第75話 アルカディア学園首都陥落(3)
―――魔法で動く昇降機でかなりの時間、乗って降ってきた―――
耳がキーンとなり、唾を飲み込む。
そして最下層。魔法石を使った照明で地下とは思えない明るさだ。広さもかなりある。その中央の部分にオクタエダルが言った通り、円形の柵があり、そこには何もない。
「その柵には近づかないで。入ったら即死するわよ」
とレン老師が改めて注意した。
「ローレンス、オクタエダル先生が言っていた『混沌の錬金陣』について何か知っているか?」
と私はマリオリに向いて質問してみた。
「私も、正確には判りませんが、確か錬金術師が行う錬金陣の中で最強にして、最悪、そして禁忌となっている陣と聞いたことがあります」
マリオリは、眉をひそめて話を続けた。
「錬金術には、『すべての根源は混沌』と言う考え方があります。この世界は混沌から六大元素に別れてできたと言うものです。アルカディアの紋章になっている正八面体がその象徴ですが、『混沌の錬金陣』は、すべてを混沌に戻す錬金陣です」
マリオリも言った後で、首を横に振った。
ヘンリーは、黒い点が、様々なものを吸い込みその範囲が広がって行くのを見た。際限なく広がった場合、この世界すべてが混沌に戻ってしまうのだろうかと考えてしまう。
◇ ◇ ◇
「ロニー、やはり時空嵐では、混沌の錬金陣は抑えられそうにないのぉ」
オクタエダルは、激しくぶつかり合っている場所を見ながら、考えている時のいつもの癖でロニーに呟いた。
「そうでありますな」
と心得ているロニーは答えた。
―――黒い点の吸収範囲は、前にもまして広がって、ゆっくり上昇しながら、大図書館塔に近づいてきている―――
風が髭を舞い上げる。
「ロニー、ちと計算しておくれ。アレは、この大図書館塔の真上に来るじゃろうか」
長い髭をほぼ真横に靡かせながら、ロニーに聞いた。
「そうでありますな。ちょっとお待ちください」
オクタエダルは、暫く激しくぶつかり合い、雷や光を発している場所を眺めていた。
「ご主人様、一時間と十八分三十二秒後に真上に到達します。しかし、その五分後にこの場所は、吸い込まれます」
とロニーが答えた。
「ふむ、ありがとう。ではアレにアレをぶつけて、消滅できる確率はどのくらいじゃ?」
とオクタエダルとホモンクルスのロニーの脳波は極めて正確に同期している上、長い付き合いから、簡単な会話で意思が伝わる。
「…………」
ロニーは、目を開けたまま計算している。
「混沌の錬金陣に関する情報が少なすぎますが、現状の予想される範囲から計算すると96.889% の確率で消すことができそうです。ただし、初速度を通常の魔法弾の三十倍にする必要があります」
ロニーは、余り感情を出さずに答えた。そしてさらに続けた。
「タイミングが極めて正確である必要があります。現状、測定も術式展開も、遠隔で行うすべがありません。そのため観測者と術者は、この場所に発射まで居なければなりません」
ロニーは、さらに感情を殺して話をした。
「つまり、儂とお主は、ここにおらんとならんなぁ」
とオクタエダルは、ニャと笑いながら答えた。
「私は、いつも、どこまでもご主人様のお供を致します」
とロニーは答えた。
「お主とは長い付き合いじゃったな。さて、若い者に言っておかねばなるまいよ」
とオクタエダルは、少し寂しそうに語った。
「ロニー、このロッパにいるアルカディアの子らに聞こえるように魔法通信を最大限の出力にしておくれ」
とオクタエダルはロニーに頼んだ。
ロニーは頷いた。
オクタエダルは、口をムニュムニュと動かしながら、考え事をし始めた。
「そうじゃ、ロニー、良いことを思いついたぞ。魔族の王に疑心暗鬼の呪いを掛けようぞ。これは面白いかもしれん」
とオクタエダルは、少年の様に目を輝かせてロニーに語った。
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