ヘンリー救出作戦

第82話 ロン大河の渡し 再上陸

―――濃い霧が立ち込め、対岸が見えない。音も霧に阻まれ、まるで耳を手で塞いだかのよう。水は、数日の雨のせいか、茶色く濁っている。それでも、聖都の湖から流れ出た水を含んでいるためか、時折青白い光を放ち、滔々と流れている。―――


 僕たちは、シン王国聖都を立って、再びロン大河の渡しについた。ついこの間、虎口を逃れた渡しの村の対岸に接岸している。

 濃い霧で向こう側は見えない。錬金術を使えば霧を払うこともできるが、今は様子を見ることにした。


 避難してきたときと違って、サルモス・ウード大尉が率いる騎馬騎士団が一緒である。それから、タン老師、レオナさん、双子の聖霊師様にメリルキンさん、そして、僕たち三人だ。ヒーナは大人しく、シン王国に残ることを選んでくれた。賢者の石が無いことをとても悔しがっていたので、来月、ヒーナの誕生日を迎えた時、一緒に作ることを約束した。


 接岸した高速船の甲板から、対岸を眺めて考え事をしていると、アーノルドが近づいてきて、

「なー、あるじ、対岸の様子、なんか変じゃねぇか?」

と、耳を穿りながら喋りかけてきた。


 僕には、全く判らなったので、シェリーの顔を見て、暗に聞いてみた。


 すると、険しい顔で、

「そうですね、確かに闘っている感じがします。剣戟の音が僅かにしますね。それに……魔族がいます。それも多量に」

とシェリーは答えた。


 そこへ、メリルキンさんに抱えられた双子の聖霊師様がやって来て、

「アーノルド、シェリー、お主等にも感じるか」「感じるか」

とメリルキンさんに下ろしてもらい話しかけて来た。


 そして、

「サルモス、タン、クライムには我等から話をしておる」「しておる」


 そこにサルモスさんが上がってきた。


「この霧に乗じて、奇襲をかけます。ジェームズ殿には申し訳ないですが、音消しの術をかけて頂けませんでしょうか?」

と大きな体を折って、頭を下げてきた。


「頭をお上げください。お安い御用です」

と僕は、サルモスさんの手を取って答えた。


「なぁー、サルモスの親父よ、どっちをやるんだ? ローデシア軍か? 、魔物か? 魔物がいる事知ってるだろ?」

とアーノルドが大尉に向かって、タメ口で聞いた。


 これには僕も驚いて、

「アーノルド、その口の聞き方は失礼だぞ!」

とちょっと怒った。


「いやいや、大丈夫ですよ。アーノルドとは同じ門下生ですから。それに剣ではかないません」

とサルモスさんが笑いながら答えた。


 いやそう言う問題じゃないと思うのだが。


 サルモスさんはアーノルドの方に向かい、

「まあ、この場合、魔物を片付けるのが先だな」


アーノルドは、敬礼して

「解ったぜ」

と答えた。


 全く、礼儀正しいのか、悪いのか判らない奴だ。


   ◇ ◇ ◇


 高速船の音を消して、ゆっくりと岸へ近づける。


 次第に対岸の音が聞こえてきた。悲鳴と雄たけび、そして剣戟。まだ霧で視界は聞かないが確かに闘っている。


「ヒトゾクヲカワニチカヅケルナ。ガハハハ、イキテイル、ヒトゾクドモハ、ミグルミハイデ、オリニホリコメ」

と悍ましい喋り方を聞いた。


 ゴブリンがいる。


 サルモスさんが、

「上陸、魔族を討ち滅ぼせ」

と命令し、ラッパが吹き鳴らされた。


 高速船は接岸し、タラップを下ろし、騎馬隊が流れ出た。

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