第62話 開戦
「ドラゴン五体と飛空船三十機ほどが国境を超えました」
晩餐会が終わった次の日の正午のことである。
マリオリが、ヘンリーとオクタエダルそれと双子の聖霊師を加えた幹部に報告した。
「ドラゴンか、これは早いな。後二日位で来るかもしれない」
とヘンリーが言った。
「儂が統率権を王に与える。ロニー支度せい」
と言って、オクタエダルは、奇妙な形の装置の前に座り
「学園国家アルカディアの校長兼国家議長ニコラス・オクタエダルじゃ。皆の者、良く聞くが良い。今、アルカディアはローデシアからの侵略を受けたことを確認した。そして、儂、ニコラス・オクタエダルは、統率権をヘンリー・ダベンポート王に委ねることを宣言する。アルカディアにいる学生諸君、そして、各国からお越しいただいた皆様、そして市民諸君は、王の指示に従い、落ち着いて速やかにシン王国へ避難して欲しい。シン王国からも迎えが来るはずじゃ」
と学園都市全体のどこに居ても聞こえる声で答えた。
すでに、オクタエダルとマリオリが、各国の大使と打ち合わせしており、自国の賓客と学生たちを率いながら、整然と避難を開始した。学生の一部や市民がパニックになったが、ヘンリーの騎士達が急行し、なだめて直ぐに大人しくなった。
「オクタエダル先生も、退避を」
とヘンリーは、退避を促したが、
「儂が居なくなっては、アルカディアの防衛力が落ちるじゃろ」
と平然と言った。
「しかし、それでは……」
とヘンリーは言おうとしたが、オクタエダルの表情は意見を受け付ける感じでは無かった。
「それにじゃ、ここアルカディアには、ちと守らにゃいかん物があるのじゃ」
とオクタエダルは、ヘンリーに答えた。
そして、
「レミーとミリーは、先に行っておくれ。お二人は、シン王国との繋ぎにも必要じゃし、若いものを指導しておくれ」
オクタエダルは、双子の聖霊師に笑顔を見せながら懇願した。
双子の聖霊師は、しばらくじっとオクタエダルの顔を見ていた。そして、
「判った。しかし、ニコラス、無駄死にはするでないぞ」「ないぞ」
と聖霊師達は、ニコっと笑いながら答えた。
幾つかの王侯貴族たちは飛空船で、アルカディアに来ている。そこで、オクタエダルは自国やその周辺の低学年の学生を同乗を要請し、シン王国を目指して出発してもらった。双子の聖霊師達はシン王国との交渉の仲立ちを行うために名無しの術をすべて解いた。
そのため、様々な国から退避にあたり同行の申し出を受けていたが、
「我等は引退した身じゃて、我等の分、より多くの子供らを乗せておくれ」「乗せておくれ」
と全て断り、レオナ・クライムと共に第一陣の退避隊でシン王国を目指すこととした。
◇ ◇ ◇
「シェリー、
「いいえ、何処にもいないわ。さっきから魔法通信でも呼びかけているだけど、応答がないの」
ジェームズに取り次いだボーイの話しから考えると、ジェームズとヒーナに何か有ったに違いない。シェリーがちょっと泣き顔になってる。
「馬鹿野郎、泣くんじゃねぇ。まだ、なんにも判ってねぇじゃねぇか」
すると、
“シェリー、アーノルド、心配を掛けて済まない。ヒーナが拐われた。これから僕が助けに行く。兄上のところに行って、指示に従ってくれ。僕は大丈夫だ。しかし、行き先は、今は教えられない”
ジェームズからの魔法通信が、シェリーは直接頭の中に、アーノルドはブレスエッドから聞こえてきた。
“ご主人様、ご主人様”
とシェリーが、ますます泣き顔になり、ちょっとパニックを起こしている。
「シェリー、
アーノルドは、シェリーの肩を揺すった。
しかし、シェリーは、ますます、泣きながらパニック状態になっていった。
「王妃様、ジェームズ・ダベンポートは、もう立派な男です。信じてやってください」
とアーノルドは、声をさらに大きくして、シェリーに言った。
するとシェリーはいつもの冷静さを取り戻した。
「ごめん。アーノルド。ありがとう」
シェリーは下を向いて、アーノルドの胸に額と左手をつきながら、ポツリと言った。
アーノルドは、シェリーの頭を優しく撫でた。
◇ ◇ ◇
二日後
