第57話 兄弟の再会
―――峠を登りきると、南側に開けた平地。地平線の向こうには海のきらめきが僅かに見える。南半球に位置するアルカディアは、ようやく春の足音が聞こえて来たばかり。
平地の中央付近に聳える、青と白の壁に時折、緑の光が灯るのは、アルカディア大図書館塔。その頂上にはロッパ大陸全土に魔法通信網を張り巡らせるための装置と防衛装置が異彩を放っている。大図書館塔を中心に八方向に大通りが外側に向かって延び、八つの区画を繋ぐ横方向の大通りが見える。理路整然とした大通りとは対象的に各区内は、おもちゃ箱をひっくり返したように様々な形の家や建物が雑多に並び小道はさながら迷路のようだ。そして、上空から見れば、大通りが蜘蛛の巣の様に見える学園首都は、それ自体が魔法陣となっている―――
懐かしい、アルカディアの学園首都に帰ってきた。青春を過ごした、この街が僕はとても好きだ。
雑貨屋をファル王国に開業するために学園首都を出て、まだ、一年しか経っていないのに、この旅の出来事は十数年の月日が経過したように思わせる。
僕とシェリー、アーノルド、ヒーナ、そして双子の聖霊師、メリルキンは、アルカディア到着を知らせるために、オクタエダルの部屋に向かった。
メリルキンがノックをして、双子の聖霊師から入っていった。
「いや、今朝から、何やら楽しげな胸騒ぎがする訳じゃ。ミリーとレミーが来られるとは、これは、これは」
とオクタエダルは、僕も見たことがない笑顔で二人を迎えていた。
「久しいの、ニコラス。達者じゃったか? 今我等は昔できなかった旅をジェームズと共にやっておる。楽しいぞ」「楽しいぞ」
と双子の聖霊師達は、オクタエダルにこれまた楽しげに答えた。
それを見たアーノルドは、
「曾祖父さんと孫みたいに見えるが、話し方は老人クラブだな」
と余計なこと言って、オクタエダルから、固まった空気を頭に落とされていた。
「ミリーとレミー、儂らの積もる話はちょっと保留じゃ。若い奴らの話を先に聞こうと思うぞ」
とオクタエダルは聖霊師に言っていた。
「では、我等は奥におられる、お方にご挨拶しておる」「しておる」
と妙なことを言って奥の錬金術の実験室に移動していった。
「師匠、どなたか、先約がいらっしゃたのですか?」
と僕は聞いた。
「まあ、そう焦るでない。まずは儂の喜びを伝えさせておくれ。ジェームそして、アーノルド、そして、ん? シェリー、それにヒーナ、良く帰ってきたな。嬉しく思っておるぞ」
そう言って、僕たち一人ひとりを見回して、
「どれ、その剣は新しく作ったのか?」
とオクタエダルがシェリーの背中のエルステラを見つけて言った。
「はい、シェリーのために作りました」
と僕が言っている横から、シェリーがオクタエダルにエルステラを渡した。
シャー
―――鞘から剣を抜く音―――
クワ―ン
―――剣がしなる―――
オクタエダルは剣先を上にして、
「エルステラ、『祝福の大地』、良い名じゃ」
呪文を提唱すると、エルステラが白く光った。
「して、芯は土竜の髭か、しかしこの材料は何じゃ、儂も見たことがない」
とオクタエダルは剣を弾いた。クワーンと音がした。
「化石化した聖霊樹です」
と僕は答えた。
「それは珍しい。この製法は、そんじょそこらの錬金術師では再現できんじゃろうな」
とオクタエダルは剣をしまった。
「良い剣じゃ。シェリーにピッタリと言うか、シェリーにしか使えこなせない剣じゃな」
とシェリーに返した。
オクタエダルは僕に向き直り、
「さて、ジェームズ、おめでとう。儂の出来すぎた弟子が、栄えあるアルカディア魔法学賞をその年齢で受賞するとは、誠に驚きとともに、喜ばしいことじゃ」
と言いながら、僕の右手を両手で取って、トントンと叩いた。
そして、
「今日はもう一つ、喜ばしいことがある。王よ、こちらへ起こしくだされ」
僕は王と聞いて、何か不思議な感じがしてきた。
そして研究室の方、双子の聖霊師の前に一人の男が立っていた。年のころは、僕より少し上で、僕と同じ金髪で、父上に似ている。
「兄上?」「皇太子殿下!」
と僕とアーノルドは、同時に声を出した。
そして駆け寄り、手を取った。
「ジェームズ、アーノルド、見違えたぞ。良く無事で居てくれた」
「兄上こそ、崖から落ちて、もう……駄目かと」
アーノルドは、片膝をつき、男泣きに泣いていた。
ヘンリーはそんなアーノルドを立たせて、
「アーノルド、良くここまでジェームズを守ってくれた。ありがとう」
とヘンリーは、アーノルドの肩を叩きながら労をねぎらった。
暫く、頷き合い、肩をたたきあった。
◇ ◇ ◇
その後、シェリーとヒーナを紹介した。そして僕は、兄上からエルメルシアを受け取り、シェリーに渡した。シェリーの胸が仄かに光り、剣も仄かに光った。
シェリーから、剣を受け取り、
「僕が命ずる。その真価を現せ」
と呪文を唱えた。
すると、エルメルシアが青く光った。
「流石だな、オクタエダル先生が唱えた同じ呪文を唱えるとは」
とヘンリーは驚いていた。
その後、少し広い中庭に移った。そこには、装備は、マチマチだが、整然と並んだ二十名ほどの騎士団がいた。
ヘンリーが、その前列に並んでいる四人を紹介してくれた。
「こちらから、ローレンス・マリオリ、レオナ・クライム、サン・ユアンジア、ケイ・ユアンジアだ。私に付いて来てくれる者たちだ」
こちらもアーノルド、シェリー、ヒーナを紹介した。ヒーナは僕の婚約者として紹介したらヘンリーが目を丸くして、祝福してくれた。
聖霊師達は、多分紹介しても名無しの術で、忘れ去られるし、オクタエダルと話し込んでいた。
「マリオリ様と言うと大賢者のマリオリ様ですね。お会いできて光栄です」
「いやいや、お恥ずかしい。当代記っての大天才と称されるジェームズ・ダベンポート様にその様に言われては、穴に入りたい気分です。それに『様』はご勘弁を。ローレンスで結構です」
「こちらこそ、僕の方が、ずっと若輩者ですので、ジェームズとお呼びください」
と僕たちが話している横では、
「お手合わせを」
と、また武闘派の方々の交流が始まっていた。
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