第54話 女の勘

 朝、俺は宿で目を覚ました。

 どうやって帰ったのかは、思い出せないが、女を家に送った後、何をしたかは鮮明に覚えている。かなり激しい夜だった。


「ごめんなさい。また、明日も来てね」

と女が言っていた。なぜ謝っているのか判らない。


 俺は起き上がって、この気怠さを払うために、竜牙重力大剣を持ち出し、宿の庭で振った。

 一頻り、朝のトレーニングをして、水を浴びて、宿の食堂に行った。


あるじたちは、お茶を飲んでいた。


「よっ、あるじ、朝、早えぇな」

と声を掛けた。


 すると、ヒーナとシェリーが、嫌な顔をした。


 俺は、昨夜のことがバレたのかと思って

「どうした、シェリー」

とさり気なく聞くと


「いえ、なんか、あなた、嫌な感じというか匂いというか」

顔をしかめながら、言ってきた。


「ええ、俺ちゃんと水浴びしたぞ。汗臭くねぇはずだけどな」

と自分の匂いを嗅ぎながら喋ると、今度はヒーナが、


「汗の匂いじゃないのよ。なんか、頭に来る匂いというか、雰囲気」

「そうそう」

女たちが、顔を見合わせ頷いた。


「僕は何も感じないけどな。ん? なんか良い匂いがする」

とジェームズはクンクンしながら言った。


「えーなんで」


 この日の朝は、ちょっと腹立たしいが、なんとなく、後ろめたい始まりだった。

 そして、夜が待ち通しかった。


 主たちが、部屋に上がるのが、もどかしい。


 そして、今夜もあの女の家に行った。

 やはり、帰り際に謝られた。


   ◇ ◇ ◇


 その次の朝も、気怠い。いや昨日より気怠い。まあ、2日続けてあれではそうなるか。


 やはり、シェリーとヒーナに嫌な顔をされた。


 その日の昼は何をするにも、手が付かない。

 夜の行為が、フラッシュバックで蘇る。


 剣を握るもの億劫になってきた。集中できないのである。

 あられもない、あの女の姿、考えられないような行為、何かをするたびにフラシュバックする。


   ◇ ◇ ◇


 シェリーは、ヒーナに相談した。

「アーノルド昨日から、おかしいと思いませんか? 私の感だと、あれは女だと思います」

シェリーは、ちょっと悲しい顔で言ってきた。


「私もそう思ったけど、人属の女じゃないわね」

とヒーナは言った。


「えっ、とすると」

シェリーは大図書館に繋ぎ、症例を検索し始めた。


「シェリー、検索するまでもないわ、あれはサキュバスよ」

とヒーナは答えた。


 伊達に薬剤の錬金術師はやっていない。


 シェリーは直し方を検索した。

「呪いを治すには、呪いを掛けたサキュバスを殺し、その人を愛する人の口づけ? 」


「そうね」

とヒーナは答えた。


 シェリーは狼狽えている。


 ヒーナは続けて、

「シェリー、あなたよ。あなたしかアーノルドを正気に戻せないわね。このまま、サキュバスと交わっていると、アーノルドが、魔族化してしまうわ」

腕を組み、薬学の先生のように宣言した。


「交わっていると・・・・」

とシェリーは、顔を赤くした。


「そりゃそうでしょう。お飯事おままごとしたって、男を籠絡できるわけ無いじゃない。サキュバスが男とすることは1つじゃない」

この辺りは、ヒーナの方が先輩だ。


 愛する人の口づけと言われても、シェリーには自分がホモンクルスという引け目がある。


「私は、ホモンクルス・・・・」

「あら、ホモンクルスと錬金術師のカップルの例なんて沢山有るわよ。それにあなたは、他のホモンクルスとは違うと思うわ。実際アーノルドを愛しているでしょ?」

とヒーナはキッパリと言った。


 シェリーは、下を向いて頷いた。


「後、インキュバスがいると私達が不味いわね」

とヒーナは言った。


 シェリーは、大図書館で調べて、また赤くなった。

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