第84話 ガランのサリエ
サリエは、蛮刀を後ろにして構えた。
アーノルドは、正眼に構えた。
お互いに闘気を発する。
「いざ」
とサリエが、アーノルドの間合いに入っていく。
アーノルドは、剣先を僅かに下げ、サリエの動きを伺う。
間合いに入った時、アーノルドの手を狙って、サリエは、蛮刀を下から回してアーノルドの左側に回し打ち込んだ。
アーノルドは、大剣を下げて、剣の影に隠れる様に体を少し回した。
ガチ
―――剣と刀がぶつかり合う―――
アーノルドが、大剣の剣先をサリエに振り下ろす。
キーン
―――再びぶつかり合う。サリエは蛮刀で受けた―――
そして、蛮刀を左脇に回し、アーノルドの剣の右下を狙う。
アーノルドは、剣先を下げて、サリエの蛮刀を受ける。
ガチ
次に蛮刀を引いて、腕を自分の頭の上に回し、蛮刀の背を体に付けたまま、右側に回し、アーノルドの再度、左を狙う。
アーノルドは剣先だけを回し、サリエの右手の軌道に向けた。
サリエはとっさに体全体を引いて、剣が刺さるのを防いだ。
「すごいですね。無駄のない大剣の動きには正直驚きました」
とサリエが言葉をかけた。
「お褒めに預かり光栄だ。おめぇの刀も大したものだぜ」
そして、2合、3合と打ち合うが、勝負はつかない。
そこへ、シェリーが闘気を感じて、瞬間移動でやってきた。しかし、相手の魔族に邪悪さが感じられないため、加勢するか躊躇している。
「待った」
とサリエが、アーノルドに声をかけた。
アーノルドは、ニヤッとしながら、大剣を引いた。
するとサリエが、
「そこの雌、いや失礼、女、お前と同じくらい強いじゃないか?」
とシェリーを指差して言った。
「いや、俺より強いかもしれんな」
とアーノルドは答えた。
シェリーは相変わらず、全く
「お前の連れか?」
とサリエが問うと、
「そうだ……あっ、いや、ちょっと違うけどな」
とシェリーの顔色を見ながらアーノルドが答えた。
シェリーは横目でチラッと見ただけだった。
「俺も、俺の連れに会いたくなった。この勝負はお預けだ。じゃあ」
と言ってサリエは、少し後ろに下がり、踵を返して走りさる。
シェリーの瞬間移動なら簡単に追いつける事くらい、サリエも解っていたが、攻撃してこないことも解っていた。
「アーノルド、あれは、オークですよね」
「そう……らしい」
◇ ◇ ◇
ロン大河の渡しの奪還は成功した。ローデシア軍は全員投降した。捕虜になる悲壮感はなく、喜んで武器を捨てた感じだった。
シェリーが、以前鉄拳を食らわした隊長格だった男を見つけて連れてきた。
「ご主人様、こいつが居ました。全く悪運の強い奴です」
「ヒェー、御免なさい。お許しください。先日はホンの冗談です」
とシェリーと僕に向かって、手を合わせて拝んできた。
「お前、『異端審問官なんて、怖くない』って言っていたよな。ここにはシン王国の聖霊師様がいらっしゃるぞ。一つ話をしてみるか?」
と僕が言ったら、青ざめて、気絶してしまった。
「しょうがない奴ですね」
と言いながら、シェリーが喝を入れて起こそうとしたが、
「いや、良いから寝かせておけ。後で話を聞こう」
とシン王国の騎士に任せて、
「それより、オークのサリエについて聞きたい。一緒に聖霊師様とタン老師の所に行こう」
と二人を伴って、船の方に向かった。
◇ ◇ ◇
「……と言う感じです」
とアーノルドとシェリーが説明した。
「ジェームズ、魔族と言っても、必ずしも悪とは限らんのじゃ」「のじゃ」
と聖霊師達が答えた。そして続けて、
「二百年前の聖魔大戦争以前は、我々人属の国家間の小競り合い程度のことはあっても、今ほど邪悪では無かったと聞いておる。人属を食らう習慣は、魔族にも大昔は無かったと聞いたことがある」「ことがある」
「そうなんですか」
と僕は、今までの概念が覆ったことに驚いた。
「しかし、そのオークは何しに、こんな所に来たのだろうな」
とタン老師が空を見上げて呟いた。
僕も不思議に思うと同時に、聖魔戦争という暗闇の中に、ただ一点の灯火があるように感じた。
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