ◇
―――何処からか、八竜が集まってきて、宴会が始まった。樽は大きいが、竜からするとコップくらいになってしまう。それを器用に零さない様に飲んだ―――
”いやーお主、気が効くの。見直したぞ、カバレッジ殿”
「ガハハハハ」
と赤い火竜が、思念ではなく声を上げて笑った。
「アーノルドと呼んでくれれば良い。ところで、お前たちは何と呼べば良いのだ?」
とアーノルドも杯を重ねながら聞いた。
すると、
”人属には、発音できんな。例えば、儂は”
「ガウグルーガウ」
”こいつは”
「ガウグルーガウ」
水竜が自分を指差し、そして隣の土竜を指差して言った。
「どっちも同じにしか聞こえない」
とアーノルドは頭を掻きながら答えた。
”であろう”
「今度、子供ババァーズカルテットに付けてもうらおう」
”そうじゃな、ちょうど雌雄一対づつおるから、それが判る様にすれば良い”
「えっ? 雌雄一対居るのか?」
とアーノルドは、一組の火竜を見比べて思わず口にしてしまった。
”何か?”
「いや何でもねぇ」
「ところでよう、一つ謝って置きたいことがある」
”ほう、アーノルドが我らに謝ることなどあったか? この間の飛行の時のことなら、もう良いぞ”
アーノルドは、片方の頬を上げて笑いながら、
「いや、実はな、俺の親父が、ローデシアの魔法使いたちに操られた竜を一体殺している。まあ、そん時、親父も死んだけどな」
”それは、双方にとって悲しいことよ。我等もヘンリー王や大魔導士殿に救われなんだら、何人の人属を殺めていた判らない。それに、我等も死んでいたかもしれぬ。その竜とお主の親父殿は、闘ったのであろう。ならば、本望じゃろうて”
「ああ、正々堂々と闘っていた」
とアーノルドは、悲劇の日の父の勇士を思い出しながら、竜たちに聞かせた。
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