「マリオリ、避難の状況はどうだ?」
とヘンリーは、マリオリに聞いた。
「学園首都内に居た、各国賓客と学生の多くはシン王国に向かって出発が完了しました。ただ、アルカディアの北部にいた市民が、ローデシア軍に押されて、ここに向かっております」
この王にマリオリは、心酔していた。オクタエダルの後ろ盾があるのは確かだが、この二日間の適切な指示と各国の来賓客への対応は見事なものだ。来賓客には王侯貴族もいて、一筋縄には行かないが、宥めすかし、時には恫喝もする。あの王気に触れると大概の者は従ってしまう。『人たらしの王』正にその異名の通りだ。
「そのまま、シン王国に行ってもらう事は、可能か?」
ヘンリーが聞いてきた。
「難しいかと。疲労困憊な上、重傷者が多数おります」
マリオリは、続けて地図を示しながら、
「それに敵の軽騎兵がアルカディア領内の方々で、虐殺している模様。今市民だけで行かせるのは死地に送る事になります」
「分かった。先ず市民を受け入れ、休息を取らせる準備をせよ」
「御意」
伝令が、やって来た。
「ドラゴン五体と飛空船三十機が襲来。飛空船からは、強襲部隊が降下し、避難民を襲っております。確認されている避難民は、北側の一群1000人程度のみです」
「分かった。幹部とシェリー、アーノルド、それに武術の老師達を呼んでくれ。それから魔法部隊は防衛装置と連携して、ドラゴンと飛空船に対応せよと伝令」
部隊編成は、既にマリオリが済ませてある。
程なくして、アーノルドとシェリーがやってきた。
ヘンリーは机から離れ、アーノルドの方に移動して
「アーノルド、ジェームズとヒーナは、まだ連絡はつかないのか?」
「ハイ、えー、二日前、ご報告いたしました、一度連絡があったのみでございます」
アーノルドが直立して少し上を見ながら言った。
「はははは、お前、そう言う言い方をすると相変わらず可笑しいな。良い。お前はジェームズの友達で、我が配下ではない。普通に喋れ。シェリーもだぞ」
目撃者や、最後に会話したボーイの話を総合すると、ヒーナは誘拐され、犯人からジェームズ一人で、指定の場所に来いと指示があり、そこに向かったというところだろう。
「アーノルド、シェリー、今はジェームズとヒーナを探しに行けない。どうか許してくれ。そして、今はこの私に力を貸してくれ」
「勿論だぜ、俺の
シェリーは心配そうな顔つきだが、頷いた。
‘良い友を持ったな、ジェームズ’
◇ ◇ ◇
―――ドラゴンと飛空船は、周辺のアルカディア領内の拠点を無視し、学園首都へ直接向かってきた。飛空船は、一度首都周辺に着陸し、急襲打撃隊を下ろした後、再び空中に上がり、魔法光を発射し始めた。これに対し、アルカディアの防衛装置も、飛空船に強力な光の束を浴びせ、次々と撃破した。しかし、ドラゴンは光の束を直前で躱し、火炎ブレスを発射してきた。アルカディアの魔法使い達が様々な術式の防壁、魔法結界を繰り出して何とか対処している。降下した急襲打撃隊は、避難してきた市民を殺し始めた―――
「ドラゴンが厄介だな」
とヘンリーは見上げながら呟いた。
その時、横から、敵が剣を繰り出してきた。私は抜刀しているエルメルシアを僅かに動かし、敵の剣を反らし、氷の剣を発現させて、刺殺した。
マリオリは、ファイヤフレームを当てて、敵を数十人ずつ葬っていった。
シェリーのエルステラは、猛烈な速さで数秒のうちに数十人を切り、剣先から出した気によって、また数十人を串刺しにした。そして、瞬間移動してさらに二十数体を倒して行った。
アーノルドは、竜牙重力大剣を振り回し、敵を数十人づつ、肉塊にするか、真っ二つに分断していった。草を刈るように、敵の群衆を進んでいった。
ケイとサンが二刀のタガーを構えて、高速で走り抜けると血しぶきが巻き起こり、敵が倒れていった。
「皆、驚きの強さですね。守るものがあると数十倍強くなることの証明ですね」
レン老師が驚愕しながら、自身も次々と敵を切り伏せていく。
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