第38話 聖霊師の正体

「じゃから、ミリーとレミーで良いと言っておるのじゃ」「じゃ」


 三人は楽しそうに話しながら、僕らの居る亭にやって来た。


「へー、子供ババァーズの名前って、ミリーとレミーって言うんだ。初めて知ったぜ。あるじ、知ってたか?」

すると、タン老師は眼光鋭く、アーノルドを見ている。


 そして、双子の聖霊師は、出された冷たいお茶を両手に持って、

「狼の末裔は、粗忽者ゆえ、しっかりと稽古をつけるのが良かろう」「かろう」


「了解仕る。喜べ、アーノルド、お二方のご配慮、ありがたく頂戴するのだぞ。シェリー殿も来られませい」

とタン老師は何故か張り切って、アーノルドを引きずり、シェリーを伴って道場に向かっていった。


「アレシオーネ、ご姉妹と伺いましたが、先代のシン王国、聖教会最高司祭様でしょうか?」


 僕は、二人がいなくなったところで、双子の聖霊師に聞いた。

 多分、アーノルドとシェリーを連れたいったのは、タン老師の忖度だろうと思った。


「まあ、その通りじゃ。これまで名告らんで悪かったな。ほれ、お主なら、このとおり、立ち所に調べるであろう」「あろう」

と言いながら、二人は冷たいお茶を飲んだ。喋り方とは裏腹に、両手でコップを持って飲む姿は、見た目も仕草も、小さな女の子が飲んでいる感じだ。


「我等とタンとニコラスは、アルカディアの同期だったのじゃ」「のじゃ」


‘えっ、四人の年齢は幾つなのだろう。‘ 

と思ったら、二人にチラッと見られた。


「まあ、年齢のことはどうでも良い。我等は、タンやニコラスが羨ましかったのじゃ。彼ら二人は卒業後も修行や研究、探索とか世界中を旅しておった」「おった」

また、二人同時に茶を啜る。


「それに引き換え、我等は生まれた時から、役目が決まっておった。卒業したら、すぐに修道会に連れて行かれて、また、修練の日々じゃった」「じゃった」

二人は顔を見合わせて、頷きあっている。


「そして、その役目も、もう引き継いで、今度は我等も旅をすることにしたのじゃ」「のじゃ」

僕は頷いて、相づちを打った。


「でもな、引退しても、名前が教会に知られると、挨拶とかが多いのじゃ。鬱陶しいので、名無しの術を掛けていたということじゃ。ゆるせ」「ゆるせ」


 僕は、

「術のことは、お気になさらず」

とだけ、言った。


「じゃから、我等のことは、これまで通り双子の聖霊師と呼んでおくれ、狼の末裔は、子供ばばぁーずでも構わんよ」「構わんよ」


 僕は、苦笑いをしながら、

「解りました。これからも、よろしくお願いいたします」


「それは、我等の言葉じゃ。さぁ、狼の粗忽者が、どの様に稽古を付けてもらったか、見に行こうではないか」「ないか」


 僕たちは、道場のある方に向かった。道場から聞こえる声はシェリーのものだった。


 中を見ると、アーノルドは、大の字に寝て、大きく息をしている。聖霊師には、亭に居るときにすでに判っていたようだ。シェリーを見ると、シン王国式の剣を持って稽古をしていた。タン老師は、ちょっと長めの棒を持っているだけだ。


 シェリーが時折、

「はっ」

と気合を入れた声を発していて、


 タン老師は、時折、

「うん、良いぞ、そうだ」

と言いながら、稽古をしていた。


 多分、シェリーは一昨日のスモールソードの女の剣に対抗するためにも、剣の稽古をしていると僕は思った。

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