受賞式

第56話 アルカディアへ


 そろそろ、アルカディアへ向けて、出発しないとオクタエダルから雷を食らってしまう。ゲンコツとかではなく、本当に雷なのだ。


 サキュバス事件と、その後、ヒーナと遊びすぎたため、エルステラを製作してから二週間たった。多少は、商談をしたが、僕はヒーナのために指輪を作って、ヒーナは薬を調合した後は、二人だけで散歩したり、ベットで遊んでいた。

 僕が作った指輪を贈ったあと、ヒーナはミソルバ王妃と、共に飛空船で、先にアルカディアに向かった。


 アーノルドとシェリーはと言うと、いつも対練している。

「アーノルド、あれは、あなたを救うための、一時の気の迷いです。大体、気が狂っていても、ご主人様に剣を向けるなど以ての外。私が叩き直して差し上げます」

とシェリーは言ってのけた。


 アーノルドは

「はい、はい、また娼館にでも行ってきますよ」

と言って、シェリーをさらに怒らせて喜んでいる。


   ◇ ◇ ◇


 僕とシェリーとアーノルドは、コロン車で、双子の聖霊師を迎えに行った。

 双子の聖霊師が、シェリーを見た時、何やら相談し始めた。


「シェリーは、本当にお主が創造したのか?」「したのか?」

と妙なことを聞いてきた。多分シェリーの体調の変化に気づいたのだろう。


「僕も驚いています」

「むむ、生命とは深遠なるものよのぉ」「よのぉ」

と聖霊師たちは、首を振りながら答えてくれた。


 そして、今度はアーノルドを見て、また、相談し始めた。

 そして、アーノルドに向かって、


「がんばれよ」「がんばれよ」

とだけ、言っていた。


 シン王国からは、ロン大河を船で、途中まで行けば、早く着くし安全だ。聖都を堺に南半球に入るため、初春に到着することになる。僕たちはコロン車を急がせて出発した。


   ◇ ◇ ◇


 オクタエダルの部屋は、昔のままだった。大きな机と大きな椅子、その後ろに窓があり、右手にも小さな窓がある。まだまだ寒さが厳しい、この頃は、小窓の横の暖炉に薪が焼べられ、炎が揺らめいている。そして、右側の本棚には所々に石や金属や木が置かれ、その更に奥の部屋には錬金術の道具が置いてある。紅茶の匂いと、実験室の匂いと本の匂いが漂っている。


「オクタエダル先生、お久しぶりです」

ヘンリーはオクタエダルの部屋に入り、挨拶をした。


 オクタエダルは、大きな椅子から立ち上がり、両手を広げて、歓迎の意思を体いっぱいにあらわして、私を迎えてくれた。


「マリオリ殿から、事情を伺った時は、儂も驚いたぞ」

と私の両肩に手を載せて、少し揺らしながら、


「そなた、いや王の無事は信じおったのじゃが、こうして立派になった、王の姿を見てさらに驚きじゃ。王は、良い苦労をされたと感じる」

とオクタエダルは、言ってくれた。


「いえ、お恥ずかしながら、まだ何も成し得ておりません」

と頭を掻きながら、私は答えた。


「王の、その王気は、尋常ではないようじゃ。マリオリ殿がそなたに臣下の礼を取ったのも頷けると言うものじゃ」

とオクタエダルは、励ましてくれた。


 それから、私はあの丘で突き落とされた後の事を話し、オクタエダルはジェームズとアーノルドを助けたときの事、無数の光る魔法虫に変わった母上のことを話しくれた。


 そして、私は、エルメルシアをオクタエダルに手渡して、父上と母上の加護があることを話した。

 オクタエダルは、エルメルシアの古代文字と、そして、ダベンポート家の紋章を確かめたあと、剣先を上に向けて呪文を唱えた。


 すると、剣は青色に輝いた。


「確かに、マリーとアイザックの思いを感じるぞ。マリーはそなたを守りきり、アイザックと再会を果たしたのじゃな」


 そして、剣を私に戻しながら、


「王よ、その古代文字 エルメルシアの意味をご存知かな?」

と聞いてきた。


「恥ずかしながら、浅学非才の身ゆえ知りません。どうかご教示いただければと思います」


「ふむ。魔法使いではないのじゃから、知らんで当然じゃ。『エル』は祝福、『メルシア』は、水じゃ。つまり『祝福の水』という意味じゃな。マリーの得意とする氷の魔法と出会うのも、奇遇な縁じゃな」

と説明してくれた。


 そして、

「明日あたり、ジェームズとアーノルドも着くであろう。魔法便がやって来た故な。受賞式まで少し時がある故、兄弟主従、そして今の新しき仲間たちと、得と語り合うがよかろうぞ」

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