ジェームズとヒーナ

第47話 ヒーナと再会

「やあ、ヒーナ。会えるのはアルカディアで、と思ったけど、結構早かったね」

と僕はヒーナに聞いた。


 ヒーナにはミソルバ国のダベンポート雑貨 第一号店の店長をしてもらっていたが、僕がアルカディア魔法学賞の受賞式に招待した。そこで、僕たちがミソルバからシン王国経由でアルカディアに行くことは伝えてあった。


「ソーラル王妃様と一緒に来たの。だから、飛空船に乗せてもらって、直接シン王国に来たのよ。私、飛空船初めて乗ったわ。大鳥より、快適ね」

とヒーナはちょっと、息を切らしながら喋ってくれた。


 ―――飛空船は大陸間の移動で使われる事が多いが、王侯貴族は大陸内での移動にも利用している。まだまだ、一般人が乗れる乗り物ではない。

 また、アルカディアの魔法使いは、授業の一環で大鳥に乗る訓練をしているが、大鳥の飼育には、かなりの費用がかかるため、個人で持つ例は少ない。アルカディアでは学園都市を上げて、飼育に取り組んでおり、アルカディアの分室館間の移動にはよく使われている。―――


「そうなんだ。じゃミソルバからの受賞式出席は、ソーラル王妃様だね」

ヒーナの背中をさすりながら、聞いてみた。


「ええ、エレーナ王女様も一緒。あと、店は、寄越してくれたトムが、粗方整えたわ。貴方のホモンクルスは、どの人も優秀ね」

ヒーナの息が戻って、普通に喋り始めた。


「トムは、商売と経営に特化した能力を持っているからね。戦闘力は、素手でも君より劣るよ」

と僕が答えると


「ん? なんか引っかかる言い方ね。喧嘩売ってるの?」

と怒った感じでヒーナが答えた。


「いや、いや、いや、そんなことはないです。はい」

と僕は両手を上げて答えると、ヒーナはニッコリと笑って、抱きついてきた。


 僕もヒーナを優しく包んだ。


「はいはい」

とシェリーと対練の最中のアーノルドが、呆れた声をだし、


「アーノルド、こっちに集中しないと、ふっ飛ばすわよ」

とシェリーは言っていた。


   ◇ ◇ ◇


 その日の夕方、メリルキンがシン王国で、ちょっと、オシャレだけど、あまり堅っ苦しくない店に連れて行ってくれた。

 ヒーナと僕たち三人、双子の聖霊師は、この店自慢の料理、それにメリルキンが特別に作るメインディッシュに舌鼓を打ちながら、楽しく過ごした。


 夕食も後半になってくると、それぞれ、思い思いの過ごし方で楽しんでいた。


 双子の聖霊師とアーノルドが飲み比べをしている。

 アーノルドは、もう、ヘベレケになって、呂律が回ってない。一方、聖霊師達は、両手でコップを抱えて飲む仕草の通り、子供がジュースでも飲んでいるかのように、シラフと全く変わらない。


「これ、狼の末裔よ、案外弱いの」「弱いの」

と言って、喜んでいる。


 シェリーとメリルキンは、料理の作り方や、剣術のやり方などの情報交換をしていた。


 ジェームズとヒーナは、手を握り合って、学生のころの話しや錬金術のことなどを喋っていた。


 それを見たアーノルドは、


「ちぇっ、あるじたち、また、イチャツイてるぜ。まあ、ヒーナとはそう言う仲だってのは、先刻ご承知ですけどねー、ヒック」

と赤い顔で言っている。


「これ、狼の末裔よ、焼くでない。人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるぞ」「られるぞ」

ニコニコしながら、聖霊師達はアーノルドに話しかけていた。


「判ってます。判ってますって。判ってますよーーー」

もう、狼ではなく虎だ。


「ところで、狼の末裔には意中の者はおらんのか?」「のか?」

と聖霊師が、グラスを両手で抱えて聞いた。


「あん、ヒック、意中? 意中ね、いませんよ、いません。ヒック、お兄さんもう一杯頂戴」

とアーノルドはコップを片手に誤魔化したが、ある一点をチラッと見た。ほんの一瞬。


「おお、そうか、しかし、意外じゃが」「じゃが」

と聖霊師は、アーノルドのほんの一瞬の想念を見過ごさなかったが、二人で相談し始めた。


 そして、

「まあ、我等も人の恋路を邪魔するほど無粋ではない。頑張れよ」「れよ」

と言って、二人同時に両手で酒を飲み干した。


   ◇ ◇ ◇


 僕とヒーナは、少し静かなところへ移っていた。

「ねえ、ヒーナ。支店一号店は、開業にこぎ着けたら、本店の方に来ない?」

「あら、それって、プロポーズ?」

とヒーナが真顔で、言ってきた。


 ちょっと僕は目を泳がせて、


「うん、まあ」

「あら、そこで目を泳がせたら駄目じゃない。いつものドヤ顔で言ってたら良いのに」

とヒーナは若干不満げに言った後、僕の正面に向き直り、


「社長の業務命令となれば、逆らえません」

と声を少し低くして言った。


「えっ、そんなんじゃ……」

と煮えきれない回答しかできない僕に対して


 ヒーナは満面の笑みを浮かべて

「良いわ、有難う。私、とっても嬉しい」


 僕が世界で一番大好きな笑顔で答えてくれた。


 僕はヒーナを抱き、口づけを交わした。


 そして、僕はヒーナとの楽しかった学園生活を思い出していた。

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