第55話 謎の館

 あるじ達が、部屋に上がった。また、あの館に行きたくなる。不味いと思っても、心も体もあの女を欲してしまう。


 そして、やはり足は、フラフラと館に向かっていく。


―――王都から少し離れた場所、暗い森の中の一軒家。門は壊れてすでに扉がない。月が煙突の後ろに掛かり、館のシルエットは山のようだ。2階の一室だけに明かりが点いている―――


 俺は屋敷の扉を開けて入った。


 その女が抱きついてきた。甘い花のような吐息で判る。

「今日も来てくれたのね。ありがとう」

と口づけをしてきた。


「昨日みたいに、ここでやってもいいわよ」

と女はすでに一糸纏わず、すり寄ってきた


   ◇ ◇ ◇


「いい、ジェームズ。サキュバスには近づいちゃだめよ。男は幻覚を見せられるから。離れた場所から、矢で仕留めて」

とヒーナが僕に注意してきた。


「解っているよ。大丈夫」

と僕は答えた。


「それから、インキュバスが居たら、真っ先に仕留めて頂戴。でないと・・・不味いことになるわ」

とヒーナはちょっと下を向いて、念を押した。


「シェリー、いくわよ」

と、館の扉をバンと開いた。


 そこには、裸のアーノルドと、しっぽと羽の生えた女の魔族がいた。


 その魔族は、シェリーとヒーナを睨みつけたが、顔に憂いがでて、窓から逃げようとする。


 シェリーが瞬間移動で、女の魔族の背中に現れ、足の裏から発勁をしようとした瞬間、アーノルドが、竜牙重力短剣を振り重力波をシェリーに当てようとした。


「何するの、アーノルド!」

シェリーは、大声をアーノルドに浴びせた。


「無駄よ、シェリー。アーノルドは幻覚を見せられているの」

ヒーナは、シェリーに簡単に説明した。


 その隙きを見て、女の魔族は、外へ出た。

 本当の狙いは、ジェームズである。


 女の魔族はジェームズに近付こうとするが、ヒーナが予め、ジェームズに言って張らせておいた魔除けの結界のために近づけない。


 アーノルドが窓を突き破って外へ出てきた。


 アーノルドには、雄のゴブリン1体と雌のゴブリン2体が、あの愛しい女を追いかけているように見える。


 シェリーとヒーナも外へ出て、シェリーは、アーノルドに剣を浴びせた。


 アーノルドはいつもの大剣ではないが、互角に闘っている。


「ジェーズム、女の魔族を矢で射って!」

とヒーナが叫ぶ。


 しかし、ジェームズには、そこには美しい女が一糸纏わぬ姿で、恐れているようにしか見えない。


「ったく、男ってのは」

とヒーナは、ジェームズに近づき、口づけをした。


 すると、ジェームズにも羽の生えた、女の魔族が見えた。


 アルケミックコンパウンドボーを構え、時空矢を射った。


 ところが、その瞬間に合わせて、アーノルドが重力波を放ち、時空を若干変化させたため、矢は羽に当たった。


「何しやがる、ゴブリン! 俺が相手してやる」

とアーノルドはシェリーの攻撃を躱しながら、ジェームズとヒーナに近づく。


「アーノルド、正気に戻れ」

とジェームズが叫ぶが、


 アーノルドには

「お前を殺して、あの女は玩具にしてやる」

と聞こえる。


「アーノルド! 許しません」

とシェリーがエルステラで気を放った。しかしそれを竜牙重力短剣で受け止めて、


「おめえぇは、あの雄の後だ」

とジェームズにどんどん近づく。


 ジェームズには、アーノルドが射てなかった。空気壁も作れなかった。


 そして、アーノルドは、ジェームズの前まで行って


 短剣を振り上げた。


 シェリーが瞬間移動でジェームズの前に出て、止めようとする。

 ジェームズはヒーナを庇う。


 振り下した。


 その短剣は、アーノルドの太ももに刺さった。


あるじ、悪いぃ。ちと具合が悪くてよ」

と言って、短剣を抜き両膝を着いた。


「シェリー、あっちは頼む、俺、近づくと狂っちゃうんだ。ただ、何で俺に謝るのか聞いてくれ」


 シェリーは、アーノルドの最後の話が見えないまま、頷き、瞬間移動で女の魔族のところに移動した。


   ◇ ◇ ◇


「サキュバスは失敗した。頭領が言っていた第二プラン実行だな」

と離れた場所から見ていた影の一味が、魔法でサキュバス諸共、ジェームズ一味を吹き飛ばす準備を始めた。


   ◇ ◇ ◇


「おい、お前、アーノルドの話が聞こえたろ、質問に答えろ」

とシェリーは、エルステラを女の魔族の喉元に当てて、尋問した。


「私はもとはローデシアの普通の少女でした。何十人もの少女と一緒に女の魔族に攫われて、魔族の王に貢がれました」

その女の魔族は、少し涙目になって話し始めた。


「そこで、何日も何日も、その王に犯され、他の皆は死んで食べられました。私だけが、この通り、女の魔族に変わってしまった」

項垂れて、涙を流した。


「そして、何人もの人属を騙して、破滅させて来たの。だから、謝ったの。・・・もう止めたい」

とその時、火炎術式が地面に描かれた。広い範囲の火炎なので、玄武結界も効かない。


「シェリーこっち来て」

とジェームズが呼び、時空矢を8本の矢を打ち


「僕が命ずる。この地に設置された火炎術式を無効にせよ」

と炎が現れたその時無効化した。


「きゃー」

女の魔族の所には、別の術式が展開され、氷の柱が地面から出て、突き刺さっていた。


 氷の柱が、次々と地面から出てきて、こちらに向かってくる。


 僕は空気壁を作り、防ごうとしたが、一部間に合わなくて、こちらに向かってくる。


 アーノルドが竜牙重力短剣を一閃させ、重力波で一部を破壊し、シェリーもエルステラの先から気を出し、破壊した。


“シェリー、奴らの居場所は判らないか? ”


“多分この辺りです”

と位置情報を送ってきたが、時空矢ではまだ範囲が広く射抜けない。


そこで、拘束水を降らせて、拘束を試みた。


「うあ」

と声がした。次の瞬間、大爆発が起こった。


‘爆死? いや違う。口封じにさらに他の誰かに殺されたんだ’


 それから、

 僕たちは、女の魔族に近づいた。もう呪いの力は残ってない。


 女の魔族は、

「アーノルド、ごめんなさい。私、あなた達が羨ましい」


「おい、お前の本当の名前は?」

アーノルドは聞いた。


「リリイ・・・・お願い、あなたを愛している人の口づけを受けて」

アーノルドは戸惑った。


 シェリーが、尽かさず、アーノルドの顔を両手で持って、口づけを交わした。


「良かった。これで、私の呪いは消えるわ。ありが・・・と・ぅ」

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