第34話 アルバ海運都市

 僕たちが、アルバに着いたのは、ロッソ村を出てから数十日後だった。魔物狩り、薬草採取をしながらにしては、早く着いた。ここは海に面して、気候がエルメルシアに似ているので、何となく懐かしい気分になる。ただ、エルメルシアは西の端、ここは東の端だけど。


 ―――アルバ海運都市は、シン王国の教会聖都に続く、ミクラ大河の河口にある。東側沿岸の村や小都市からの物資は、一度ここに集積されて、川船に積み替えられ聖都に運ばれる。つまり物資の中継地点として、動乱前のミソルバ王国王都と並んで、商業が非常に発達した都市の一つである。シン王国は、教会聖都につづく大河を非常に重要視しており、大河及び大河周辺は徹底的に魔物が排除されている。―――


あるじ、それじゃ、ちょっくら、タン老師のところに挨拶してくっから。明後日あたり、あるじが来るって言っておくぜ」

「ああ、そうすると、よろしく伝えてくれ。君が教えてくれた宿で落ち合おう。師弟で積もる話もあるだろうから、ごゆっくり」

「おぅ」

僕たちは、子供の頃からしている、お互いの腕をぶつけ合う、挨拶をして別れた。


 タン・ユアンジア老師は、剣術、特に双手剣の達人でアーノルドが教えを請うた人だ。アーノルドも久しぶりの再会を心待ちにしていたようだ。


「さぁ、シェリー、僕たちも商業組合長のところに行くとするか」

「はい」

「聖霊師様はどうされますか?」

と僕は瞑想をしていた聖霊師に聞いた。


「そうじゃのー、我等は、ここは良く知っておるし、教会の奴らに見つかると面倒じゃから、悪いが宿に着くまでは、このコロン車の中で瞑想して、待っておるわい」「おるわい」


 ロッソ村の件で異端審問官が来た時、この双子の聖霊師を見た審問官達は平伏していた。聖霊師は、それを何も言わず、迷惑そうに手で追っ払っていた。聖教会の司祭は聖霊師が多いが、もしかしたら双子は名のある人なのかもしれない。


「解りました」

と答えると、双子の聖霊師が僕の目を見て、

「ところで、お主、ちと気をつけよ。先程から誰かが悪意を向けておる」「向けておる」


 僕には全く判らない。人属が多すぎて結界を張るわけにも行かないしな。


僕はシェリーに向きなり、

「シェリーは、何か感じる?」

「時々、非常に小さい闘気と怒気を感じますが、街の雑踏に紛れてしまいます」

シェリーは首を傾げながら答えた。


   ◇ ◇ ◇


「いやー、ダベンポート殿、遠い所よくいらっしゃいました」

僕は、満面の笑みを浮かべながら、目が笑っていない商業組合長に面会した。


 目的は、支店第二号店を、アルバに作るための条件を聞くことと、真珠の買い付けについてだった。

 しかし話をして聞いてみると、アルバは、色々な商人が店を出すことを希望していて、競争が激しく、家賃が高い。それに加え、組合料が結構バカにならない事が解った。第二号店はしばし保留だな。真珠の買い付けについては、何件か商人を紹介してくれたので、そこに行くことにした。海沿いでコロン車では行けないということで、シェリーと二人で歩いて行くしかなさそうだ。

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