第83話 ロン大河の渡し 奪還
―――シン王国の騎士達の防具、武器は聖霊具と呼ばれ、どれも聖素を多く含む。つまり魔物にはかなり強力で、下位のゴブリンであれば甲冑に触るだけで火傷を負ってしまう。そんな騎士の騎馬隊が突如、大海嘯の水が溢れたかのように河の方から現れたため、魔物達は混乱した―――
「進め、魔物を狩れ」
とサルモスの指揮する声が聞こえてきた。
「ローデシア軍諸君、今は人属として助ける。動けるものは武器を取れ、共に魔族を倒そう」
とさらに続けた。
その言葉に、壊滅寸前だったローデシア軍が息を吹き返し、魔物に対し攻勢かけ始めたのが見えた。
ドーン、ドーン
―――何か大きなものを打ち付ける音―――
僕は、霧の向こうで大きな音と共に悲鳴が上がるのを聞いた。魔法ではないだろう。
そこへ、サルモスから霧を消して欲しいと伝令がきた。僕は了解と答えた後、風を起こす呪文を発した。
すると、村の入り口付近にトロールが二体、騎士達に棍棒を振り上げている。
◇ ◇ ◇
「さーって、
と言ってアーノルドが甲板から下のホブゴブリン目掛けて飛び降り、竜牙重力大剣を打ち付けて着地した。ホブゴブリンはベッタと、強制的にうつ伏せにさせられ、頭が潰れた。
「おう、お前ら邪魔だ」
と大剣を一閃して、殺到するゴブリンの体を切っていく。そして騎手を失った馬に乗り、トロールの方へすっ飛んで行った。
「キー、ギャビギャビ」
ゴブリンが、変な声を出して、ジェームズ達の船に取り付き登ってきている。
それまで、僕の横でエルステラを鞘に収めて背中で水平にし、柄頭に左手を乗せて静観していたシェリーが髪の毛を一つに束ねて、
「ハエを追っ払ってきます」
と言って、瞬間移動した。
そして船に取り付いたゴブリンの頭上に現れると、エルステラを抜くこともなく、軽く足踏みして、次々と潰していった。
タン老師が甲板に上がってきて、
「おっ、やっとるな」
と物見遊山のような言葉を発したが、シェリーの動きを見て、
「むむむ、シェリーに負けてはおれぬな」
と言って、甲板からゴブリンの頭に音もなく飛び降りた。
タン老師も背中のロングソードを抜かずに、手を後ろに組んだまま、ゴブリン達の頭を、飛び石を飛び移って行くように移動した。頭を足で踏み、体をちょっとひねって、ゴブリンの首を折って行った。
僕も甲板から、次々と時空矢を放ち、少し離れた敵を射殺して行った。
すると突然、聖霊師様から魔法通信が入った。
”ジェームズ、魔術師がおる、気をつけよ”
変な魔法陣が現れた。そして、緑色のガスが発生し、騎士達が倒れる。
’毒ガス!’
僕は、すぐに突風の魔法でガスを散らした。そこにいたタン老師は咳き込みながらも、ロングソードを抜いてゴブリン達を切り倒して行った。
それを見届けて、スコープを使って辺りを探った。
”ジェームズ、左の方じゃ”
とまた、聖霊師様から助言があった。
スコープで確認すると丘の上にゴブリンの呪術師を発見した。僕は拘束水を降らせる術式を丘の上空に展開して、呪術師を封じ込めた。
◇ ◇ ◇
アーノルドはトロールに手こずっている騎士達に
「こいつは任せろ。船の方のゴブリンが多すぎるから、そっちを手伝ってやれ!」
とちょっと嘘を入れて、この場から去らせた。
「さてと、茶々と片づけるぜ、なあ、デカブツ」
と言いながら、トロールを挑発して、ミソルバの時の様に切って捨てた。
「あん? そこにいる奴、隠れてねぇで出てきたらどうだ?」
とアーノルドは、後ろの藪に向かって喋りかけた。
アーノルドはこの時、藪の中の何者かは恐怖で隠れている腰抜けではない事をすでに悟った。先ほどまで全く気配が無かったが、トロールを仕留めたあと、僅かだが強い闘気を感じたからである。
「ほう、今の闘気を感じるとは、お前、結構できるな。トロールを仕留めたのを見て、ちょっと闘ってみたくなってな。でもすぐに抑えたんだがな」
と言いながら緑色の魔族が出てきた。
「魔族に褒めらるとは、思わなかったぜ。おめぇ、オークだな」
とアーノルドは竜牙重力大剣を肩に担ぎ、振り返って言った。
肌は緑だが、綺麗に束ねられた黒髪に少し切れ長の目。耳が長く尖って小さな牙はあるが、ゴブリンの様な凶悪な感じは微塵もない。寧ろ知性の高さを思わせる気品がある。アーノルドと同じくらいの背丈、軽装の甲冑で程よい筋肉質の体を包み、弓と蛮刀を持っている。
「おめぇが、ゴブリン達を率いているのか?」
とアーノルドは問いかけた。
「いや、物見遊山さ。彼奴らといると、お前みたいな強い人属に会えるかと思ってね。どうだ、一つ勝負しないか?」
とそのオークは腕を組んで話をした。
「勝負? 魔族相手じゃ手が滑るかもしれんぞ」
とアーノルドは、ニヤッと笑いながら、大剣を前に出し答えた。
「俺は、アーノルド・カバレッジ。おめぇは? 魔族にも名前はあるだろ?」
「魔族、魔族っていうが、ゴブリンや、そこのトロールと一緒にするなよな。俺の名前はサリエ、ガラン族のサリエだ」
と言いながら、蛮刀を構えた。
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