第74話 アルカディア学園首都陥落(2)
さすがのオクタエダルも驚いた。人の拳ほどの賢者の石が現れたと思ったら、なんと『混沌の錬金陣』を顕現したのだから。
「誰じゃ、こんなバカをやる奴は」
オクタエダルは珍しく、心から悪態をついた。
すぐさま、そこを離れて一旦大図書館塔に戻り、ヘンリーとマリオリを呼び、
「何処かの大馬鹿者が、混沌の錬金陣を発動した。あれは暴走しやすく、人属どころか魔族でも制御することが難しい。皆、一度、地下の一番深い証文の部屋に入れ」
とオクタエダルにしては、非常に緊張した面持ちで指示した。
「それから、証文の部屋の中央の柵の中には絶対に入るでないぞ。何もないように見えるが、入ったら即死じゃ」
ここを特に厳しい口調で言った。
続けて、
「良いか、証文の部屋の天井が崩れるか、儂が良いと言うまで部屋を絶対出てはならぬ。混沌の錬金陣に捉えられたら、無に帰すからな」
マリオリが何か言おうとする所を、オクタエダルは手で制し、
「天井が崩れた時は、逃げるのじゃ。大急ぎでシン王国へ行け。間違っても留まることなど考えるでないぞ。それからロニー、そなたは申し訳ないが、塔の防衛装置の上に来てくれ。以上、一切の質問は許さぬ。直ぐに退避せよ」
と聞く耳もたない態度で一気に宣言した。
そして、再び飛び去った。
「陛下、ここは直ぐに退避する以外ないでしょう」
と外を指さした。
空中に黒い点があり、そこに色々なものが吸い取られ、その範囲が広がって行くのが見えた。
ヘンリーは驚き、直ぐに大声で指示を出した。
「退避! 全員、地下へ退避」
◇ ◇ ◇
―――雲はあっという間に消え去り、黒い点だけが、そこにある―――
ヌマガーは、切り札が成功したことを内心ほくそ笑んでいた。あれだけ苦労して集めた賢者の石を、自分が持てる全ての錬金技術を使い、一つにし、長年研究してきた究極の錬金術式『混沌の錬金陣』を発動することができたのだから。
これなら、北の大地の魔族も根こそぎ滅ぼすことも難しくないのではないだろうか?
このまま、大図書館塔に移動させて、今回の侵攻を決着させよう。あの防衛装置を破壊すれば、アルカディアも、こちらの条件で降伏せざるを得ないだろう。
ヌマガーは、空中に術式を発生させ、大図書館塔に黒い点を移動させた。
―――点はゆっくりと移動しながら、次第に吸い込む範囲が広がっていく―――
ここで、ヌマガーは少し焦り始めた。吸い込む範囲の広がり方が早い。
味方のテントを吸い込み、倒れている死体を吸い込んでいった。ついには、馬や生きている兵までも吸い込み始めた。
そこで、混沌の錬金陣の制御をするための錬金陣を顕現させた。しかし、ヌマガーは、先程までの栄光に満ちた考えが吹っ飛び、パニックに落ちいた。
「なんで、錬金陣が吸い込まれるのだ。錬金陣は物質ではないはずだ」
何度やっても錬金陣も吸い込まれた。
―――それでも、黒い点は大図書館塔に向かって移動していく。防衛装置から、黒い点に向けて発射される光線は、何の効果もなく、首都の区画にある建物がどんどん吸い取られていく―――
◇ ◇ ◇
オクタエダルは、学園都市の最大の防衛術を発動するために、塔の最上階にいた。
「これで、混沌の錬金陣が止まるかどうか判らない」
と口に出して言った。
術式を高速提唱した。本来は数時間かかる提唱を防衛装置に仕組んだ魔法具とロニーが補い数分で発動する。
―――学園首都の大通りが光を放ち、最大の切り札である時空嵐の錬金陣が発動した。区画に有った建物が崩壊し、空中に舞い、すべてが時計回りにまわり始めた―――
◇ ◇ ◇
ヌマガーは、急いで逃げた。
それでも、退避命令だけは何とかだした。
最早何も考えることができない。
丘の上の物体がドンドンすこまれていった。魔法砲も先程空中の点に向かって、吸い込まれていった。
とりあえず、黒い点から離れる。そして、術の掛け直しだ。ヌマガーはそれを自分に言い聞かせて逃げた。
チラッと後ろを見た時、学園首都全体が竜巻に覆われ黒い点とぶつかり激しい雷と光が発生していた。
学園首都の他の防衛装置だろうか。ヌマガーも知らない。
―――移動する速度は遅くなったが、吸い込む範囲は広がっている。ついに黒い点に近い丘の上の木々を根こそぎ吸い込み始めた。土も何もかも吸い込んで行く―――
いくら錬金陣を出しても、それも吸い込まれた。
もはや制御不能。ヌマガーは頭を抱えた。
―――黒い点は広がり、そして竜巻に迫っていく。激しい雷、その雷も点に吸い込まれる。竜巻の所為か、黒い点は少しずつ上昇している―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます