第79話 デーモン王の苛立ち

 ガガガーン

―――激しい雷。稲光に二人の影が、一瞬、明確な影として浮かびあがった。一人は跪き、もう一人は、その人物の頭に手を乗せている―――


「あ、あ、あ、あ」


 跪いている人物は口を開けて、涎を垂らし、立っている人物を仰ぎ見ている。


「さー、お前の記憶を見せろ。オクタエダルは何と言ったのだ。証文はどうなったのだ」

 跪いている男の額を手で掴んで、ローデシア帝のは尋問している。


「さー、思い出せ。何と言っていたのだ。何か心当たりがあるだろう」

と次第に手に力が入っていった。その顔も、腕もデーモン王に変わっていった。


   ◇ ◇ ◇


「ぎ、ぎ、あ、あ」


「何だ」

読み取れる記憶が他の奴と同じだ。


 ベキッ、グチャ

―――力を込めすぎて、頭が潰れた―――


 くそっ、証文は一体どうなった?


 アルカディア陥落直後から、ローデシア領内にいるアルカディア出身の魔法使いを呼び出しては、尋問した。数人は記憶の奥深くまで入り込んで、どうなったのかを探った。その者達は廃人になるだけで、皆同じ結論。


『判らない』

である。


 証文の錬金石という、証文を封印した巨大な賢者の石を混沌の錬金陣を破るためにぶつけた。だから、証文も消滅したかもしれない。

 しかし、忌々しいオクタエダルは、最後に『……のために基盤証文は永遠である』と告げて、肝心のところが聞き取れていない。数人の魔法使いを尋問しても同じ結論だ。


 これでは、このひ弱な人属の皇帝の体を手放せない。皇帝の命が尽きてしまうと、これまでの行為は魔族による侵略となる可能性が高く、俺が証文の魔法で殺されてしまうかもしれない。


 アルカディアが陥落した事が知れ渡れば、魔族の軍団が勝手にやって来るだろう。いつ寝首をかくか判らない奴らだ。


『誰が、どのような方法で、裏切るか判らない』


 しかし、今の俺の状況を聡らるのが一番まずい。


「ふっ。ノアピよ、お前は、まだ暫く生かしておいてやるよ」

と喋りながら、ローデシア帝を内包して、デーモンの姿に完全に変身した。


 そして、雄叫びを上げてデーモンの女に命じた。

「リーーリーーース、この城の人属と大臣達を一人残らず殺せ! そして我が軍団を迎える用意をせよ」


キャキャキャ

と不気味な笑い声と共に殺戮が行われた。

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